みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0772「無記名」

2020-01-11 18:10:22 | ブログ短編

 百合子(ゆりこ)は垣内麻美(かきうちあさみ)に呼(よ)び出された。数日前にも彼女に呼び出されていた百合子は、嫌々(いやいや)ながらも会いに行くことにした。麻美はちょっと悪(わる)ぶっているところがあって、クラスのみんなからも敬遠(けいえん)されている存在(そんざい)だ。麻美は百合子を見つけると駆(か)け寄って来て、彼女のえり首(くび)をつかんで言った。
「あんた、どういうつもりよ。なんで、吉田(よしだ)君と付き合っちゃってるの!」
 百合子にはまったく身(み)に覚(おぼ)えのないことで、首を横に振って否定(ひてい)した。けれど麻美には通じないようで、今にも殴(なぐ)りかかりそうな形相(ぎょうそう)である。麻美は絞(しぼ)り出すように言った。
「あの手紙(てがみ)、ちゃんと渡(わた)してくれたんだよね。それなのに、どうして…。あたしの気持ちを知ってるくせに、よくこんなひどいことができるわね」
 百合子は必死(ひっし)になって答えた。「ちょっと待ってよ。わたし、付き合ってなんかいないわよ。手紙だって、ちゃんとあなたの代わりに渡したじゃない。吉田君だって、あの手紙があなたからだって分かってるはずでしょ? 名前(なまえ)が書いてあるんだから…」
「名前? 名前って……」麻美は何かを思い出したように息(いき)を呑(の)んだ。
「えっ? 名前、書かなかったの? そんな…、それじゃダメじゃない」
「そ、そんなこと…。だって、ラブレターなんて初めて書いたんだから、そこまで…」
「じゃあ、吉田君、わたしからのラブレターだって思ってるわけ? そんなの困(こま)るわ。わたし、全然(ぜんぜん)好きじゃないのに。今からすぐに訂正(ていせい)しましょ。ちゃんと吉田君に――」
<つぶやき>名前は大切(たいせつ)です。書き忘(わす)れないようにしないとね。気になるのは吉田君よね。
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