娘(むすめ)は、不機嫌(ふきげん)な顔つきで父親を睨(にら)みつけて言った。
「パパ! パパは、あたしのこと、捨(す)てるつもりなのね」
父親は慌(あわ)てて否定(ひてい)して、「そうじゃない、そういうことじゃないんだよ。お前も…、もう二十歳(はたち)も過(す)ぎたことだし、そろそろ自立(じりつ)してもいいんじゃないかと…」
「で、あたしを追(お)い出して、あの人と再婚(さいこん)するんだ…。そんなの、絶対(ぜったい)許(ゆる)さないから」
「だから…、パパは、再婚なんてまったく考えてないから…。お前の将来(しょうらい)のことを…」
「あたしがパパを選(えら)んだのは、ママよりお金を持ってたからよ。パパのすねをかじるのはあたしだけなんだから…。パパ、言ったよね。あたしのためなら何だってするって」
「そりゃ、確(たし)かに言ったよ。でもな、パパのすねは、そんなに太(ふと)くないんだ。だから…」
娘は預金通帳(よきんつうちょう)を突(つ)きつけて、「これは何よ。こんなにお金を貯(た)めて、どうしようっていうの? あたしには無駄遣(むだづか)いするなって言ってるくせに」
「お前…! それを、どうして…? それはな…、あの…」父親は言葉(ことば)につまった。
娘は勝(か)ち誇(ほこ)ったように、「これが証拠(しょうこ)よ。あたしを追い出そうとするなんて、百年早いわ。いい、あたしは家を出たりなんかしないから。これからも、すねをかじり続けてやる」
「お前…、どうしてそんな娘(こ)に…。その金はな…、お前が結婚(けっこん)するときに持たせてやろうと、コツコツと貯めてきたものなんだ。…とりあえず、返してくれないか?」
<つぶやき>どこかに陰謀(いんぼう)が隠(かく)れている。本当に親子なのか、そしてどういう金なのか…。
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