とある学校(がっこう)に、まことしやかにささやかれている噂(うわさ)があった。それは、放課後(ほうかご)、校内(こうない)に一人でいると、どこからともなく影男(かげお)が現れるというものだ。姿(すがた)ははっきりしないが、まるで影のように忍(しの)び寄って来るらしい。いつ、誰(だれ)が言い始めて、どうして今もこんな噂がささやかれるのか? それは、今だに影男が現れているからだろう。噂では、影男は何をするでもなく、ただそばにいるだけのようだ。
――放課後、教室(きょうしつ)に女学生(じょがくせい)が一人でいた。時間(じかん)を忘(わす)れて読書(どくしょ)に夢中(むちゅう)になってしまったようだ。彼女は、背後(はいご)に何かの気配(けはい)を感じた。本から目を上げて周(まわ)りを見回(みまわ)すが、誰もいない。彼女は時計(とけい)を見た。もう、こんな時間だ。帰らなくては…。
彼女は本を鞄(かばん)に放(ほう)り込むと席(せき)を立った。教室を出て廊下(ろうか)を歩く。でも、どういう訳(わけ)か下へ降りる階段(かいだん)にたどり着(つ)けない。いくら歩いても目の前には廊下が続いている。突然(とつぜん)、廊下がゆがみ始めた。彼女はふらついて倒(たお)れそうになる。
その時だ。何かが彼女の身体(からだ)を支(ささ)えた。そして、耳元(みみもと)で声が聞こえた。
「こっちよ。あたしが逃(に)がしてあげる」
それは女の子の声だ。でも、誰もいないはずなのに…。彼女は何かに手をつかまれ、ぐいぐいと引っ張(ぱ)られる。そして、眩(まぶ)しい閃光(せんこう)に包(つつ)まれた。彼女が目を開けると、そこは校門(こうもん)の前だった。いったい何が起きたのか? 彼女はこのことを誰にも話すことはなかった。
<つぶやき>影男は女の子か? この学校には得体(えたい)の知れないものが潜(ひそ)んでいるのかもね。
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