さえ子は子供(こども)の頃(ころ)から<運命(うんめい)の赤い糸>が見えてしまう体質(たいしつ)だった。赤い糸でつながっている人たちは必(かなら)ず仲良(なかよ)しになれる。それに気づいたとき、さえ子は孤独(こどく)というものを知った。彼女には、赤い糸でつながっている人はひとりもいなかったのだ。
さえ子も成人(せいじん)し、いろんな経験(けいけん)を積(つ)んだ。でも、相変(あいかわ)わらず誰(だれ)ともつながることはなかった。彼女は人間関係(にんげんかんけい)の煩(わずら)わしさから、転職(てんしょく)をすることにした。転職先で、彼女は同僚(どうりょう)の一人と親(した)しくなった。歳(とし)も近かったのですぐに打ち解(と)けたようだ。
しかし、その同僚の彼女はちょっと癖(くせ)のある人だった。誰に対しても威圧的(いあつてき)なところがあって、他の社員(しゃいん)からも避(さ)けられているようだ。さえ子とは正反対(せいはんたい)の性格(せいかく)だった。どうしてこんな二人が仲良くなれたのか? それは、さえ子には見えていたのだ。その同僚の彼女には赤い糸が何本もつながっているのが…。そして、同僚の男性(だんせい)社員とも――。
さえ子はそれとなく赤い糸の話を彼女にしてみた。すると彼女は、
「あたし、そんなの信(しん)じない。もしあったとしても、あたしだったらそんなの引きちぎってやるわ。運命はあたしが作るの。あたしの人生(じんせい)は、あたしのものなんだから」
彼女らしい考えだとさえ子は思った。でも、運命を変えることなんて誰にもできない。それを何度もさえ子は見てきた。彼女には幸(しあわ)せになって欲(ほ)しい。いつもなら人に関(かか)わることから避(さ)けてきたが、今度ばかりはおせっかいをやいてみようかと思い始めた。
<つぶやき>どうしてさえ子には赤い糸がつながらないのか…。それは誰にも分からない。
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