彼は、校舎(こうしゃ)を出たところで女子(じょし)に声をかけられた。でも、彼の同級生(どうきゅうせい)でもなく知らない娘(こ)だ。その彼女は彼に言った。
「あなたに恩返(おんがえ)しがしたいの。これからちょっと付き合ってくれない?」
彼女は彼の返事(へんじ)を待(ま)たずに行ってしまう。彼は彼女を呼(よ)び止めようとするが――。彼の足は、無意識(むいしき)に彼女のあとを追(お)いかけていた。彼女は体育館(たいいくかん)に入って行く。いつもなら運動部(うんどうぶ)が部活(ぶかつ)をしているはずなのに、今日は誰(だれ)もいなかった。がらんとした館内(かんない)に彼の足音(あしおと)だけが響(ひび)いた。彼女は用具置場(ようぐおきば)の扉(とびら)の前で立ち止まった。そして、彼の方を振(ふ)り返って、
「ここにいて…。これだけは約束(やくそく)して。絶対(ぜったい)に中を覗(のぞ)いちゃダメだからね」
彼女は中に入ると扉を閉(し)めた。彼は言われたとおりに待った。いろんな妄想(もうそう)が彼の頭の中にわき上がってきた。いつ彼女に会ったのか? 恩返しって、どういうことなんだ。いくら考えても答(こた)えなど出なかった。
どのくらい待っただろう。時計(とけい)を見ると、もう1時間は過(す)ぎていた。彼は思った。これ、いつまで待てばいいんだ? 彼は扉の前に立って声をかけてみた。何度も話しかけてみたが返事がない。まさか、中で倒(たお)れてたりしてるんじゃ…。彼は不安(ふあん)になった。
そこで彼は、ためらいながらも扉を開(あ)けた。そして、中に入ってみると――。彼女の姿(すがた)はどこにもなかった。他(ほか)に出口(でぐち)はないはずだ。いったいどこへ消(き)えたのか…。
<つぶやき>これは鶴(つる)の恩返し的(てき)なやつなのか…。どこかに何かあるかもしれませんよ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。