みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0624「ゆれる」

2019-08-11 19:10:56 | ブログ短編

 等々力(とどろき)教授の退職(たいしょく)の日が近づいていた。研究室(けんきゅうしつ)の始末(しまつ)もついて、助手(じょしゅ)の涼子(りょうこ)は足取りも重く自宅(じたく)へ帰って来た。アパートの前まで来ると、街灯(がいとう)の下に黒塗(くろぬ)りの車が停(と)まっていた。涼子は不審(ふしん)に思い、車をよけるように道の反対側(はんたいがわ)へ渡った。車の横を通りすぎようとしたとき、車のウインドが開いて中から声がした。「涼子君、ずいぶん遅(おそ)いじゃないか」
 その声にビクッとして立ち止まる涼子。彼女を呼(よ)び止めたのは、彼女が働(はたら)いていた研究機関(きかん)の所長(しょちょう)だった。彼女は所長の命令(めいれい)で、等々力教授のことを探(さぐ)っていたのだ。――涼子は、言われるままに車に乗り込んだ。所長は穏(おだ)やかな口調(くちょう)で言った。
「等々力が大学を辞(や)めるそうだな。君は、どうして報告(ほうこく)に来なかったんだ?」
 涼子は一瞬(いっしゅん)言葉につまったが、「すいません。いろいろ忙(いそが)しくて…」
「ほう、そうかね。君はもっと頭の良い娘(こ)だと思っていたが、残念(ざんねん)だよ」
「あたし…、この一年間、教授の研究について手を尽(つ)くして調べようとしたんですが、なかなか手伝わせてもらえなくて…。ですが、まだ――」
「もういい。大学から金が出ないとなると、もう奴(やつ)には何もできん。奴に金策(きんさく)の才能(さいのう)はないからな。君の仕事はもう終わりだ。うちへ戻って来なさい」
「しかし、まだ…。等々力教授は、きっと何か考えがあって大学を――」
「いつまでも学生気分(きぶん)でいられちゃ困(こま)るんだよ! 君はどこまでわしの期待(きたい)を裏切(うらぎ)るつもりだ。それとも、等々力と一緒(いっしょ)にいて、惨(みじ)めな研究者で終わりたいのか?」
<つぶやき>等々力のことを知るにつれ、涼子は教授の人柄(ひとがら)や才能(さいのう)に惹(ひ)かれたのかもね。
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