みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0623「閉鎖」

2019-08-10 19:16:49 | ブログ短編

 等々力(とどろき)教授の研究室(けんきゅうしつ)。いつもなら雑然(ざつぜん)としているのだが、部屋の中は奇麗(きれい)に片(かた)づけられている。そこへ助手(じょしゅ)をしていた涼子(りょうこ)が入って来て、教授(きょうじゅ)に駆(か)け寄り、
「教授! あたし、もうあそこはイヤです。またここで手伝わせて下さい」
「何を言ってるんだ。君は、山根(やまね)教授のところで勉強(べんきょう)した方が――」
「あの教授、はっきり言ってバカです。あの人から教わることなんて何もありません」
「しかしね、山根君は私よりも優秀(ゆうしゅう)で、立派(りっぱ)な研究をしてるじゃないか。それなのに…」
 こんな会話をもう一年近く続けていた。等々力教授は彼女の才能(さいのう)を認(みと)めていて、他の研究室で勉強することを何度も勧(すす)めているのだ。それなのに、何が気に入らないのか、彼女は一週間もたたないうちに戻(もど)って来てしまう。
「あたしは、教授の研究をお手伝いしたいんです。教授は今まで素晴(すば)らしい研究を――」
「私の研究はどれも中途半端(ちゅうとはんぱ)だ。成果(せいか)を上げたものなど何もない。私のところにいても、君のためにはならん。いいから、戻りなさい。山根君には、私の方から――」
「イヤです! あたしは、絶対に戻りませんから」 涼子はそう言い切ると、研究室を見回してワクワクした目で訊(き)いた。「あの、また新しい研究を始めるんですか?」
 教授は片づけを続けながら言った。「いや、この研究室はお終(しま)いだ。だから、君が戻ってくる場所はもうない。ここは、閉鎖(へいさ)されて元(もと)の倉庫(そうこ)に戻るんだ」
<つぶやき>久しぶりに登場(とうじょう)、等々力教授です。研究室がなくなってこれからどうするの?
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