徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:辻村深月著、『ロードムービー』(講談社文庫)

2018年05月04日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『ロードムービー』は、『街灯』、『ロードムービー』、『道の先』、『トーキョー語り』、『雪の降る道』の5編を収録した短編集です。中でも『街灯』は特に短く、映画のワンシーンのようです。「ショートショート」の部類になるのかも知れませんが、その割にはその短い中で完結しているようには思えないので、そう呼ぶには少々抵抗を感じる作品です。

『ロードムービー』は小学5年生のトシとワタルが家出する話です。その理由やそれまでに二人に起こった出来事は家出の旅路の合間合間に少しずつ語られます。人気者のトシと嫌われ者の気の弱いワタルが同じクラスになって友達になった途端に変化するクラスの力関係。クラスで力を持つアカリがトシに相手にされないことを恨んでか、トシの追い落としにかかります。そのクラスでの出来事と家出は全然関係ないのですが、まあ、【友情】のお話しですね。

『道の先』は大学生で、「明和学院」という塾の講師を務める主人公と塾の生徒で中学3年生の大宮千晶の物語。千晶はお金持ちのお嬢様で塾でも一目置かれている大人びた子で、「先生いじめ」を趣味としているのですが、語り手である先生だけはすぐに「合格」を出し、恋愛的な好意を抱くようになります。先生の方はその気持ちの方は相手にしませんが、彼女の具体的に語られることのない悩みや痛みを汲み取って受け止めようとします。そして最後は『道の先』というタイトルに相応しく、どちらも(別々に)旅に出る。。。感じです。メッセージは「大丈夫。いつかこうして立てる日がくる。歩ける日がくる。」という励まし。

『トーキョー語り』は、各学年に1クラスずつしかないような田舎の高校生・さくらと東京から来たという転入生の物語。東京に対する憧れや妬みや劣等感がよく表られている作品で、そうした感情がクラス内の人間関係にも影響する様子がよく描かれています。さくらは気が弱く、いやだと思っても黙って受け入れてしまうところがあるのですが、事情のある転入生をめぐるクラスメートたち、特に中心人物である一美に反発を覚えて、行動に出るに至る成長が微笑ましいです。

『雪の降る道』は、小学2年生の「みーちゃん」と「ヒロちゃん」という近所のお兄さんの死がショックで熱を出して学校を休み続けている「ヒロくん」の物語。みーちゃんは毎日ヒロくんのお見舞いに行き、なにかしらお土産をもっていきますが、ヒロくんの方はその好意を素直に受け入れられず、自分の悲しみにとらわれてしまっています。そしてある日ヒロくんの吐いた暴言のせいでみーちゃんが雪が降る中行方不明になってしまいます。彼女はどこへ行き、何をしようとしていたのかー?
みーちゃんの素直さとヒロくんを思う気持ちがとてもけなげで、どうかそのまま成長して欲しいと願わずにはいられない、ほっこりするエピソードです。


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