今日の夕方、仕事で恵比寿にいた。
仕事でいっしょだったひとと信号待ちをしているとき、
空を見たら、黒い墨みたいな雲がふわあっと流れて、
白く光った月が現れた。
「月、きれいですね」
と私が言い、いっしょにいたひとも
「ほんとうだ、きれいですね」
と同意してくれた。
私の隣にいた見知らぬおばさんが
なんだかこわい顔をして、
「ああいうの、きれいな月って言わないわよね?」
と、挑戦的に言った。
憎いみたいに私を見ていた。
突然のことだったのでどの方向に対応すべきか戸惑ったけど、
こういう、自分が絶対正しいと思って勝手に不機嫌になるひとには
こちらは感情的になってはいけないのだ、ということを
最近学んだので、
「そうですか、きれいですよ」
と、あえてにっこり受け答えた。
そしたら、
「東京の月なんてだめよ」
嘲笑するように言う。
信号が変わって、おばさんはすたすたと行ってしまった。
おばさんにとって、月はいくつもあるのだ。
東京の月はだめ。
たとえば北海道の月と沖縄の月はそれぞれどう違うんだろう。
どこの月がきれいですか?
おばさんに聞きそびれてしまい、
ほんとうに知りたくなっている。