先日の「ブログ2周年」の記事に書かせていただいた
久木綾子著 『見残しの塔 ― 周防国五重塔縁起』(新宿書房)を読みました。
期待を裏切らない読み応えのある歴史小説でした。
山口の瑠璃光寺五重塔をつくった番匠(大工)のはなしですが、
時は中世、新田氏の末裔と平家の落人の人々の織りなす物語でもあり、
かたや九州日向から周防山口へ、もう一方も福井若狭から周防へと
五重塔に引き寄せられるようにその地に向かっていきます。
塔を建てるとはどういうことなのか、番匠の仕事とはどういったものなのか。
中世の人々の暮らしを丁寧に描くことによって、現代とは比べものにならない時間の経過、
人々の営み、人生の捉え方がうかびあがり、時を越えてその世界に連れていってくれました。
特に神仏の堂宇や塔の造営にかかわる人々の信仰、
めぐり合えた仕事に敬謙な気持ちで精進する番匠の様、
そして一族の血を残そうと哀れなまでの生き様など
忘れていた日本人の姿をおもいださせます。
「人は流転し、消え失せ、跡に塔が残った。」
この書き出しではじまる、その文章がすばらしかった。
いったいどれだけ推敲したのだろう、とおもうほどの無駄のない研ぎ澄まされた文章。
情景を描写するのに、こんな言葉があったのか、とわが身を恥じるほどの豊富な語彙。
時間をかけて、丁寧に物語を積み上げていっているのが、本当に感じられます。
いままで漫然と眺めていたあちこちの塔やお堂。
これからは見るべきところと、それを建てた人たちにも思いを馳せて対峙できそうである。