堅曹さんを追いかけて

2002年(平成14年)9月から先祖調べをはじめた速水家の嫁は、高祖父速水堅曹(はやみけんそう)に恋をしてしまったのです

『見残しの塔』

2009-09-03 22:52:12 | 本と雑誌

先日の「ブログ2周年」の記事に書かせていただいた

久木綾子著 『見残しの塔 ― 周防国五重塔縁起』(新宿書房)を読みました。



Img075 『見残しの塔』



期待を裏切らない読み応えのある歴史小説でした。


山口の瑠璃光寺五重塔をつくった番匠(大工)のはなしですが、

時は中世、新田氏の末裔と平家の落人の人々の織りなす物語でもあり、

かたや九州日向から周防山口へ、もう一方も福井若狭から周防へと

五重塔に引き寄せられるようにその地に向かっていきます。


塔を建てるとはどういうことなのか、番匠の仕事とはどういったものなのか。

中世の人々の暮らしを丁寧に描くことによって、現代とは比べものにならない時間の経過、

人々の営み、人生の捉え方がうかびあがり、時を越えてその世界に連れていってくれました。


特に神仏の堂宇や塔の造営にかかわる人々の信仰、

めぐり合えた仕事に敬謙な気持ちで精進する番匠の様、

そして一族の血を残そうと哀れなまでの生き様など

忘れていた日本人の姿をおもいださせます。



「人は流転し、消え失せ、跡に塔が残った。」

この書き出しではじまる、その文章がすばらしかった。

いったいどれだけ推敲したのだろう、とおもうほどの無駄のない研ぎ澄まされた文章。

情景を描写するのに、こんな言葉があったのか、とわが身を恥じるほどの豊富な語彙。

時間をかけて、丁寧に物語を積み上げていっているのが、本当に感じられます。



いままで漫然と眺めていたあちこちの塔やお堂。

これからは見るべきところと、それを建てた人たちにも思いを馳せて対峙できそうである。