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小松左京『復活の日』

2010-01-09 15:45:00 | ノンジャンル
 小松左京さんの'64年作品「復活の日」を読みました。
 多国籍の乗組員の乗り込む原子力潜水艦が浦賀沖に停泊しますが、そこから見える浦賀の町には人影はなく、膨大な数の人骨が散らばる風景しか見えません。潜水艦は南下して唯一1万人の人類が生き残っている南極の基地に戻ってきます。数年前のイギリス。細菌戦研究所の教授は摂氏マイナス10度前後で増殖を始め、マイナス3度を超えると増殖率は百倍以上になり、摂氏5度に達すると猛烈な毒性を持ち始め、増殖率はマイナス10度の約20億倍になるというウイルスらしきものを男たちに渡します。男たちはそれを飛行機でアンカラに運ぶ途中でアルプス山脈に激突し、「それ」は春の雪解け水と一緒にイタリアに流れ込みます。そしてローマで有名人が車を運転中に急死する事件を発端にして、イタリアではネズミの大量死が起こり、やがてアメリカのカンザス州では七面鳥の大量死、中国でもアヒルの大量死、日本の九州での養鶏場の異変、人間の間にも致死量が異常に高い新型インフルエンザが蔓延し始めます。アメリカの細菌戦研究所では、以前宇宙で採取した、強い宇宙線に曝された状態でも死んでいなかったウイルスがイギリスに盗まれた事件が思い出され、ホワイトハウス、ロンドン陸軍省では対策が練られますが事態は進行し、東京の朝の環状線の通勤客の数が急減し、日本の新聞の見出しもインフルの話題で独占されるようになり、やがて下町の病院も死体の横に延々と患者の列ができ、街角に行き倒れの死体があふれるようになります。首相らがインフルで欠席する中での閣議でも解決策が見出せず、交通もマスコミもマヒし始め、社会は崩壊していきます。南極の基地の人々は病気から隔離され、無線を通じて世界中の人々と交信しますが、やがて静寂が訪れます。地球の歴史において人類という種が滅びた瞬間でした。最後まで生き残っていたヘルシンキの教授が、病気は単なるインフルではなく、それの形を借りた核酸の仕業だと教えてくれます。南極では各国の基地が一体となって新たなシステムを作り出し生存のために動き出します。1万人の人口に対して女性が16人しかいないことから、女性は欲望の対象としてではなく母性として捉えられ、その考え方が共有されます。外界から途絶してから2年目に初めての子が生まれ、それ以降続々と子供が誕生していきます。しかしやがて地質学研究者の吉住は大規模な地震がアラスカに起こることを突き止めると、アメリカの軍事関係者は極右の前米大統領が、強い衝撃があると自動的に核でソ連に報復するシステムを作ってしまっていることを明かし、それに対してソ連の軍事関係者も同じシステムが自分の国にもあり、当時アメリカが核を持ち込んでいた南極も標的の一つになっていることを明らかにします。すぐにそれぞれのシステムを止めるための決死隊が組織され、吉住はその1人としてワシントンに原潜で送られますが、時既に遅く地震が襲いかかり、核は発射されます。しかし、核による放射線でウイルスの毒性が消え、数年後南極の人々は大陸に移住することが可能となります。そして南アメリカの南端に上陸した人々はそこで南北アメリカを徒歩で横断してきた吉住に会うことになります。彼は原潜から降ろされる直前に、中性子線で突然変異した核酸を人体実験として医師から注射されていたのです。人類は第二の歴史を刻み始めるのでした。
 圧倒的なスケールの小説で、ところどころ説明的な文章があって飛ばし読みすることもありましたが、読みごたえがありました。特に印象的だったのは東京の町がインフルによって壊滅的になっていく場面の描写で、新型インフルが流行している昨今のこともあり、近所の病院に置き換えて想像してぞっとしたりもしました。またいつかじっくり読んでみたい小説です。文句無しにオススメです。