杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

素晴らしき柱(メンター)たち

2021-01-09 13:59:40 | 日記・エッセイ・コラム

 昨年末以来ご報告したいことが山ほどありすぎて、まとめる時間がないうちに年が改まってしまい、正月、公私ともにお世話になっていた恩人の訃報を受け、喪に服す気持ちで松の内を過ごしていました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 昨年12月16日から22日まで、西武池袋本店『静岡ごちそうマルシェ』の地酒コーナーのコンサル&販売業務を担当させていただきました。食の催事は時節柄、出店者数を絞り、試飲試食は不可、大々的にコマーシャルも出来ず、例年とは違う様相でしたが、こういう時だから出来ること、気づくことの多かった貴重な7日間。仕込み繁忙期をおして杉錦の蔵元杉井均乃介さん、英君蔵元の望月裕祐さん、また日本酒ライターの大先輩である松崎晴雄さんと藤田千恵子さん、同志のフォトグラファー多々良栄里さん、書道家岩科蓮花さん、藤枝から稲作農家松下明弘さんが駆けつけてくれて、本当に心強かったです。ありがとうございました。

 

 最終日にはヴィノスやまざきの種本祐子社長が、慰労のディナーをご馳走してくれました。酒類をめぐる環境が激変する中で、つねに一歩も二歩も先を見据えて思い切った判断をされる祐子さんの行動力、こういう時期だからこそ一層頼もしく思います。今年2021年は、1996年発足のしずおか地酒研究会25周年の節目にあたるため、東京でも何か仕掛けられたら、とワクワクするお話ができました。

 

 12月28日には上川陽子さんの新刊『難問から、逃げない。』が静岡新聞社から発売となりました。ご一緒しているコミュニティFMの番組〈かみかわ陽子ラジオシェイク〉の2014年から2020年までの放送内容をベースに、3度目となる法務大臣就任にあたっての所感や憲法改正議論等、硬派な内容もしっかり組み込んでまとめたものです。ラジオトークの書き起こしや編集作業を請け負ったのが、ちょうど昨年4月から5月にかけての緊急事態宣言下で、秋口の発行を目指して準備をしてきました。急転直下の入閣で慌ただしくなり、時間切れ寸前でしたが、それでも国会議員になって20年という節目の2020年に出版したいというご本人の熱意が結実したのでした。

 『難問から、逃げない。』でも取り上げたのが、再犯防止に向けての更生保護活動。再犯防止は法務省の大きな活動テーマであり、陽子さんが誘致に尽力し、1年延期の労を経て今年4月に開催される国連犯罪防止刑事司法会議・京都コングレスのメインテーマにもなっています。私もラジオシェイクを通してこの分野で長年地道に尽力されている保護司や協力雇用主の方々の存在を知りました。

 静岡にも静岡県就労支援事業者機構(こちらという保護司・協力雇用主の団体があります。偶然、この機構の後藤清雄理事長と酒縁のあった私は、12月初旬に開催された機構総会での記念講演会を拝聴する機会に恵まれました。講師は三宅晶子さん。三宅さんが立ち上げた㈱ヒューマンコメディ(こちらは、全国の協力雇用主の情報をまとめた受刑者向けの就職情報誌CHANCE!!の出版で知られ、昨年はNHKの『逆転人生』『ハートフルTV』等でも紹介されました。

 HPに公開されている三宅さんのプロフィールを再掲すると、

1971年生まれ。新潟市出身。中学時代から非行を繰り返し、高校を1年で退学。地元のお好み焼き屋に就職していた時に大学進学を志す。早稲田大学第二文学部卒業。貿易事務、中国・カナダ留学を経て、2004年商社に入社。2014年退職後、人材育成の道に進むことを決め、生きづらさを抱える人を知るため受刑者支援の団体等でボランティアをおこなう。その活動中、非行歴や犯罪歴のある人の社会復帰が困難な現状を知る。
2015年7月、(株)ヒューマン・コメディ設立。受刑者等の採用支援・教育支援をおこなう。2018年3月、日本初の受刑者等専用求人誌『Chance!!(チャンス)』創刊。アンガーマネジメントファシリテーター。依存症予防教育アドバイザー。

 起業のきっかけは、少年院から届いた一通の手紙。ある施設で親しくなった17歳の女の子で、両親が健在ながら15年以上施設で過ごし、腕にはリストカットの跡がいくつもある。彼女からの手紙を読んで、身元引受人になって一緒に生活することに。そして自ら少年院・刑務所等を出た方を支援する事業を起そうと決意。2015年7月、彼女の誕生日に会社を登記しました。毎年、会社の記念日に「生まれてきてくれて、ありがとう」と伝えたかったため、だそうです。

 ヒューマン・コメディという社名には、「人生は、いくらでも変えられる。誰かを笑顔にして、最後は自分も笑って死ねるように生きる。許された人は許す人になる。そうしてやさしい社会をつくる」という思いが込められています。

 総会の後、後藤理事長が三宅さんと会食する席を用意してくれました。新潟ご出身の三宅さんは日本酒もお好きとのことで、地酒ネタですっかり盛り上がってしまいました。

 以前このブログ記事(こちら)で紹介させていただいた静岡勧善会の近藤理事長とも相席が叶い、まったく異なるチャンネルをつなげてくれた地酒の縁に心から手を合わせたくなりました。

 

 静岡ごちそうマルシェ会期中、滞在していた池袋のホテルの隣がグランドシネマサンシャインという新しいシネコンで、日本屈指のIMAXスクリーンがあるということで、話題の『鬼滅の刃』をレイトショー鑑賞しました。

 漫画やアニメは未見で、10月下旬、京都の亀甲屋さんで偶然出会った静岡出身の大手雑誌編集者に、『杯が満ちるまで』を進呈した返礼に『鬼滅の刃』の特集号を送ってもらい、市松模様の羽織の主人公と金髪ギョロ目の剣士の名前を取り違えていた事を知ったレベル。そんな浅い初心者でも、スクリーンの迫力と相まって全身&目頭が熱くなり、栄養ドリンク1週間分飲んだぐらいの元気をもらい、西武の催事を乗り切った観がありました。

 お正月の三が日は、多くの初心者ファン同様、漫画全巻を電子版で読破し、今はNetflixでアニメ版を順に観ています。日本古来の民俗伝承や禅の調息法、ロード・オブ・ザ・リングにも似た圧倒的巨悪に対峙する小さき仲間と柱の勇者たちとのフェローシップ等々、自分が好んできた世界との親和性も高く、久々に、誰かが創った〈物語〉に夢中になれた自分にホッとしています。魘夢役とレゴラス役の声優さんが同一人物と知って驚愕しましたが(笑)。

 柱である煉獄さんが炭治郎たちに示した姿勢のように、今、心から信頼できるメンターの存在が求められているのだろうと思います。煉獄さんはアニメの世界の理想に過ぎない存在かもしれませんが、現実に向き合い、課題を克服しようとするとき、どこかに「こうあらねばならぬ」という至高の願いがある人とない人では、周囲に与える影響力が格段に違ってきます。

 上川さんが日本という国を背負って政治に向き合う姿勢、種本さんや三宅さんが取引先や社員や要支援者に向き合う姿勢には、現実を冷静に分析しながらも、そこに安易な妥協や緩みを感じません。責務を担った者の潔い生き方は心から美しいと思う。煉獄さんにそういう思いを感じた観客が、日本の映画の動員記録を塗り替え、現実に、苦境に在った出版業界やコラボ商品を企画した各企業に利益をもたらしたのですから、理想が現実を救うというのは確かなんですね。

 実は昨年12月、三宅さんにお会いする前日の夜、静岡市女性会館が企画したメンターカフェのゲストに呼ばれ、自分の経験や生き方についてお話しする機会がありました。自分が取材した分野の話ではなく、自分自身のことを人前で話すというのは初めての経験で、自己肯定力の弱い自分がメンターと呼ばれることに戸惑いもあったので、ここでは自分の好きな『我唯知足』『自未得度先度他』『動中工夫勝静中』という禅語を、自分の生き方の理想として伝えました。口でしゃべっただけなので、まさにこれから、煉獄さんのように己の姿勢で示さなければなりません。

 そんなこんなで、更新頻度はゆっくりになってしまうかもしれませんが、理想の実現を求めつつ、今年も『杯が乾くまで』をどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

 


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