杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ユマニチュードの可能性

2016-04-09 12:33:46 | 社会・経済

 桜の季節もそろそろ終盤戦。今年は肌寒い日が続いたせいか、いつもより長くお花見が楽しめているみたいですね。私は4月3日に京都天龍寺、祇園白川、八坂神社をブラブラ歩いて桜満開の古都を満喫しました。たまたまチケットが取れたのが富士山河口湖~(東静岡経由)~京都大阪の夜行バス。訪日外国人のゴールデンルートといわれているせいか、外国人(アジア系)率の高さに今更ながらビックリ。旅慣れた外国人リピーターが本当に増えているんだなあと実感でした。

 

 3~4月はしずおか地酒研究会20周年関連をはじめ、勉強することやお手伝いすることが目白押しで、日中、自宅のデスク前に座っていられる時間がほとんどなかったのですが、やっとこさっとこ復習・整理の時間がとれました。今日は3月26日に沼津のプラザ・ヴェルデで聴講した認知症ケア講演会『愛情を伝える認知症ケアの技法~ユマニチュードを知ろう』について書き留めておこうと思います。

  

 こちらの過去記事でも紹介した「驚きの介護民俗学」の著者・六車由実さんが所属するNPO法人ユートピア(沼津市今沢)主催の講演会。六車さんにお会いしたいなあと思ってネット検索していたら偶然見つけて、”ユマニチュード”って言葉の意味もわからずに申し込んでしまったのでした。何せこちらは、1月に介護ヘルパー初任者研修を修了したばかりで実践経験ゼロのペーペー。ヘルパー教科書には出てこなかった何やら高度で専門チックな言葉だし、ペーペーには不向きな高度な内容かもしれないとドキドキしながら会場に着いたら、定員190人の会議室は超満席。大変な熱気で、六車さんとお話できたら・・・などという淡い願望は即吹っ飛んでしまいました。

 

 ユマニチュード(Humanitude)。あまり耳馴染みではない言葉ですが、いま注目されているフランス生まれの認知症ケアです。講師は2011年からユマニチュードを日本に取り入れて普及活動中の本田美和子先生(国立病院機構東京医療センター総合内科医長)。お話を聞いていたら、前にテレビで見たことがあるなあと思って帰宅後に調べてみると、NHKクローズアップ現代で2014年に放送されていました(こちらを参照)。

 わかりやすく言えば、ユマニチュードとは「人間らしさを取り戻す」という意味。記憶力や判断力を徐々に失い、孤独や不安に陥る認知症の人に対して、「あなたはここにいます」「私はあなたを大切に思っています」というメッセージを具体的に表現することだそうです。当日配布された本田先生の資料を参考に列記してみるとー

 表現方法は具体的に4つ。

①自分の存在を知らせる・・・自分の存在と敵意がないことを知らせるために、笑顔で正面からゆっくり近づく。

 

②見る・・・同じ高さの目線で正面から、ある程度、顔を近づけて、長くしっかり、笑顔で相手を見つめる。視線をつかんだら2秒以内に話しかける。

 

③触れる・・・手のひら全体で(親指は使わないようにして)最初に肩、背中、腕などに触れる。顔や手は敏感な部分なので最初に触れるのは避ける。いきなり手首や腕をつかむと『罰を受ける』という悪いイメージを与えるので避ける。*親指を使わないのはつかまないため。

 

④話す・・・会話が成り立たなくても「会いに来ました」「顔色がいいですね」など肯定的な言葉をたくさんかけて、話すテーマがなくなったらケアを実況し続ける。

 

 あれっ、こんなシンプルなこと?と思いましたが、実際に映像を見せていただいて、入浴を拒んで暴れる人、食事を出されても無反応で一切手を付けようとしない人などに対し、①から④を丁寧に実践し、みるみる成果が現れた様子を見てビックリ。と同時にこれを本当に誰もが実践できるのか・・・と不安に思いました。

 入浴を嫌がる理由、食事が進まない理由を、①②③を意識しながらよく見て聞く。理解し難い行動にも意味があると考えて、すぐに否定や非難せず、受け止め、理解し、その理由に応じた具体的な工夫を考える。相当根気が要りそうなケアですが、相手の言動が理解できれば=コミュニケーションが改善できれば、気持ちの上では楽になる。人によっては短期間に劇的に効果が現れるそうで、介護職にとっても大きな励みになるでしょう。

 ・・・聞いているうちに、これは認知症ケアにとどまらず、日常のコミュニケーション、たとえばちょっと苦手な人、意見が合わない人などと付き合う場面にも参考になるお話だなあとじわじわ実感してきました。一見、コミュニケーションが取りにくそうな相手でも、自分は敵ではない、あなたに会いたいから来たんだという態度で、目をそらさず、言葉を端折らず、真摯に向き合う。難しいかもしれないけど、それができればいいなあと素直に思えます。何も特別なテクニックを要する心理作戦でもなんでもない。この人とつながりたいという素直な気持ちがエンジンになるんだろうと。

 もしかして誰でも「気の持ちよう」で出来ることが、社会で急務とされる認知症ケアの実践技法になるのなら、こんな素敵な話はないと思います。そういう気持ちを育む機会を、家庭や地域や学校や職場で作るって、莫大な予算や人員が必要とも思えない。今は介護職へのインセンティブとしてこのような講演会や研修会が必要かもしれないけど、ユマニチュード的なコミュニケーション訓練って、本来、どこででもできるような気がします。・・・とはいえ、やっぱり難しいのかな。

 

 

  本田先生の講演内容については六車さんがこちらで詳しく紹介されていますのでご照覧ください。

 また本田先生が、4月11日(月)放送のNHKあさイチ(8時15分~)でユマニチュードを紹介されるそうですので、チェックできる方はぜひ!