杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

BBCシャーロックと朗読劇『緋色の研究』

2012-10-13 21:21:01 | アート・文化

 先月からお寺でのアルバイトを始めて以来、ずーっと休みなく、心身ともにヘタっていました。週末にかぎって魅力的な催事があるのに、指をくわえて見ていなければならないのがつらくて、気を紛らわせようと、夜中、録画ビデオやDVDにかじりついています。

 

 

 前にも少し書きましたが、今一番ハマっているのが、BBC制作のドラマ『シャーロック』。今月、発売されたシリーズ2のDVDを、毎晩リピート視聴しています。推理の内容はさほど複雑ではないのですが、カメラワークがすばらしく、台詞が洒落ていて、役者の演技も非常にナチュラルでエレガント。とくにマーティン・フリーマンのワトソン役は、非日常のシチュエーションなのに、きわめてシンプルで日常的なリアクション。ちょっとムカつく、ささいなことに感心する、呆れることがあってもオオゴトにせず受け流す・・・そんな”ちょこっと”した大人の演技が絶妙なんですね。やや人格障害的なキャラ設定のシャーロックにとって、とても人間味ある懐深い相棒。脚本家も、変人オタクを受容する”理想の友”を描きたかったんだろうな。

 

 

 シャーロックの最大の敵であるモリアーティも、ゆがんだ形だけどシャーロックとコミュニケートしたい、自分と同類だと認めてほしい”片思い”キャラ。このドラマの魅力は、異質な人間をどう受け入れるのか、自分の中の”異質”を社会とどう折り合いをつけるのか・・・そんな、いろんなカタチの人間関係性にあると思いました。

 

 シャーロック役のベネディクト・カンバーバッチは、さぞかし舞台でしっかり経験を積んだであろう、正確で巧みな台詞まわしや細かな表情が見事。日本でも、劇団出身者や伝統芸能出身者で、腹の底からしっかり声が出て、ぜったいにトチらない、安心して見てられるプロの役者さんっていますよね、そんな感じ。ネット情報によると、この人、ハリウッド大作にオファー続々で、今に大ブレイクするみたいです。

 

 マーティン・フリーマンも、My Best Movieこと『ロード・オブ・ザ・リング』の続編『ホビット』(年末公開)のビルボ役が待ち遠しい限り。ファンタジーの主人公だからワトソン役とはガラッと変わるのだろうけど、職人タイプの役者がどう演じきるのか、それはそれで楽しみです。13日早朝、サッカー日仏戦を観ていたら、途中のCMで『ホビット』の予告が流れ、ビックリ嬉しかった!!!。試合結果もモチ嬉しかった・・・! ついでに言えば、彼は三谷幸喜の傑作舞台『笑の大学』の英訳版で、座付作家役(舞台では近藤芳正、映画では稲垣吾郎が演じた役)を演じたことがあるんですね。観たかったなあ・・・。

 

 

 

 刑事モノや探偵モノのメインキャラってバディ(主役&相棒)が多いですよね、日本のドラマでも、天才的な主人公&ふりまわされる脇役ってよくいます。そもそもコナン・ドイル原作のホームズシリーズがその原点といわれていますが、この2人は古典をなぞらったわけではなく、他の推理ドラマにいそうでいない、とても魅力的なバディです。

 

 

 

 そんな『シャーロック』にハマってから、コナン・ドイルの原作をあれこれ読み直しているうちに、天王洲銀河劇場で、若手男優2人による朗読劇『緋色の研究』 が上演されると知って、12日(金)、観に行きました。『緋色の研究』はご存知のとおり、ホームズシリーズの第一弾で、ドラマ『シャーロック』でもシーズン1初回『ピンク色の研究』として取り上げられました(設定はかなり違うけど)。

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 出演する若手俳優は、上演期間中、毎日日替わりでメンバーチェンジします。私が観にいった日は、シャーロック役を大衆演劇の女形で人気の早乙女太一さん、ワトソン役は、大河ドラマ『平清盛』に長男平重盛役で出演中の窪田正孝さんが演じました。

 

 

 『緋色の研究』の登場人物は、シャーロック&ワトソン以外に、刑事が2人、被害者が2人、容疑者2人、犯行の動機となったエピソードに4~5人は出てきます。これを、2人の朗読でどう演じきるのか、観る前は、ライターの職業病といいますか、まず脚本の構成に関心が湧きました。

 

 原作で残念なのは、犯行の動機となったエピソードが延々長くてつまらない点。ドラマ『シャーロック~ピンク色の研究』は、アッと驚くような現代的な犯行動機に改変されていて、スピード感があってとても面白かったのですが、原作の『緋色の研究』は犯行動機を説明する章がブレーキをかけてしまってかなり残念・・・。これをどうクリアするのか興味がありました。結果は杞憂するほどのこともなく、わりとあっさりすんなり。生の舞台ってテンポが大事ですよね。

 

 

 それから、やっぱり注目はワトソン役の演技力。シャーロックは計算し尽された造形美のようなキャラクターなので、どちらかといえば役者はそれを忠実に表現すればよい、というところがあります。したがって、観客をドラマに導くには、相手役のワトソンが重要。観客と同じ常識的な目線に立ち、語り部の役割もこなしつつ、“変人”シャーロックの魅力をどれだけ引き出せるか。窪田さんは、そんなワトソンの“重責”を完璧にこなし、さらには刑事役や被害者役など他のサブキャラも見事に演じ分けました。

 

 何よりすばらしかったのは、ベネディクト・カンバーバッチのように、舞台栄えする台詞回しと表現力。腹の底からしっかり声が出ていて、この人、若いのに相当、修業してきたんだろうなあと感心させられました。

 

 

 いすれにせよ、人間をしっかり描く脚本と、それをしっかり演じきる役者がいて、物語の感動が第三者に伝わるものだとしみじみ実感しました。ホームズシリーズは推理冒険小説としては楽しいけれど、”人間”を肉付けできるという意味では、未完成の作品なのかもしれない。だからこそ、何度も映像化され、舞台化され、いろんな解釈が生まれ、ファンの裾野が広がるんですね。・・・すばらしいドラマや舞台を見て改めて、活字ってやっぱり捨てたモンじゃないって思えてきました。

 


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