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救急医療 高血圧緊急症

2011年08月23日 03時12分14秒 | 講義録・講演記録4

高血圧緊急症

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

診断と治療のポイント

1.迅速診断:異常高血圧として緊急症が疑われる症例では,迅速な診断に加えて,直ちに経静脈的降圧治療を開始する必要がある。

2.臓器障害評価と全身管理:高血圧性脳症や急性大動脈解離に合併した高血圧,肺水腫を伴う高血圧性心不全,高血圧を伴う急性冠症候群,甲状腺クリーゼ,褐色細胞腫クリーゼ,子癇,悪性高血圧などは,臓器障害の進行を合わせて評価する。


症候について

1.高血圧:高血圧緊急に血圧が高いだけではなく,その持続性と臓器障害の合併を評価する。重度の高血圧であるが,臓器障害の急速な進行を認めない場合は,切迫症として扱う。拡張期血圧の上昇に注意し,橈骨動脈領域の左右差に注意する。
2.バイタルサインの時系列観察:意識,血圧,心拍数,呼吸数,体温の基本5項目に対して,時系列で臓器不全進展の可能性を評価する。
3.病歴聴取:高血圧の治療歴や服薬状況。
4.症状観察:神経系症状,視力障害,悪心・嘔吐,胸・背部痛,心・呼吸器症状,乏尿,体重の変化などに注意する。
5.体液量の評価:頻脈,脱水,浮腫,パルスオキシメータの呼吸性変動,エコーによる心前負荷,下大静脈径の評価など。
6.その他:意識障害,片麻痺,けいれんが認められるが場合は,頭部CT評価を加える。眼底の観察では,線状出血,火炎状出血,軟性白斑,網膜浮腫,乳頭浮腫などを評価する。頸部では頸静脈怒張と血管雑音の有無を評価し,胸部では肺と心臓の聴診所見に加えて,肺エコーと心エコーで肺機能と心機能を評価する。胸部単純ポータブルX線像で,肺うっ血,胸水,縦隔などを評価する。腹部では,肝腫大,血管雑音,拍動性腫瘤の有無を評価する。四肢は,浮腫や網状斑の出現を評価し,大腿動脈以下の動脈触知の左右差を評価する。
7.緊急性の高い場合:頭部から骨盤までのCT評価が,詳細評価として有用である。

検査所見とその読み方

1.血液生化学検査:緊急検査項目の評価に加えて,特に尿素窒素,クレアチニン,電解質,糖,LDH,CPKおよび炎症所見を評価し,必要に応じて血漿レニン活性,アルドステロン,血漿カテコールアミン3分画,BNPなどを評価する。
2.心電図:不整脈と虚血性変化の有無に注意する。心電図は持続心電図モニタリングとし,12誘導心電図の評価を加える。
3.胸部単純X線:肺うっ血,胸水,胸部大動脈瘤などを評価する。
4.動脈血ガス分析:代謝性アシドーシス,乳酸蓄積,電解質,血糖を時系列で評価する。
5.追加選択項目:心・腹部エコー,頭部CT像・MRI,胸部・腹部CT。全身合併症や基礎疾患の評価に役立てる。

診断のポイント

1.加速型悪性高血圧
拡張期血圧120-130mmHg以上では,放置すると腎機能障害,心不全,高血圧性脳症,脳出血などを発症する可能性がある。眼底所見にも注意する。細動脈病変が進行する病態であり,高血圧性緊急症として対応する。

2.高血圧性脳症
 急激な著しい血圧上昇では,脳血流の自動調節能が破綻し,脳浮腫を生じる可能性に注意する。長期の高血圧者では220/110mmHg以上,正常血圧者では160/100mmHg以上で発症する可能性があり,頭痛,悪心・嘔吐,意識障害,けいれんなどを伴い,巣症状は比較的まれである。MRIでは,頭頂~後頭葉の白質に血管性の浮腫の所見が認められることが多い。

3.急性の臓器障害を伴う場合
 頭蓋内出血,アテローム血栓性脳梗塞,脳梗塞再開通,急性大動脈解離,急性左心不全,急性冠症候群(急性心筋梗塞,不安定狭心症),急性または進行性の腎不全を鑑別に置く。多くの場合,肺酸素化能低下を合併してくるために,救急・集中治療に準じた施設への転科が望ましい。

4.カテコールアミン過剰病態
 創部などの異常疼痛,褐色細胞腫,甲状腺クリーゼ,モノアミン酸化酵素阻害薬と食品・薬物との相互作用,降圧薬中断による反跳性高血圧,脊髄損傷などを鑑別として挙げ,血漿カテコラミン3分画と尿中カテコラミン代謝産物を評価する。

5.子癇前症あるいは子癇
 子癇前症や子癇は,妊娠20週から産後1週の終わりまでに発症する。子癇の発症機序は未だ不明な点が多いが,胎盤由来の血管内皮障害因子,プロスタサイクリン減少,エンドセリン上昇,神経細胞刺激因子などが脳に血管内皮傷害と浮腫病変を惹起し,高血圧緊急症を導く要因となる。婦人科領域と連動した診療とする。硫酸マグネシウム4gを20分間で投与し,血清Mg濃度を治療域は4~7mEq/Lに調節する。

治療のポイント

1.入院加療:高血圧緊急症は,救命救急センターや集中治療領域への入院治療を考慮する。観血的血圧測定で,循環を時系列で安定させることが望ましい。
2.血圧目標:一般的な降圧目標は,はじめの1時間以内では平均血圧で25%以上は降圧させず,次の2-6時間では160/100-110mmHgを目標とする。必要以上の急速な降圧は,脳梗塞,皮質黒内障,心筋梗塞,腎機能障害などの虚血性障害を誘導する可能性に注意する。
3.治療:原疾患の治療とともに,以下の内容を組み合わせる。
1)鎮痛管理:① 塩酸モルヒネ 0.1 mg/kg 筋注あるいは分割静注 ② フェンタニール 50 μg 静注
2)体液管理:① フロセミド 10~20 mg 静注,②hANP 0.025 μg/kg/時~。細胞外液の増加を伴う場合に併用する。
3)降圧管理:①ペルジピン®持続静注 5 mg/時~,②ヘルベッサー® 0.5 μg/kg/分~。ニカルジピンやジルチアゼムで,初期2-3時間で25%程度の降圧がみられるように降圧薬を持続投与する。
4)肺酸素化管理:① 鼻カヌラ 3 L/分以下,② high folw鼻カヌラ,③ 非侵襲的人工呼吸 BiPAP(IPAP 10 cmH20, EPAP 4 cmH20),④人工呼吸管理(重篤の場合)。
5)痙攣併発時:①気道確保,②ジアゼパム 10 mg 静注


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