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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

東京農工大学主催の「中村修二教授 特別講演」を拝聴しました

2015年01月21日 | 汗をかく実務者
 2014年1月16日午後6時から東京農工大学は「中村修二教授 ノーベル物理学賞受賞 特別講演」を東京都府中市で開催しました。東京農工大学によると、中村さん(米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)のノーベル物理学賞受賞後の正式な国内での講演会は、これが初めてだそうです。

 特別講演会のタイトルは「青色LEDの開発歴史と、青色が照らす地球の未来」です。



 講演会場になった府中の森芸術劇場は定員が2000人ですが、会場は満員になりました。その内の「約600人は高校生(さらに加えて約100人は高校生をアテンドする高校教員)だ」と、東京農工大学学長の松永是さんは説明します。

 登壇した中村さんは講演の冒頭から、例のやや甲高い声で、怒りを伝えます。今回の2014年ノーベル物理学賞を中村さんが受賞することが発表された2014年10月8日に発行された日本の大手新聞紙が一面で報じた受賞理由は「赤崎勇さんと天野浩さんが青色LEDの基盤技術を、中村修二さんがその量産技術を開発したと報じた 」と、受賞理由を間違えていることを怒っていると伝えます。テレビもほぼ同様の解説をしたと、怒ります。

 日本の大手マスコミがそろって同じ間違いをした原因を、中村さんは、「学術系の識者が間違った見解を持っているから」と解説します。新聞やテレビなどの大手マスコミは、当時の当該コメントを、東京大学などで半導体の構造を決める結晶構造を研究開発している有名教授に求めました。その有名教授たち(講演会では具体的な個人名を指摘)は「赤崎勇さんと天野浩さんが青色LEDの基盤技術を発見・発明し、中村修二さんがその量産技術を開発した」という内容のコメントをしたと、伝えます。

 その証拠として、10月当時に、日本応用物理学会のWebサイトに載った、赤崎さん、天野さん、中村さんの受賞理由となった発見・発明の具体的な内容の解説を示す、某教授の受賞を祝う見解を“証拠”として見せつけます。

 中村さんは「ノーベル物理学賞の受賞対象の範囲には、製品化の量産技術は含まれていない」と解説します。実際に、ノーベル財団がWebサイトに公表しているノーベル物理学賞の受賞対象のWebサイトを示します。「発見(Discovery)と発明(Invention)と書かれています」と解説します。

 ここからは中村さんの今回の受賞理由についての、本人による解説です。まず、中村さんは日亜化学工業に勤務していた時に、米国のフロリダ大学に一度、留学した時に、博士号を持っていなかった(修士号を持つ)ので、当該研究室の学生たちから、研究員の実験をサポートする“テクニッシャン”扱いされ、当時も怒りました。中村さんは「テクニッシャンは実験に参加しても学術論文に名前も載せてもらいない扱い」と解説します。この留学当時、その研究室の博士課程の学生に「これまで書いた学術論文を教えてほしい」と聞かれ、「論文は書いたことがない」と伝えると、研究仲間にも入れてもらえなかったそうです。

 このため、中村さんは博士号を取得しようと、その研究テーマとして当時から着目されていた青色LEDの研究開発を目指します。青色LEDの開発を始めた1989年当時は、青色LEDの半導体構造をつくる材料として、候補材料は3つありました。第一候補は炭化ケイ素(SiC)で1970年代に基本となるpn接合ができ、少し光っていましたが、明るい青色LEDができないという状況でした。第二候補はセレン化亜鉛(ZnCe)で、当時は世界中の研究者が本命材料と考えていました。第三候補は窒化ガリウム(GaN)でしたが、結晶欠陥の少ない結晶を作製するのが難しく、これを研究対象にする研究者はほとんどいませんでした。

 当時の状況を中村さんは説明します。中村さんが日本応用物理学会の講演の大会に行くと、青色LEDの窒化ガリウム系のセッションは、赤崎さん、天野さん、中村さんなどの学会発表を約10人が聴講する程度の不人気のセッションだったそうです。窒化ガリウム系のセッションは発表件数が少なく、すぐに終わるので、その後はセレン化亜鉛のセッションの部屋に行くと、聴講者が500人以上で、立ち見の方が多かった人気のセッションでした。

 長くなったで、この続きは次回に続きます。

グリーの山岸功太郎さんの“ゲーム論”の講演を拝聴した話の続きです

2014年12月10日 | 汗をかく実務者
 日本のソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 大手企業であるグリー(GREE,Inc.)の取締役・副会長の山岸広太郎さんの講演「ゲームは社会に貢献できるか」を拝聴した話の続きです。

 山岸さんはグリー創業メンバーのお一人です。



 ゲームを実際につくるということは、プログラミングを通して、どんな問題を解決するのかを論理的に考え、その小宇宙を設計することが重要になります。かなり、論理的な思考が必要になります。

 ゲームの力を利用して、社会的な問題を解決する、例えば、教育手法としてゲームを利用するやり方は次第に増えています。見かけ上、簡単な教育ゲームは算数の仕組みや漢字を覚えるもの、言葉の意味を探るものなどが実際に使われています。

 これに対して、もう少し高度なものでは、ゲームの仕組みを”遊びのゲーム”以外の教育や社会問題・解析などに適用する「ゲーミフィケーション」(Gamification))です。この「ゲーミフィケーション」hは、日本でも次第に広がっています。

 この「ゲーミフィケーション」については、東京大学大学総合教育研究センターの藤本徹さんは、「ゲームにするには、達成すべき目標(ゴール)をまず設定し、そのゲーム世界でのルール(制約条件)を決め、その達成度をどうやって把握するかというフィールド・システムを考えることになります」と解説します。「複雑な概念を把握するためにゲームをデザインすることは意味ある活動(Meaninngful Play)をつくることになります」と説明します。

 米国では、既に政府内に「ゲーミフィケーション」を活用して社会を分析する専門家のアドバイザーが活躍し始めているそうです。社会を解析する手法として注目を集めているそうです。

 山岸さんはグリーがCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)として、ゲームをつくる教育プログラムを実践し、小学生などの子供たちにへのゲームのプログラミング教育を通して、論理的に考え、問題を解決する力を学びことと、またゲームのプログラミングをチームで行うことで、他人と共同して新しい価値をつくることを学ぶ実践を進めたいと説明します。

グリー副会長の山岸広太郎さんの“ゲーム論”の講演を拝聴しました

2014年12月09日 | 汗をかく実務者
 日本のソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 大手企業であるグリー(GREE,Inc.)の取締役・副会長の山岸広太郎さんの講演「ゲームは社会に貢献できるか」を拝聴しました。

 山岸さんは、2004年2月にグリー創業者の田中良和さん(現・代表取締役会長・社長)が個人的な趣味として開発したソーシャル・ネットワーキング・サービス 「GREE」の運営を始め、その運営を安定化させるために、運営会社のグリーを同年12月に創業した時の創業メンバーのお一人です。

 山岸さんは、慶応義塾大学の経済学部を1999年に卒業した後に、出版社・メディア2社を経てグリー創業時の2004年12月に、グリーに入社し取締役に就任します。2014年9月に、取締役 ・副会長に就任しています。



 グリーは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス「GREE」を最初の中核事業とし、世界初のモバイル・ソーシャルゲームを開発するなど「日本のモバイルインターネットサービスを牽引してきました」と、同社のWebサイトでは、うたっています。

 今回、講演タイトル「ゲームは社会に貢献できるか」はなかなか奥が深いタイトルです。IT産業では、2010年ごろからゲームを利用した教育方法という「ゲーミフィケーション」(Gamification)の研究や教育への応用が盛んになっています。今回の講演の主題は「ゲーミフィケーションについて」です。

 「ゲーミフィケーション」の話に入る前に、インターネットを利用したゲームについての一般的なイメージについて、考えます。一般的に、親は子供がインターネットを利用したゲームに夢中になるのは“遊び”だからとみています。そして、インターネットを利用したゲームにうつつを抜かすと勉強がおろそかになると考えています。平均値的な親のインターネットを利用したゲーム像です。

 両親が思うインターネットを利用したゲームイメージ像が、その子供にそのまますり込まれては、将来の同社のユーザーを失う可能性があります。そこで、グリーは各地の中学校や高校などで、インターネットを安全かつ楽しく使う、学ぶべきルールや注意点などを伝える出前講義を始めています。この活動は、グリーのCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)として取り組んでいるようです。

 2020年ごろには、各地の小学校で一人1台のタブレット型情報端末が導入されるとの計画が進んでいます。この将来のユーザー候補である小学生たちにグリーのファンになってもらうことは重要な布石です。

 さらに、2014年4月から毎月1回、プログラミング教室「プログラミングラボ」をグリー本社(東京都港区六本木)で開催し、約20人から30人の小学生が、ゲームづくりを通して、コンピューターなどのプログラミングとは何かを学んでいるそうです。日本の将来のIT(情報技術)人材を育成する布石だそうです。

 さらに、千葉大学教育学部とグリーの共同授業「メディアリテラシー教育演習」を2013年後期から始めています。この共同授業では「ゲームづくりの知見やゲームが持つ“力”を教育にいかす研究などを進めている」そうです。2013年後期の共同授業の終盤では、千葉大学の学生とグリーのエンジニアとチームをつくり、自分たちが企画した“教育ゲーム”を共同で作成する共同作業を実施したそうです。

 この辺りから「ゲーミフィケーション」論議になります。長くなったので、今回はここまでとします。明日に続きます。


2014年ノーベル物理学賞を受賞した天野浩さんのご講演を拝聴しました

2014年12月02日 | 汗をかく実務者
 2014年ノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学大学院教授の天野浩さんのご講演を拝聴しました。

 2014年11月末に、東京都内で開催された「パワーエレクトロニクスシンポジウム」で、天野さんは特別講演されました。



 当然、天野さんがどんなことを話すのかなどに興味を持った研究開発者は多く、大変な盛況ぶりでした。半導体関係の研究開発者も“人の子”です。“ナマ天野さん”の登壇に多くの方が集まりました。



 天野さんは、半導体材料の“構造づくり”の専門家です。2014年ノーベル物理学賞の対象となった研究内容は、青色発光ダイオード(LED)を実現するための結晶構造のつくり方でした。その結晶構造のつくりの手法を、パワーエレクトロニクスと呼ばれる電圧や周波数などを制御するインバーターなどに利用されている半導体素子に適用し、大幅な省エネルギーなどを実現しようとされています。

 学会系に準じるシンポジウムであるため、天野さんは難解な専門用語を多用して、窒化ガリウム(GaN)デバイスの最先端のお話をされました。窒化ガリウムデバイスの「横型デバイスと縦型デバイスの両方とも非常に魅力的な研究開発テーマである」と解説されました。

 学会系に準じるシンポジウムですが、聴講者全員が半導体デバイスの専門家ではないために、天野さんのご講演のイントロダクションはもう少し、非専門家でも分かる、ご説明の仕方の方がよかったと感じました。

 日本の大学や公的研究機関の研究開発者の方は、専門的なお話を非専門家に対してでも“分かりやすく”話すことが苦手です。この点は、欧米の研究開発者の方々は、こうした教育を受けているために、お上手です。

 今回の特別講演をお話しになった経緯は、今年度から内閣府が始めた「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の中の一つである「次世代パワーエレクトロニクス」プロジェクトの中で、シリコン製以降の次世代版のパワーエレクトロニクス研究開発を、天野さんが手がけるからです。窒化ガリウム基板の上に窒化ガリウムデバイスをつくるという難問に挑戦されます。従来の半導体作製技術とは異なる技術です。

 「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)は“日本の産業力強化を目指す”大型の研究開発プロジェクトです。テーマは10つで、それぞれが並行して進められています。


ベンチャー企業のテムザックが開発した電動車イスの話の続きです

2014年11月08日 | 汗をかく実務者
 ロボット開発ベンチャー企業のテムザック(福岡県宗像市)とNTTドコモが介護・福祉施設向けの電動車イス「NRR」の実証実験をデンマークで始める話の続きです(前編は2014年11月7日編をご参照)。

 この電動車イス「NRR」は「広義のロボットだ」と、テムザックの代表取締役CEO(最高経営責任者)の高木陽一さんは説明します。



 高木さんは2000年1月4日にテムザックを設立して以来、日本にロボット利用を広げたいとの思いで、ロボット開発を続けてきた人物です。しかし、実際に開発したロボット群は日本国内よりも、外国で評判がいいのが実情でした。

 今回開発した電動車イス「NRR」は、大きさが幅・長さ・高さ700ミリメートル・986ミリメートル、高さ865ミリメートルで、質量は100キログラムです。座面の高さは400ミリメートルから640ミリメートルの範囲で調整できます。



 車輪は、前輪が1個、中程の車輪が左右合わせて2個(駆動輪)、後輪が左右合わせて2個の構成です。駆動輪はそれぞれ独立して駆動します。この駆動輪を用いた移動速度は最大時速6キロメートルです。電池は鉛電池です。「鉛電池がリチウムイオン2次電池などに比べて、かなり安い点から採用した」と、高木陽一さんは説明します。

 現時点では、電動車イス「NRR」の価格は約100万円です。高木さんは「日本で販売されている電動車イスは約30万円から40万円程度が多いので、やや高い価格になっています」と、説明します。しかし、欧米のお金持ち用などの高度な電動車イスは同様に価格が約100万円と補足説明をし、「欧州市場では受け売れられる価格帯になっている」といいます。

 電池には鉛蓄電池を採用し、価格を抑えているそうです。リチウムイオン2次電池の方がコンパクトですが、価格が高いので、鉛電池を採用しています。電動車イス「NRR」は8時間、充電すると、連続稼働を8時間できる設計です。

 充電はプラグイン方式になっています。鉛電池の残量は、電動車イス「NRR」に組み込んだスマートフォンが警告表示し、場合によっては管理者に電子メールで知らせる仕組みです。

 今回、デンマークのコペンハーゲン市とファーボ・ミッドヒュン市の介護・福祉施設(高齢者住宅とリハビリセンター)で、電動車イス「NRR」の性能などを実証する実験を11月から始めました。今年6月に、経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がデンマークのコペンハーゲン市とファーボ・ミッドヒュン市と、介護・福祉施設での実証実験の基本協定書(MOU)を結んだ結果、いよいよ実証実験を始めることになりました。

 テムザックとNTTドコモは、電動車イス「NRR」に対して、欧州で販売する製品に必要とされる、基準適合マークの「CEマーク」を今年6月に取得しています(公開されている「CEマーク」に適合することを確認し、「CE宣言」を実施したもの。安全性や電磁波影響などの各項目を満たしていることを確認したもの)。

 さて今回、欧州のデンマークで、電動車イス「NRR」の実証実験ができるのは、この「CEマーク」に適合することを示し、販売することが可能になったからです。デンマークのコペンハーゲン市とファーボ・ミッドヒュン市と、介護・福祉施設は来年春ぐらいまで、電動車イス「NRR」の使い勝手などを評価し、その性能を評価すれば、購入し利用する姿勢です。

 欧州のデンマークの両市の介護・福祉施設は、介護補助者の労働力負担が軽くなり、介護を受ける方々が自分で移動することに満足感を持つなどの成果を実証します。その実証成果を基に、テムザックはデンマーク同様に福祉政策を進めているスエーデンなどの国々で販売する計画です。

 今回、日本国内での実証実験に先駆けて、デンマークで実証実験する理由は、電動車イス「NRR」の構造が新しい点に原因があります。実は、日本のJIS規格では車イスは利用者が背もたれに保持される構造になっています。電動車イス「NRR」にも背もたれが収納されているのですが、これでは日本では「車イス」とは認定されないのです。

 このため、日本ではJIS規格を満たさないために、国内販売ができないそうです。新規の“車イス”構造が登場しても、JISを改訂する作業は見通しがないようです。日本での製品の安全性の基準規格が得られないために、日本国内では大学と共同で電動車イス「NRR」の実証実験を始めたいと思っても、その当該大学の倫理委員会の許可が得られない仕組みになっています。

 このため、テムザックはデンマークなどの欧州市場で販売実績をつくり、これを基に日本や米国での製品の安全性の基準規格の変更機運を盛り上げることを目指します。

 日本のロボットベンチャー企業が新規の“車イス”を開発しても、日本の製品の安全性の基準規格は簡単には変わらないので、欧州での実績をつくって、日本での安全性の基準規格変更に影響を与えたいと考えているようです。