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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

フラワー ロボティクス社長を務める松井龍哉さんのお話を拝聴しました

2015年11月08日 | 汗をかく実務者
 先日、日本でのこれからのロボット実用化・製品化を語るパネル・ディスカッションを拝聴しました。
 
 そのパネリストのお一人は、日本のロボット系ベンチャー企業の草分けとなるフラワー ロボティクス(Flower Robotics、東京都港区)の代表取締役社長を務める松井龍哉さんでした。


 
 日本の既存の大手企業が革新的な製品開発の実用化に苦悩している現在、「当社は家庭用ロボットのプラットフォームを提供することで、いくつかの企業群と互いの技術や知恵を持ち寄って、新しい家庭用ロボットを製品化していきたい」と、これからの製品開発の手法を語ります。
 
 松井さんは、文部科学省系の科学技術振興機構(JST)が実施した大型研究開発プロジェクトのデザイナー系研究者として研究開発を続けた後に、2001年にフラワー ロボティクスを創業し、2005年2月に同社を株式会社組織にしたそうです。
 
 フラワー ロボティクスは、2014年9月18日に「機能拡張型 家庭用ロボット『Patin』(パタン)を開発中で、2016年に製品化する」と発表し、注目を集めました。Patinとは、フランス語で「スケート」を意味するそうです。このロボットは“スケート靴”として移動し、その上に載せた家電製品・生活用具・家具などを移動させることで、新しい家庭用ロボットが誕生すると提案します。



 このPatinは、AI(Artificial Intelligence、人工知能)搭載の自走式ロボットです。例えば、Patinの上に照明器具ユニットを載せると、自宅の中を人間が移動した時に、最適な位置まで移動し、最適な明るさの照明を与えるなどの働きをします。Patinは3次元カメラを搭載し、空間認識機能を持っているからできる“芸当”です。そして人工知能によって、学習機能を発揮します。
 
 「これからは自宅で働く在宅勤務者が増え、その仕事や生活をサポートする家庭用ロボットのニーズが高まる」と解説します。同社は、2016年でのPatinの製品化を目指しています。
 
 各種のサービス機能を実現するために、ソフトウエア開発キット(Software Development Kit、SDK)を公開し、共同開発体制を整えています。こうしたやり方は、従来のパソコンなどのアプリケーション開発のやり方そのものです。フラワー ロボティクスは、主にアプリケーションなどのソフトウエア系の技術開発に力を入れています。

 松井さんは、ベンチャー企業がロボットのプラットフォームを提供し、それに既存の企業が自社向けのアプリケーションを開発し、製品化していくやり方を提案します。これによって、各用途向けのアプリケーションを実用化していく態勢です。

 このロボット実用化・製品化を語るパネル・ディスカッションでは、あるパネリストは「昔の大企業の研究開発部門には、何を研究開発しているか分からない先輩などがいたが、最近は研究開発計画や事業化計画が明確でない研究開発テーマはさせてもらいない時代になった」と語ります。「本業の既存の事業が時代の流れに合わなくなった時に、次の新規事業のタネがなく、経営が行き詰まる傾向が、現在の大手企業は多い」と指摘します。

 もう一人のパネリストは「これからのロボットは、サービス産業として、アプリケーション使用料を月当たりなどの時間単位で徴収するサービス型を目指すことが賢い」とビジョンを語りました。新しい改良したアプリケーションをネットサービスで提供し、その使用料をもらう、現在のパソコンのアプリケーションやスマートフォンの利用料のような概念です。

 これからは、生産支援型や介護支援型などの様々なロボット(姿はさまざま)が登場します。その事業形態に対する示唆に富むパネル・ディスカッションでした。


アントレプレナーシップセミナー「伝統産業に新価値創造」を拝聴した話の続きです

2015年02月28日 | 汗をかく実務者
 アントレプレナーシップ(起業家)セミナーとの冠をつけた「伝統産業に新価値創造!新たな『市場』を生み出す取り組み」という講演会を拝聴した話の続きです。

 この講演会に登壇した株式会社和える(あえる、東京都港区)の代表取締役の矢島里佳さん(2015年2月27日編をご参照)に続いて、株式会社せん(秋田市)の代表取締役の水野千夏さんが事業化している内容をお話しされました。

 株式会社せんの代表取締役の水野千夏さんは、「あきた舞妓」の事業化を2014年8月から始めました。単なる舞妓の復活事業かと最初は思いましたが、その動機は秋田市の再生という志(こころざし)の高いものでした。このため、秋田市の商工会議所などのメンバーが応援団になっています。



 水野さんは故郷の秋田県・秋田市(水野さんの生まれは秋田県の別の市ですが秋田市で育っています)の人口が年々減少しており、このままでは将来、秋田市が消え、そこに根付いた文化も消滅すると感じました。このため、故郷の秋田市に強い観光資源を再生し、秋田市が再び栄える道を考えました。そこでたどり着いたコンセプトは「秋田美人」という言葉でした。その秋田美人の再生を具現化したものが“あきた舞妓”という事業でした。

 秋田市には美味しい食べ物や素晴らしい観光資源があるにもかかわらず、人口が減って少しずつ寂れていっています。そのためには、県外から人を呼ぶ仕掛けをつくろうと考えます。調べてみると、秋田市の繁華街・歓楽街は以前、川反(かわばた)芸者という接客業の方々がいて賑わっていました。これを再生し、秋田市の観光の目玉にするという発想でした。

 水野さんは高校卒業後に上京し、神奈川県内の大学で学び、そのまま化粧品会社に就職します。しかし、将来もこのまま首都圏で生活することがイメージできず、約1年で秋田市にUターンし、観光業の会社に就職します。そこで秋田県・秋田市の魅力を考える内に、秋田市に観光客を呼ぶ仕組みが足りないと思ったそうです。

 そこで“あきた舞妓”事業を考えつきます。一般には舞妓や芸子(芸妓、げいぎ)は、従来のお茶屋制度によって若い女性に芸事を仕込んで一人前にします。これを、芸事を学んだ若い女性のコンパニオン的な“会える秋田美人”という派遣業として復活させます。“会える○○”はAKB48の影響でしょうか・・

 派遣条件は「1時間、2名からで、1時間当たり舞妓1人当たり1万円(プラス消費税)」と明解です。通常のお座敷派遣と同時に、観光イベントや企業広告イベントなどへの派遣も対応しています。派遣の際には、舞妓の指名はできない仕組みです(この辺が伝統とは異なります)。

 現在、“あきた舞妓”は3人います。



 この3人の募集の仕方が賢かったです。2014年4月14日に、水野さんは事業会社「せん」を設立し、その記者会見を開催します。記者会見によって、創業したばかりの会社の事業内容を地元のマスコミを通じて広報します。同時に、あきた舞妓のなり手を募集します。

 このあきた舞妓の募集が当たって、約30人も応募してきます。「舞妓になりたい」という志願者は不採用にし、「秋田観光を盛り上げたい」という意志を表明した3人を採用します。この3人に踊りや三味線などを学ばせています。「このお稽古事の費用が馬鹿にならない」と解説します。

 秋田市に人を呼び込む仕掛けの“あきた舞妓”事業は、秋田県・秋田市では話題を呼び、その事業のサポーターが増え、観光イベントなどに呼んでもらうことが増えているそうです。現在は、“あきた舞妓”の常設館も開設する計画を練っています。

 若い女性が秋田市の魅力を“温故知新”によって発掘・再生する事業は、地元で共感を呼び、順調に事業がスタートしたようです。起業の時は、起業目的を明確にすることが基本と感じました。

アントレプレナーシップセミナーで伝統工芸に新価値を与える講演を拝聴しました、

2015年02月27日 | 汗をかく実務者
 アントレプレナーシップ(起業家)セミナーとの冠をつけた「伝統産業に新価値創造!新たな『市場』を生み出す取り組み」というタイトルの講演を伺いました。

 当初は、このタイトルから、お役人が支援するような建前的な態勢の話を想像していました。実際には中身がしったりしたいい話でした。

 この講演では、株式会社和える(あえる、東京都港区)の代表取締役の矢島里佳さんと株式会社せん(秋田市)の代表取締役の水野千夏さんのお二人が登壇しました。偶然ですが、お二人ともに26歳という若い起業家です。



 この講演会は慶応義塾大学藤沢キャンパスにある應藤沢イノベーションビレッジと経済産業省傘下の中小企業基盤整備機構が主催したものです。若い起業家の方々が新規事業お越しに励んでいる実践例を示すことが目的のようです。

 代表取締役の矢島里佳さんは和服姿で自社の事業モデルを語ります。



 日本の伝統工芸の良さを和服で表現しています。分かりやすい言葉で、考えを伝えます。

 和えるは、日本各地の伝統工芸品を良質な製品として企画して販売する事業を展開しています。たとえば、幼児が離乳食を食べ始める時の食器として、愛媛県の砥部焼という陶器製と徳島県の大谷焼という磁器製、石川県の山中漆器の3種類の食器を販売しています。

 その特徴は、陶器も磁器も漆器も形状デザインは同じで、食器の内側に“返し”と呼ぶわずかな出っ張りを設け、幼児がこぼしにくいデザインにしています。飽きがこないシンプルなデザインで、日本の伝統工芸の良さを表現しています。

 想像ですが、少子高齢化が進む日本では、両親や両方の祖父・祖母は伝統工芸として磨かれた良質な食器を子供・孫に与えたいというニーズに答えています。

 株式会社和えるが販売する代表商品は、藍染めの産着(うぶぎ)、ファイスタオル、靴下の3点セットを桐箱に詰めた“出産祝い”セットです。定価は2万5000円(税別)です。

 幼児のころから、日本の伝統工芸である藍染めを身につけて育った子供は、日本の伝統工芸の良さを肌で感じ「日本のホンモノの価値観を持つだろう」と伝えます。日本の藍には「抗菌作用や紫外線の遮断、防臭、防虫などの優れた性質を持っていることを伝え、藍染めの伝統を後生にも伝えたい」とも語ります。

 この“出産祝い”セットは最初の商品であり、株式会社和えるの代表商品に育っているそうです。

 代表取締役の矢島里佳さんは慶応大学の学生だったころに、ビジネスプランコンテストで2009年、2010年に入賞し、自分の考えた日本の伝統産業を基にした事業化を図ります。財団法人東京都中小企業振興公社が主催した2010年のビジネスプランコンテストでは「学生起業家選手権」優秀賞受賞を受賞します。そして、日本各地にある伝統産業の製品の価値があまり市場として受け入れられないという事実を知り、その市場価値を再生する事業を始めます。

 そして、2011年3月16日に株式会社和えるを設立します。現在、資本金は500万円です。創業当時は製品を全品買い取る仕組みを貫いたために、事業資金が不足する”黒字倒産”の危機にも面したそうです。

 現在は、直営店「aeru meguro」を東京都品川区に出店し、さらに今年は京都市にも直営店を設ける計画です。事業運営の安定化に努めているようです。

 この続きは次回になります。

ノーベル物理学賞を受賞された天野浩さんのご講演を拝聴しました

2015年02月14日 | 汗をかく実務者
 2015年2月12日から13日まで東京都千代田区で開催された新エネルギー・産業技術総合化発機構が主催した「NEDO FORUM」の中で、開幕時のゼネラル セッションの特別講演に、名古屋大学大学院教授の天野浩さんが登壇し、ガリウムナイトライド(GaN)の将来像を講演されました。

 2014年のノーベル物理学賞を受賞された天野さんは現在、追究している青色LED開発の基になったガリウムナイトライドの未来像をお話しになりました。



 天野さんは、ガリウムナイトライド製のパワー半導体の実現に挑戦している理由は、インバーターといった電力変換器のエネルギー損失を大幅に削減できるからだそうです。天野氏によれば、「現行のシリコン(Si)パワー半導体からガリウムナイトライド製のパワー半導体に置き換えることができると、電力損失を1/6以下にできる」と解説します。



 以下はかなり専門的な内容です。天野さんが取り組むのは、ガリウムナイトライド基板上にガリウムナイトライド系半導体をつくる「GaN on GaN(ガンオンガン)」と表記されるパワー半導体です。ガリウムナイトライド製のパワー半導体の製品は現在、シリコン基板上につくられています。これを、ガリウムナイトライド基板に換えることで、耐電圧を高めやすくなります。例えば自動車への用途では、300ボルト系の応用にはシリコン基板品を適用する一方、650ボルト系の用途に対してはガリウムナイトライド基板品を適用する、という使い分けを考えているそうです。

 GaN on GaN技術で重要になるのが、ガリウムナイトライド基板になります。残念ながらガリウムナイトライド基板製品は「HVPE法」と呼ばれる気相法でつくられているために、「コスト低減が難しい」そうです。そこで、コスト低減が可能な、「アモノサーマル法」「ナトリウムフラックス法」という液相法に着目しているそうです。ナトリウムフラックス法の開発では、新エネルギー・産業技術総合化発機構の研究開発プロジェクトとして進めている中で、口径150ミリメートルのガリウムナイトライド基板の試作に成功したところだそうです。まだ、実用化までには時間がかかるようです。

 コスト面以外の課題では、パワー半導体に利用するにはガリウムナイトライド基板の品質のバラつきが大きな問題になっています。「現状では、結晶作成メーカーごとに特性が異なる」そうです。

 一番の課題は、ガリウムナイトライド基は材料として、まだ未解明な部分があり、その研究開発には、多くの研究開発者の参加が必要であり、その事業課には多くの企業などの参加が不可欠です。

 天野さんは最近の日本の電機メーカーと半導体メーカーの事業不振が気になるそうです。大学人として、日本の電機メーカーと半導体メーカーの復活を願っているそうです。

東京農工大学主催「中村修二教授 特別講演」を拝聴した話の続きです

2015年01月22日 | 汗をかく実務者
 2014年1月16日午後6時から東京農工大学が開催した「中村修二教授 ノーベル物理学賞受賞 特別講演」を聴講した話の続きです。

 特別講演会のタイトルは「青色LEDの開発歴史と、青色が照らす地球の未来」です。





 中村さんは博士号を取得するために、当時製品化が難しいと考えられていた青色LEDの研究開発を研究テーマに選びます。勤務していた日亜化学工業は徳島県阿南市の蛍光体などを手がける中小企業でした。その地方企業が青色LEDを実用化・製品化すれば、その事業の主導権を獲れるのではと考えた研究戦略・事業戦略です。当時は漠然とした戦略だったことと推定できますが・・。

 日亜化学の開発課に所属していた中村さんは、当時の日亜化学の社長の小川信雄さんに直訴し、研究費3億円を出資してもらいます。ノーベル物理学賞を受賞した記者会見時に「当時社長の小川信雄さんは大恩人」と感謝を示しています。

 中村さんは「青色LEDの研究で博士号をとるには、研究者が少なくあまり実験データが発表されていない窒化ガリウム(GaN)による半導体構造の作成を選びました」と、最初の着眼点はあまり研究されていない分野だったことを明かします。

 窒化ガリウムはガリウム原子と窒素原子の結合が強いために、これを作製するには、約1000度(摂氏)の高温下で、アンモニア(NH3)を分解してつくった窒素とガリウムを反応させるという過酷な環境での反応が必要でした。当時のケイ素(シリコン)系の半導体作製では用いない過酷な厳しい環境でした。

 このため、中村さんは2億円ほどするMOCVD(分子化学蒸着、あるいは有機金属気相成長)装置を購入してもらい、改良を加えました。この結果、有名な“ツーフロー法”を実現しました。中村さんが実験装置を自ら改良する“テクニッシャン”としての腕前の持ち主だったことが奏功します。

 以下は、中村さんの研究内容の“さわり”です。実は、中村さんは具体的に自分が発明した技術内容を切々と説明したのですが、東京農工大学の講演運営では会場を真っ暗にしたために、肝心な点をメモすることができませんでした。かなり具体的な説明でしたが、青色LEDを高輝度化する「ダブルヘテロ構造」の仕組みを十分に書き取れませんでした。

 「ダブルヘテロ構造」とは、活性層の両側に活性層よりもエネルギー・ギャップが大きいクラッド層を挟んだ構造のことです。発光する主役の電子と正孔(ホール)を活性層内に閉じ込める効果があります。

 加熱したサファイア(Al2O3、アルミナ)基板に対して、水平方向からGa(ガリウム)化合物を含む原料ガスを、垂直方向から窒素および水素ガスを基板に垂直に送り込むツーフローMOCVD装置を開発しました。この開発した技術は、後に“ 404特許”(特許第2628404号)といわれる、後の日亜化学工業との知財裁判(特許裁判)の争点になったものです。

 このツーフローMOCVD技術と、アモルファスGaNバッファー層の採用によって良質なGaNとInGaN(インジウム・ガリウム・窒素)単結晶を作製できるようになりました。また、Mg(マグネシウム)を添加したGaNを熱処理することによって、Mgと結合していたH(水素)を乖離(かいり)させて活性化し、p型になることを見いだしました。「この二つを発見した」と説明します。これが「ノーベル物理学賞に値すると認められた“発見”内容だ」と解説します。

 この結果、InGaNを発光層に用いたダブルヘテロ構造のLEDを作製し、発光効率2.7パーセントと高輝度の青色LEDを実現し、1993年11月に日亜化学工業は世界で初めて製品化しました。

 以上のことを、中村さんは例によってやや早口で語ります。中村さんは日本の高校生に研究者としての姿勢を伝えたいという意志を持っていました。しかし、高校生の主に物理の知識レベルを考えると、もう少しかみ砕いて説明しないと、高校生は“発見”内容を理解できないと思います。相手の知識レベルを考慮し、自分が伝えたい内容をどのように伝えるかという“科学技術コミュニケーション”の工夫が足りません。

 日亜化学工業を退職されたころから、中村さんの講演会や記者会見などを拝聴し、それなりの理屈はあると感じています。中村さんが“科学技術コミュニケーション術”を会得すると、“鬼に金棒”なのですが。

(追記)
 中村さんは青色LEDを用いた照明器具が普及し始めているが、今後一層高輝度を追究していくと、青色LEDは高輝度化を目指して入力電流を増やすと、限界が見えてくる。これに対して、青色レーザーにはその限界がないので、今後は青色レーザーを用いた照明器具が本命になると説明しました。これも大きな技術革命を起こしそうです。