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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

慶応大学の夏野剛教授はベンチャー起業家の必要条件を分かりやすく語りました

2011年06月02日 | 汗をかく実務者
 現在、慶応義塾大学教授をお務めの夏野剛さんは、NTTドコモ(エヌティーティードコモ、東京都千代田区)がiモードサービス(携帯電話網を使って提供するインターネット接続サービス)を始めた時の「マルチメディアサービス部長」として有名な方です。iモードサービスという新規事業起こしを指揮した実績を持つ、夏野教授の起業家論を伺いました。

 夏野さんは、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の特別招聘(しょうへい)教授です。今回は、ベンチャー企業を創業するポイントを知りたいと考えている慶応大学の学生に対して、「ベンチャー企業を創業する意義」を分かりやすく説明しました。



 「仕事面で、他人にあれこれ言われたくないから社長になるたいとか、金持ちになりたいなどという動機でベンチャー企業を創業する方は、勝手に金儲けしてほしい。そんな人は小金持ちになって満足するだろう、たいていは失敗するけれど」と、ベンチャー企業創業の目的を間違えないように説明します。「社会的に困っているニーズがあるのに、だれも解決案を出していないなどの社会をよくしたいという動機が起業家には必要」と語ります。ベンチャー企業を創業して、難問に遭遇した時に、「社会をよくしたいという動機がないと、乗り越えられない。また、その時の周囲の支援者などから支援を受けられない」からと動機の重要さを説きます。

 「自分が本当にやりたいと心底から思わないと、創業後の事業化過程で出てくる難問難題に対処できない、乗り越える気持ちを維持できない」と、新規事業時の難題の厳しさを語ります。



 その説得力のある語り口は、新規事業起こしを進める“起業家”そのものでした。当時の携帯電話事業に対して、インターネットとの新しいつながりを持たせる新規事業の「iモード」事業を提案し、実現するには、こうした説得力が不可欠だっただろうと感じました。

 実は今回拝聴したのは、慶応大学などの“学生”が創業したベンチャー企業の創業体験などを、起業家4人が語るパネルディスカッションでした。夏野教授は、そのパネルディスカッションのコメンテーターとして登壇したのですが、起業家のあり方などについて、ズバズバとコメントし、完全に“夏目教授セミナー”に変身させてしまいました。

 パネルディスカッションのテーマは「革新的起業家と革新的起業家支援に必要なものは何か」です。夏目教授はこのテーマをまず、批判しました。「革新的起業家には、“起業家支援”など必要ない」と諭します。「革新的な起業家は、他人の支援などなくても、自分がやりたい新規事業をどんどん推し進めるから」と説明します。

 誤解しないでいただきたいのは、今回登壇した若手の起業家4人はベンチャー企業の創業経験を基に、創業者でなくては語ることができない体験談・実践談をきちんと語りました。その4人が語る内容の意味を、夏目教授が分かりやすく解説し、起業体験がない学生が誤解しないように分かりやすく諭したのです。

 このパネルディスカッションは、神奈川県藤沢市にある慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で開催されました。大学発ベンチャー企業を育成する慶応藤沢イノベーションビレッジ(SFC-IV)という建物の設立5周年記念セミナー「革新的起業 起業家精神が未来を創る」として実施されました。このパネルディスカッション「革新的起業家と革新的起業家支援に必要なものは何か」の主役は、そのイノベーションビレッジから誕生した4社の社長です。

 “面白法人”を自称するカヤック(神奈川県鎌倉市)の柳澤(やなさわ)大輔代表取締役、パンカク(神奈川県藤沢市)の柳澤(やなぎさわ)康弘代表取締役社長、ユーザーローカル(東京都新宿区)の伊藤将雄代表取締役、Loico(神奈川県藤沢市)の杉山浩二代表取締役社長の4人です。この4人の中で、2人の会社は慶応藤沢イノベーションビレッジに入居しています。

 長くなったので、彼らの起業体験などについては明日に。
 なお、慶応藤沢イノベーションビレッジは経済産業省系の独立行政法人中小企業基盤整備機構が支援した建物です。

高温超電導材の開発競争に火をつけたチュー教授にお目にかかりました

2011年02月27日 | 汗をかく実務者
 2011年2月11日に、住友電気工業は「臨界電流値が200アンペアと大電流を流せるビスマス系高温超電導線『DI-BSCCO』の量産試作を開始した」と発表しました(「DI-BSCCO」は住友電工の高温超電導線の商品名です)。今春を目指して、量産体制を整備しているそうです。住友電工は、高温超電導線を事業化しようと務めている数少ない企業の一つです。

 住友電工は2004年にビスマス系高温超電導線の“工業製品”化に成功し、現在、臨界電流値180アンペアのビスマス系高温超電導線を量産していると発表しています。2006年1月に、臨界電流値200アンペアの試作品を開発したと発表していました。つまり、約5年かかって事業化に向けた量産試作体制ができたということのようです。

 高温超電導材は、1986年にIBMチューリッヒ研究所のアレックス・ミューラーさんとジョージ・ベドノルツさんがランタン系酸化物(La-Ba-Cu-Oペロブスカイト系)が超電導体(超伝導体)になることを発見し、“高温超電導”ブームを起こしました。この功績で、お二人は1987年のノーベル物理学賞を受賞しています。

 実は正確にいえば、ランタン系酸化物が超伝導現象を示していることを学術的に証明したのは、東京大学の田中昭二教授のグループです。ただし、ランタン系酸化物は超電導を示す転移温度が30K程度で、安価な冷却材である液体窒素を利用することができませんでした。

 実際に、高温超電導材の実用化に火をつけたのは、米国ヒューストン大学のポール・チュー(Paul Chu)教授です。イットリウム系酸化物系(化学式はYBa2Cu3O7のY-Ba-Cu-Oペロブスカイト系)が、液体窒素温度(77K)を超える、転移温度(Tc)90Kを持つ超伝導体であることを発見し、実用化への道を切り開いたからです。現在、高温超電導材として一番開発されている材料です。日本以外の国々は、イットリウム系酸化物での高温超電導線材などを実用化しつつあります(日本はイットリウム系酸化物とビスマス系酸化物の両方を実用化する戦略を立て、実行しています)。

 そのチュー教授が2月中旬に来日され、お目にかかる機会を得ました。




 日本側の著名な研究者・大学教授などと基礎研究などの取組方や多額の研究資金を投入する大型の研究開発プロジェクトの進め方などを、淡々と理詰めで議論されました。

 チュー教授は、IBMチューリッヒ研究所のミューラーさんとベドノルツさんがランタン系酸化物が超伝導体になる発見をしたことを知ると、自分たちの研究テーマを、もっと高温で超伝導になる、実用的な酸化物を探索することに、すぐに切り替えました。1987年に入ると、酸化物超伝導体の研究ブームが世界中で起こり、世界中の大学や研究機関が熾烈(しれつ)な探索争いを始めていました。

 ヒューストン大のチュー教授のグループは、ある探索戦略に基づいてイットリア系酸化物が高温超電導体であることを発見します。この研究成果を学術論文にまとめ、学術雑誌に投稿しました。その投稿の際に、ある工夫をしたことがよく知られています。学術雑誌に学術論文を投稿し、掲載されるためには、その投稿論文が掲載するのに値する内容を持っているかどうかを同じ専門分野の学術専門家が、内容を審査するレフリー制度が採用されています。このレフリーの多くは大学や研究機関に所属する、いわばライバル研究者です。

 このため、イットリア(Y)超伝導体の研究成果の論文を投稿時にはイッテルビウム(Yb)と表記していました。実際に、イッテルビウム(Yb)酸化物が新しい高温超電導材候補との噂が広がり、高価な元素のイッテルビウム(Yb)の購入発注が増えたとの風評も流れたそうです。チュー教授のグループは投稿論文の校正時に、「イッテルビウム(Yb)は誤植だとして、すべてイットリア(Y)に直した」そうです。こうした工夫によって、イットリア系(Y-Ba-Cu-Oペロブスカイト系)が転移温度90Kの新しい高温超電導材であることを、学術論文に掲載できたそうです。そして、イットリア系の第一発見者がヒューストン大のチュー教授のグループである事実が守られたとのことです。

 自分たちの研究業績を守る工夫も、研究開発能力の一つといえそうです。

日本最大のソーシャルネットワーク・サービスのmixiについて伺いました

2011年02月23日 | 汗をかく実務者
 英語で「SNS」(Social Network Service)、日本語で「ソーシャルネットワーク」「ソーシャルメディア」などと呼ばれるIT(情報技術)サービスの現状について伺いました。まだ良く理解できていません。

 最近「○○さんからFacebookへの招待が届いています」という電子メールを時々、受け取ります。Facebook((フェイスブック)に登録するには、実名などを登録すると聞いていたので、せっかくですが、そのままにしてありました。Facebookは世界最大のソーシャルネットワーク・サービスです。これに対して、日本で一番多くの方が利用しているのは、mixi(ミクシィ)と呼ばれるソーシャルネットワーク・サービスです。


 「ユーザー数は2102万人(2010年7月31日時点で)を超え、日本最大の規模のSNSで、最近はコミュニケーションのインフラストラクチャーにまで成長を遂げています」とのことです。

 ミクシィ(東京都渋谷区)の代表取締役副社長兼COO(最高執行責任者)を務める原田明典さんは「近々、電子メール利用者よりも、SNS利用者の方が多くなる。電子メールの代わりに、これからはSNSを利用する人が増えるからだ」と説明します。実際に、SNSを使っていないので、この発言内容の真偽を判断する能力を持っていません。これまでは、電子メールで十分と、単純に考えてきたからです。

 原田さんによると、mixiに自分の友人情報、メールアドレス、電話番号などを登録しておくと、もしメールアドレスや電話番号を変えた時でも、いちいち友人に伝える必要がないそうです。自分の個人情報(ミクシィは「ソーシャルグラフ」と名付けています)を修正すると、その変更が友人には見えるそうです。自分の個人情報のメンテナンスを自動的に済ませることができるそうです。

 世界最大のSNSであるFacebookの利用者は、日本では、mixiに比べて大幅に少ないそうです。その理由の一つは、mixiはスマートフォンに対応していることが効いているのだそうです。そして、Facebookなどのライバルとの競合に打ち勝つために、ミクシィは「2010年9月に、新プラットフォームを発表」し、大きな勝負に出たのだそうです。mixiは、国内最大のSNS会員数という地位を維持していますが、日本でのライバルであるDeNAなどがゲームなどを中心とする「モバゲータウン」などによって、日本市場で攻勢を強めているからです。

 mixiというSNSを構成する要素は「ソーシャルグラフ」と、その上で動く「アプリケーション」「クライアント」の3層に分けることができるそうです。現在、「ミクシィが力を入れているのは、土台となるソーシャルグラフの部分だ」とのことです。ユーザーにとって、使いやすく、居心地がいいSNSをつくり、ソーシャルグラフを拡張し管理していくとのことです。「その上で動くアプリケーションやクライアントソフトウエアなどのソフトウエアは、外部企業などに面白いものをどんどん開発してもらいたい」といいます。オープン化する部分と、自分たちで守るコアと分け、Facebookなどのライバルに対して、優位を守り続ける戦略だそうです。

 ミクシィは2010年11月末に、郵便事業株式会社(東京都千代田区、日本郵便)と連携して「今年も『ミクシィ年賀状』を開始する」と発表しました。ミクシィ年賀状は、ソーシャル・ネットワーキング サービスのmixiを通じて、日本郵便が発行するお年玉付き年賀葉書を指定した友人や知人向けに作成し郵送するサービスです。


 2009年のお正月向けから始めたミクシィ年賀状のサービスは、2011年の正月向けでは、友人とのコミュニケーションを楽しめる機能を加えて展開したとのことです。友人・知人がmixiに個人情報(住所など)を登録していれば、その友人・知人の名前を指定するだけで、ミクシィが相手の個人情報から住所を探し出し、印刷して年賀葉書を発送してくれます。今回は1枚当たり98円としたそうです。年賀葉書の元々の50~55円より、少し高い点がポイントです。十分に儲かると同時に、mixiの使い方の幅を広げる戦略的な事業です。

 重要なことは、「mixiというバーチャルな世界のサービスを、年賀葉書の印刷、発送というリアルな世界と結合したことだ」そうです。今後も、バーチャルな世界とリアルな世界の結合を増やしていきたいといいます。バーチャルな世界のサービスは、紙を使わない”エコ”な世界ですが、ここを補償するために、「年賀葉書1枚につき、1本の植林をすることで、バランスをとっている」そうです。

 原田明典さんは、以前はNTTドコモで「i モード」ポータルや検索分野で優れた仕事をし、2007 年12 月にミクシィに転職されました。DeNAの代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の南場智子さんが「うちに来てくれなかった」と、悔しがった人物です。日本のIT業界は、原田さんのような、起業家魂を持った傑出した人物が大勢います。この点では、日本は何とかなりそうです。

微生物を利用する太陽電池などの研究開発話を伺いました

2011年02月18日 | 汗をかく実務者
 「21世紀は自然から学んだ知恵を“高度に”生かす時代だ」と、東京大学大学院工学系研究科教授の橋本和仁さんは強調します。この考えに基づいて、微生物利用の太陽電池や燃料電池などの実用化を目指しているそうです。

 橋本さんは、酸化チタンの光触媒効果を基に、有機物分解や親水・撥水(はっすい)効果を実用化したことによって、有名な教授の方です。


 その結果、悪臭などを酸化チタンの光触媒効果によって分解して無くす消臭効果などの用途を実用化しています。そして、光触媒塗装などの事業化が進み、雇用を産み出しています。ところが、太陽光の光エネルギーを巧みに活かしているのは植物であると気が付いた橋本さんは、「植物のような自然界にある光発電を実用化したい」と思い始めました。

 最近、住宅の屋根などで見かけることが増えているシリコン(ケイ素)製の太陽電池は、日本でも使用量が順調に増えています。シリコン製の太陽電池は、発電効率がアモルファスタイプで10~12%、微小結晶タイプで12~17%、単結晶タイプで15~20%に達しています。その一方で、アモルファスタイプなどのシリコン製太陽電池の製造には、実は大量のエネルギーを使っています。

 橋本さんは、太陽光を浴びた植物は効率的に光エネルギーを受け取り、利用していることに気が付きました。例えば、沼や池などの水質を落とすことで有名になったアオコの微細藻類の仕組みです。池に少し発生したアオコは、その少量がたちまち大量発生につながることが多いようです。微生物は増える点では、高効率です。「これを巧みに利用した太陽電池の実用化」を、橋本さんは「夢見ている」そうです。

 橋本さんは、自分の夢を実現するために、文部科学省系の科学技術振興機構(JST)が実施している戦略的創造研究推進事業(ERATO)に応募しました。採択の委員会では、「本当に事業化きるのか」と、かなり冷やかされたそうです。橋本さんの熱意のお陰から、無事に選ばれました。この「橋本光エネルギー変換システムプロジェクト」は、2007年1月から5年計画で始まりました。研究開発資金は5年間で、最大15億円が支給されます。


 その手法は「酸化チタンなどの基礎研究や応用開発で培ったナノテクノロジー手法を基に、ナノスケールで材料設計することにより新規機能材料の作成を目指します」と説明されます。

 現在は、光合成する微生物などがつくり出す電子や水素、メタンなどを利用して発電する微生物利用太陽電池を研究開発しています。さらに、二酸化炭素や水などを食べる微生物が有機物をつくり出し、その有機物が発電する仕組みの光発電素子も試作されているそうです。

 さらに微生物利用の燃料電池も基本システムのひな形を開発しています。光をあてると発電します。「微生物が本来持っている自己修復能などの優れた機能を利用した燃料電池を実用化したい」そうです。


 今回、橋本研究室を見学させていただいた際に、「中国人の博士課程学生などが増えている」と、伺いました。日本の挑戦的な研究開発を中国人の学生が主に支えているという構図はやや考える必要があります。優秀な日本人の博士課程の学生をどう増やすかが問われる時を迎えています。これは難問ですが、何とかしたい課題です。

ナノテクノロジーの申し子のカーボン・ナノチューブが安くなりそうです

2011年02月08日 | 汗をかく実務者
 「産業技術総合研究所と日本ゼオンは、カーボン・ナノチューブ(筒状炭素分子)を低コストでつくる技術を確立した」との記事が、2011年2月5日の日本経済新聞の夕刊の1面に載りました(新聞は、配達される地域ごとに版が異なります。このため、記事の掲載位置は微妙に異なります。購読している地域によっては、1面以外の面の場合もあります)。

 カーボン・ナノチューブは、CNT(Carbon nanotube)と呼ばれる炭素原子が6角形に並んだもの(6員環)が平面上につながったもの(グラフェン)を、のり巻きのように巻いた形状のものです。


 この炭素分子は、直径が2~3ナノメートルと非常に小さいのですが、ものすごく強くて、熱伝導性や電気伝導性にも優れているなどの性質を持っている、スーパー素材なのです。炭素原子だけでできた分子が驚くような性質をいくつも示すために、この性質を何かに活かしたいと、世界中で研究開発が盛んに行われています。その研究成果は、常にノーベル物理学賞の対象になっています。

 日経新聞の同記事が伝えるカーボン・ナノチューブはグラフェン1枚を巻いた“単層”のものです。これまでは、米国やオーストリア、中国などのベンチャー企業・中小企業などが、単層のカーボン・ナノチューブを販売していました。純度や品質などによって価格はまちまちなのですが、高純度品はだいたい1グラム数万~20数万円と高価です。同じように炭素でできているダイアモンドの宝石(各面をきれいに削ったもの)とあまり変わらないほど、高価なものです。このへんが同じように炭素でできている炭(すみ)とはまったく違います。たかが炭素ではないのです。

 今回の新聞記事の見出しは「ナノチューブ コスト1/1000 量産に道、産総研など 車・電機で応用に」と、派手にうたっています。記事を読むと、「車・電機で応用に」に相当する内容は、「折り曲げ可能な高性能ディスプレーやシリコンに代わる次世代半導体素子、電気自動車の蓄電装置」と夢を語っています。この新聞記事によって、日本ゼオンの株が買われて、株価が上がっていると、あるWebサイトが伝えています。

 今回、伝えられた産総研と日本ゼオンが、単層カーボン・ナノチューブの量産性を実証する“実証プラント”を設置するきっかけは、平成18年度(2006年度)から始めた「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」です。経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託事業として平成22年度(2010年度)までの5年計画で、日本ゼオン、産総研、日本ケミコンの3者の共同研究開発で始めたものです。高性能な電気二重層キャパシターの実用化を目指したものです。この開発プロジェクトのプロジェクトリーダーは、日本ゼオン取締役・執行役常務の荒川公平さんがお務めになっています。この開発プロジェクトの5年間の研究開発予算は約15億円です。


 将来、電気自動車などに搭載される可能性がある高性能なキャパシターを開発するには、単層カーボン・ナノチューブを“量産品”として安定して供給されることが必要になります。安定供給されないと、単層カーボン・ナノチューブを利用する製品を実用化する企業は、事業戦略が立てられません。それ以前に、製品の性能などの仕様(スペック)が決められません。ある程度の規模で、安定的に供給される単層カーボン・ナノチューブをコンスタントに入手できないと、製品の性能がばらつきます。製品の品質保証できないことになります。このままでは、応用製品を開発する企業は、事業化に踏み切れません。

 そこで、日本ゼオンと産総研は平成22年度中に、量産実証プラントをつくって稼働させ、2011年4月から希望する企業に、量産品を安定供給することにしました。単層カーボン・ナノチューブを量産するといっても、設備能力からみて、1日当たりに600グラムつくる計画です。産総研のこれまでの合成装置は1回当たりの合成量が0.1グラムレベルですので、文字通り桁違いに大量につくることができます。しかも、当面の提供価格の目標は1グラム当たり1万円以下だそうです。

 これまでにも、単層カーボン・ナノチューブとして、純度が90%以上の高純度品は1グラム当たり20数万円から数万円ですから、安いものを大量に供給されることになります。今回、供給される単層カーボン・ナノチューブは、「外径が2~3ナノメートル、長さが100ミクロン以上、比表面積が1グラム当たり1000平方メートル以上」で、成分のほぼ100%が単層カーボン・ナノチューブだそうです。不純物がほとんど含まれていないとのことです。ここまで高純度で高品質なものを量産品として供給するそうです(長くなりましたので、ここまでで。続きは明日お伝えします)。
(注)1ナノメートルは、1 メートルの10億分の1です。1ミクロンは1メートル の100万分の1です。細胞の大きさは数ミクロンです)