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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

九州大学などが研究開発しているNaイオン2次電池の話に興味を持ちました

2014年03月01日 | イノベーション
 今週、東京都内で開催された「元素戦略/希少金属代替材料開発 第8回合同シンポジウム」という材料系のシンポジウムを拝聴した話の続きです。

 文部科学省・科学技術振興機構(JST)が推進している元素戦略プロジェクトは、希少金属元素(レアメタル元素)を使わずに、同等の性質・機能を発揮する新物質を探索する研究開発プロジェクトです。実現性がやや難しい研究開発テーマに挑戦していますが、もし実現すれば“破壊的イノベーション”を起こす可能性を秘めています。

 今回の元素戦略プロジェクトの研究開発成果の中では、九州大学などの4者が共同で研究開発しているNa(ナトリウム)イオン2次電池の話に興味を持ちました。



 上記は、住友化学の技報に掲載された表紙の一部です。住友化学はLi(リチウム)イオン2次電池の負極になる炭素材料を研究開発してきました。その研究開発成果をNaイオン2次電池の基盤研究に生かしています。

 Naイオン2次電池は現在利用されているLiイオン2次電池に似た仕組みの電池です。“2次電池”とは充電可能で、繰り返し使える電池のことです。
 
 Liイオン2次電池は携帯用パソコンやスマートフォン・携帯電話機などの電池に幅広く使われています。今後、電気自動車などの普及が本格化し、Liイオン2次電池の需要が急激に増えると、現在、南米のボリビアなどで採取しているLi資源の採掘能力が需要に追いつかなくなるリスクが高まると予測されています。このため、Liイオン2次電池の一部をNaイオン2次電池で補足しようという研究開発を進めているそうです。

 今回の九州大学などの4者の研究開発体制は、九州大学先導物質化学研究所がNaイオン2次電池の正極材料を、住友化学筑波開発研究所が負極材料を、山口大学と日本大学が電解質の開発をそれぞれ担当し、4者共同でプロトタイプ電池としての充放電挙動を確認するというものです。

 2次電池反応の主役を担うNaイオンは、Liイオンに比べてイオン半径がかなり大きいために、Naイオンが出入りする正極と負極の物質探しが行われました。正極材料の探索を担当した九州大学はCo(コバルト)などのレアメタルを含まない正極材料を探索し、有力候補材料としてNa3V2(PO4)2F3(ナトリウム・バナジウム・リン、酸素、フッ素の複雑な化合物、数字は下添え字です)などの数種類の正極材料候補を見いだし、Naイオン動作を調べたそうです。

 負極材料を担当した住友化学は“多孔性難黒鉛化炭素材料”として、1600℃で熱処理した「C1600」というハードカーボン系が使えることを見いだし、充放電動作でのNaイオンの可逆性を確認したそうです。問題になる金属Naの析出がないことを確認しています。

 山口大学と日本大学は非水溶媒イオン液体混合電解液の研究開発を担当しました。とても複雑な物質の混合物なので中身は省略します。Liイオン2次電池での電解液の知識が基盤になっているようです。

 九州大学などの4者は研究開発成果である正極材料、負極材料、電解液を用いてプロトタイプ電池を構成し、ある電流での室温・可逆反応を確認したそうです。過充電耐性試験を行い「破裂・発火現象が起こらないことを確認した」そうです。

 今回の研究開発成果をさらに進めて将来、水溶液系電解液を用いたNaイオン2次電池が実用化できれば、「Liイオン2次電池に比べて、かなり低コストなNaイオン2次電池が登場する」と、九州大学先導物質化学研究所の研究者は説明します。

 たぶん、まだいろいろな困難が待っていると思いますが、こうした研究開発過程からまた興味深い新物質・材料が誕生しそうです。

「元素戦略/希少金属代替材料開発 第8回合同シンポジウム」を拝聴しました

2014年02月28日 | イノベーション
 今週、東京都内で「元素戦略/希少金属代替材料開発 第8回合同シンポジウム」という材料系のシンポジウムが開催されました。

 主催者は“元素戦略/希少金属代替材料開発 合同戦略会議”という組織です。



 「希少金属」という言葉よりも、実際には“レアメタル”という言葉の方が新聞紙などではよく使われています。直感的には、地球上にあまりない金属元素(実は非金属元素も含まれています)という意味と感じますが、正確には当該金属元素の原料となる鉱石などが地球上で偏在し、その産出国・輸出国が市場価格をコントロールする可能性があり、日本が入手困難になる可能性がある元素を意味します。

 具体的には、希少金属元素は中国や南アフリカなどに偏在しています。例えば、パソコンのハードディスク駆動装置(HDD)を動かす高性能モーターを構成している高性能磁石のネオジム・ホウ素・鉄磁石の耐熱性を高めるディスプロシウム(Dy)という元素の鉱石は、主に中国で産出されます。

 ディスプロシウム鉱石は、以前は米国の鉱山でも産出していたのですが、中国が安値で輸出した結果、採算がとれなくなり、閉山しています。こうした状況で、2011年に中国政府は自国の磁石メーカーを保護するなどの目的で、ディスプロシウムなどのレアメタル鉱石や原材料の輸出許可枠量を絞りました。

 この結果、ディスプロシウム元素の材料価格は2011年には10倍ぐらい跳ね上がりました。他のレアメタル元素も数倍から10倍ぐらいまで跳ね上がりました。レアメタル元素の市場は輸出国の行動を、欧米などの市場関係者が読み取り、投機的な動きをするために、乱高下するようです。

 高性能磁石のネオジム・ホウ素・鉄磁石は、ハイブリッドタイプ(トヨタ自動車の「プリウス」など)の乗用車の駆動用モーターにも使われています。このモーターは耐熱性が必要なために、ディスプロシウムの添加が不可欠です。

 経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はレアメタル元素の市場価格が不安定になるリスクが高いと読み、平成19年度(2007)年度から希少金属代替材料開発プロジェクトを始めました。例えば、ネオジム・ホウ素・鉄磁石の耐熱性向上のために添加するディスプロシウムを30パーセント削減する、液晶テレビの透明電極材料であるインジウム・スズ酸化物のインジウム(In)添加量を半減させるなどの開発テーマを進めました。

 各テーマは5年間の研究開発プロジェクトでした。その研究開発成果はほぼ達成され、各レアメタルの使用量は削減しつつあります。

 主催者は“元素戦略/希少金属代替材料開発 合同戦略会議”という組織ですが、その実態は内閣府、文部科学省、経済産業省、科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構です。

 特に「文部科学省と経済産業省は平成18年度(2006年度)から府省の枠を超えて相互に連携し、希少元素の使用量を大幅に低減又は代替する技術について、基礎研究から実用化開発まで合同で推進してきた」と自賛しています。

 鉱山資源が少ない日本は、研究開発成果によって、製造立国としての課題を乗り越えていることを示す事例のようです。

日立製作所デザイン本部が目指すエクスペリエンスデザインの話の続きです

2014年02月12日 | イノベーション
 日立製作所のデザイン本部が目指す“エクスペリエンスデザイン”についてお伺した話の続きです。

 デザイン本部の仕事の内容は、2000年過ぎからサービスデザインが増え始めたそうです。日立製作所が主力事業とする社会イノベーション事業では、デザインの役割は「イノベーションの創出」を担うことに進化していると説明します。

 こうした「イノベーションの創出」を担うデザインは“エクスペリエンスデザイン”(Experience Design)によってサービスデザインが実現すると読み解きました。

 エクスペリエンスデザインとは、日立のデザイン本部のWebサイトによると「お客さまの経験価値をデザインする」と説明されています。そして、エクスペリエンスデザインはまだ進化しているようです。



 日立製作所の情報・通信システム社のシステム開発標準技法の「HIPACE」を基に、エクスペリエンスデザイン技術を取り入れて体系化したのがエクスペリエンスデザイン指向アプローチになったそうです。

 まず「現状把握」し「将来像を検討」し「実現性検証」の各プロセスにエクスペリエンスデザイン技術を活用する方法だそうです。



 「現状把握」には文化人類学などで使うエスノグラフィー調査(フィールド調査です)をし、関係者・ユーザーにデプスインタビューをして現状課題を把握し、課題を抽出します。

 この現状把握結果を基に、経験価値を重視した新業務(サービス)の「あるべき姿を検討」し、「改革の方向性を抽出」します。こうした作業では「エクスペリエンステーブル」という手法を使うそうです。

 「改革の方向性を抽出」を基に「業務の実現性検証」をし、その中で費用対効果を検証し、「基本構想書・計画書をまとめる」そうです。

 こうしたエクスペリエンスデザイン指向アプローチの実践から、エクスペリエンスデザインは「Deep Inquiry」「Ideation」「Prototyping」「Realization」の4つを回す過程として考えられるようになったそうです。そして、将来ニーズを描き、サービスをデザインする「ビジョンデザイン」にたどり着いたそうです(英語でしか表現できないことに、日本語の限界も少し感じますが、思考の途中なのかもしれないとも感じています)。

 「ビジョンデザイン」は「将来の潮流を把握し、それらが解決された社会の姿を生活者(ユーザー)の視点で詳しく描く」ことだそうです。「関係者が開発の目的と方針を共有するための方法論」だそうです。

 日立製作所では今後、社会イノベーション事業を推進するために、将来の望ましい社会の姿とは何か、どのような価値を提供したのかを、デザイン本部の担当者と当該事業部とで考え、事業戦略・事業企画をつくるそうです。

 このための準備として、デザイン本部は潮流の把握として「2025年の人の課題」を把握するために25個の「きざし」を苦労してまとめ、Webサイトに公表しています。

 「きざし」の観点を踏まえ、社会の姿を疑似体験する「ビジョン映像」をつくり、発信しているとのことです。

 日立製作所が最近力を入れているヘルスケア事業のために「ヘルスケアビジョンデザイン」の「ビジョン映像」を作成したようです。

日立製作所デザイン本部が目指すエクスペリエンスデザインの話を拝聴しました

2014年02月11日 | イノベーション
 最近、社会イノベーション事業に軸足を移して事業売上げが絶好調な日立製作所のデザイン本部が目指す“エクスペリエンスデザイン”について話をお伺いしました。

 日立製作所は研究開発グループの傘下に中央研究所(東京都国分寺市)、日立研究所(茨城県日立市など)、横浜研究所(横浜市)の3研究所と、デザイン本部と呼ばれる“デザイン研究所”を持っています。

 このデザイン本部は以前は、国分寺市の中央研究所の隣りと東京都渋谷区青山の2カ所に拠点を構えていましたが、最近は東京都港区赤坂に移転しています。いろいろな方と会うには、都心部の方がいいとの判断のようです。

 デザイン本部の仕事の内容は、1957年に家庭電化製品のデザインの研究所として設立されてからは、プロダクトデザインがまずは主な仕事だったそうです。1980年代からはコンピューターのモニターディスプレーに表示するなどのインフォメーションデザインの仕事が増え、さらに2000年過ぎからサービスデザインが始まったそうです。

 インフォメーションデザインは各種ソフトウエアなどのインターフェースのデザインが主な仕事だったそうです。これに対して、サービスデザインは新しいサービスモデルの利用シーンを想定したユーザーとの“接点”となるインターフェース・デザインだそうです。例えば、日立製作所が今後力を入れるヘルスケアサービスのサービスモデルに対する各種のインターフェースデザインや地域のエネルギー・マネジメント・システム(AEMS)などの各インターフェースが対象になっているそうです。

 比較的分かりやすい、具体的なサービスデザインは、日立製作所が受注し、納品した英国の鉄道システムの事例だそうです。



 最近放映されているテレビコマーシャル(例えば、関東圏では毎週土曜日の午後9時から放映される「世界不思議発見」の中などで放映されています)では、英国のロンドン市まで向かう少年が鉄道の切符を購入する券売機システムでのやり取りや、駅構内のキヨスクでの食べ物の購入シーンのやり取りを円滑にするインターフェースデザインが示されています。人間と情報、モノとの関係ややり取りの関係性がデザインされています。

 日立製作所が事業として注力する社会イノベーション事業では、「デザインの役割は『イノベーションの創出』を担うことに進化している」と説明します。1990年代後半は、デザインの役割は「問題の解決」でしたが、近未来の社会像、あるいは近未来の社会インフラなどを想像し、その社会を想像し、それを実現するイノベーションを創出することが仕事になるとのことです。

 こうした「イノベーションの創出」を担うデザインは“エクスペリエンスデザイン”(Experience Design)と考えられています。



 日立のデザイン本部のWebサイトによると「お客さまの経験価値をデザインする」と説明されています。

 お客さま(ユーザー)が製品・サービスに接する一連の時間軸での流れで、顕在的・潜在的に求めていることを発見し、それを具現化し、「心地よい印象」「見たことのない驚き」「知的な喜び」「徹底的な安心感」などの“経験”を製品・サービスに織り込むことをによって「うれしい経験・体験とは何かを」描くことが、エクスペリエンスデザインなのだそうです。

 今回、エクスペリエンスデザインについて説明した方は「デザイン本部のデザイナーの中でもエクスペリエンスデザインの理解度がいくらか異なり、以前のソリューションの考えから抜け出ていない方もいる」とのことです。

 サービスデザインを実現するための手法の一つがエクスペリエンスデザインになっているようです。

 一番の課題は、「エクスペリエンスデザインによって製品・サービスに接するユーザーに向けてデザインができても、それを実現する事業部側がまず受け入れ、事業収益をどう上げるかを設計(デザイン)し実現することにある」そうです。

 近未来像を描くことはやはりかなりの難問です。長くなったので、今回はここまです。

国際ナノテクノロジー総合展で、電子ペーパーの試作品を拝見しました

2014年02月03日 | イノベーション
 2014年1月29日から31日までの3日間にわたって開催された、第13回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2014)に行ってみました。場所は、東京都江東区の東京国際展示場(通常、東京ビックサイト)です。

 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議の入り口近くには、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の大きなブースがあり、その中に入ってみました。

 その展示の中で、次世代プリンテッドエレクトロニクス技術研究組合(JAPERA)が開発をしている電子ペーパー系の開発状況を垣間見ました。この技術研究組合に参加しているリコー、凸版印刷、大日本印刷が展示しています。

 この展示された電子ペーパーでは、プラスチックフィルムの上に、高精細な画像を表示する機能をつくり込むことによって、従来の液晶ディスプレーなどに比べて、軽くてしなやかなディスプレーを製品化しようとしています。

 約6型(15センチメートル程度)のフルカラーを表示できるフィルムパネルディスプレーの試作品です。



 マゼンタ(赤)やイエロー(黄)、シアン(青)、ブラック(黒)のそれぞれの原色を、透明状態と着色状態に可逆的に変化させるエレクトロ・クロミック・インクを印刷したものを重ねて、カラー表示できるディスプレーの試作品です。

 低温製膜技術や積層コーティング技術を盛り込んで、柔軟で軽いディスプレーシートが試作できたそうです。

 この試作品のディスプレーが画面を表示する様子の画像を、既存の液晶ディスプレーによって表示しています。ある意味で少し悲しい展示方法です。





 現在、電子ペーパー向けの薄膜トランジスタ(TFT)を印刷法によってつくる技術をほぼ確立し、高精細化や高機能化を図っている途中とのことです。各応用に向けて、現在どこまで来ているのかは、知識不足で読み取れませんでした。

 今回の電子ペーパー系試作品の展示品によって、将来、日本の企業がまた電子ペーパー系の表示系デバイスによって、グローバル市場で支配権をとることを祈るばかりです。

 つい先日の1月27日には、エプソンが電子ペーパーを表示デバイスとして採用した腕時計の「Smart Canvas」を発売すると発表しています。この電子ペーパーがどんなものなのかは、分かりません。日本の各企業が、電子ペーパーを表示デバイスに使う時代が近いのかもしれません。