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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

京都大学が不思議な合金“人工ロジウム”の開発に成功した話を拝聴しました

2014年05月22日 | イノベーション
 京都大学は2014年1月22日に、パラジウム(Pd)とルテニウム(Ru)が原子レベルで混ざり合った新しい合金“人工ロジウム(Rh)”の開発に成功したと、発表しました。京都大大学院理学研究科の北川宏教授の研究グループの研究成果です。

 この革新的な研究成果のお話を最近、北川宏教授が解説する講演として拝聴しました。

 今回開発したパラジウムとルテニウムが原子レベルで混じり合った合金は、この二つの金属元素の周期表の間にあるロジウム(Rh)元素にかなり近い電子状態を持つために「化学的性質がロジウムに近いので“人工ロジウム”になる」という、現代の“錬金術”のような研究成果です。パラジウムとルテニウムは温度を2000度(摂氏)まで上げて、液相にしても相分離してしまうために、従来の溶かして合金にする製造法では合金にはならない貴金属元素同士です。



 パラジウムとルテニウムの合金は、高価な“貴金属”類のロジウムよりも安く「現在の市況で約3分の1程度になるために、安価なRh代替品として利用できる可能性がある」と説明します。

 パラジウムとルテニウムの合金のつくり方は具体的には、還元剤としてトリエチレングリコールを、保護材としてポリビニルピロリドン(PVP)を混合した溶液(温度200℃)に、パラジウム源として塩化パラジウム・カリウム水溶液〔K2(PdCl4)〕と塩化ルテニウム水溶液〔RuCl3〕〔塩化ルテニウム〕をゆっくりと混合すると、PdxRu1-x(xは変数)という組成の粒径が10ナノメートル以下の微粒子が作成できるそうです。

 このパラジウムとルテニウムの合金の微粒子も模式図(下図の右側)を見ると、原子同士で混じり合っています。



 この合金微粒子の模式図は、走査型・透過電子顕微鏡(STEM)高角散乱環状暗視野などでの元素マッピングからパラジウム(結晶構造が六方最密構造)とルテニウム(結晶構造が面心立方構造)が原子レベルで混じり合った固溶体になっていることが明らかになったそうです。錬金術師が直感的に考えることと、結果は偶然、一致したことになりまうs。

 現在、ロジウムは自動車の排ガス(ガソリンエンジン)に含まれている炭化水素や一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を除去する触媒(三元触媒)として利用されています。

 今回開発したパラジウムとルテニウムの合金も、一酸化炭素を二酸化炭素にして酸化除去する触媒としての性能が高いことが示されました。さらに、最近は窒素酸化物(NOx)を窒素ガス(N2)とO2(酸素ガス)に還元する触媒機能を持っていることも発見したそうです。

 互いに溶け合わないパラジウムとルテニウムでは、パラジウムが水素(H)と反応してパラジウム水素化物になると「まったく別の白金族元素のように振る舞うために、ルテニウムと固溶するようになると、固溶する仕組みを推定している」と、北川教授は説明しています。そして「その後、パラジウム水素化物が水素を放出すると、そのまま、パラジウムとルテニウムが固溶し合った状態の準安定相として残る」とのことです。「この準安定相は約500℃まで安定しているので、実用品として利用可能な温度範囲にあるといえる」と説明します。

 不思議な人工ロジウム合金の話でした。

「富士通フォーラム2014」で、レタスを栽培する植物工場展示を拝見しました

2014年05月19日 | イノベーション
 富士通は「富士通フォーラム2014」という技術展示会を5月中旬に東京都千代田区で開催しました。

 その技術展示会場の入り口付近に、レタスを栽培する植物工場の展示ブースがありました。



 昨年2013年に、福島県会津若松市にある富士通系の半導体工場を植物工場に転換すると、富士通は発表しました。休眠中のクリーンルームを転用し、完全な人工光によって、2013年10月からカリウム含有量が露地栽培品に比べて約1/5と少ない高付加価値のレタスを生産すると発表していたものの技術展示ブースです。

 この植物工場で栽培したレタスは、農薬を使っていないので「洗わずにそのまま食べられる」そうです。そして、地面などから付着する細菌が極端に少ないので、「冷蔵庫に保管すれば、約2週間は鮮度を保つ」そうです。ただし、価格は露地物に比べて1株400円程度と高いので「カリウム摂取量が制限されている腎臓病患者向けなどの病院食を目指す」ようです。

 日本での独自タイプの高付加価値品を狙う野菜事業です。

 2014年1月から1日当たり3500株を出荷する計画を立てています。富士通が得意とする、農業向けのクラウド型データサービス「Akisai」を活用して生産性を高めています。ここが富士通のハイテク技術の活用法です。

 この農業クラウドサービスは、栽培データを収集し分析しデータ解析して、肥料の量などを最適化するほか、流通・販売企業の需要に応じた生産調整なども実施できるそうです。

 2014年5月15日に、東芝は神奈川県横須賀市に所有する建屋を活用した植物工場「東芝クリーンルームファーム横須賀」を立ち上げ「長期保存できる無農薬の野菜生産を事業化する」と発表しました。

 レタスやベビーリーフ、ホウレンソウ、ミズナなどを栽培する植物工場をつくるそうです。各野菜に付着している雑菌が路地栽培の野菜と比べて1/1000程度と少ない環境を実現する計画です。2014年度上期中には出荷を開始し、年間3億円の売り上げを見込むようです。

 電子立国日本を支えてきた半導体工場などの休眠工場・施設などを高付加価値品をつくり出す植物工場に転用し、高度なデータ解析を実現することによって、“モノづくり”日本を維持し、活路を見いだす狙いのようです。

 例えば、日本の電機メーカーなどが培ってきた“プラントエンジニアリング”という、工場の原料などの供給体制や省エネルギーシステムなど工場運営のノウハウを活用できるからです。

 こうした紆余曲折(うよきょくせつ)の中から、次の新規事業を見いだすことが大切です。新規事業はある種の新市場探し・新市場づくりですから。運がよければ、日本型農業の未来の一部を切り開きます。

装着型の作業支援ロボットシステムの製品化・事業化の話の続きです

2014年03月09日 | イノベーション
 筑波大学発ベンチャー企業のサイバーダイン(CYBERDYNE、茨城県つくば市)などの数社が、医療・福祉・介護分野向けの“ロボットスーツ HAL”のような作業を支援する装着型の作業支援ロボットシステムを製品化し事業化し始めた話の続きです。昨日2014年3月8日編に内容がいくらか重なります。

 福祉・介護分野向けの装着型ロボットシステムの中では、サイバーダインの“下肢用HAL”が一番有名なようです。新聞や雑誌、WEBサイトなどの記事やテレビ番組などでよく取り上げられているからです。

 最近、パナソニックの子会社のアクティブリンク(奈良市)は、2015年から装着型の「パワーローダー」を医療・福祉・介護分野向けにも適用する事業戦略をとったそうです。

 アクティブリンクは、2003年6月にパナソニック(当時は松下電器産業)の社内ベンチャー制度「パナソニック・スピンアップ・ファンド」に、現在同社の社長を務める藤本弘道さんが仲間と一緒に応募して設立したカーブアウト型ベンチャー企業です。パナソニックが株式の99パーセントを出資(保有)する子会社です。パワーアシストロボット「パワーローダー」を開発し、レスキュー作業や建設作業、工場作業など向けの支援ロボットを開発してきました。

 アクティブリンクは当初、100キログラム以上のモノを運ぶ作業を支援する建設作業支援に重点を置いて、“パワーローダー”の実用化を進めていたようです。2013年3月に、三井物産が資本の19パーセントに当たる4400万円を出資し、用途開発などを手がける営業面を強化し、30キログラム以下のモノを運ぶ用途開発も始めたようです。



 見た目は、“ミニミニガンダム”に乗っているような感じの、“重機”ロボットです。

 以前、ある機会にお目にかかった藤本さんは研究開発者という雰囲気の方でしたが、三井物産と資本提携し、マーケティングした結果、軽作業用の「パワーローダー」の製品化を重視するように事業戦略を修正したようです。最近は、ある経済誌の取材に対して「1体当たり50万円程度の製品化を目指す」と語っています。

 2014年2月27日に、菊池製作所と東京理科大学教授の小林宏さんが共同で設立したベンチャー企業のイノフェス(東京都葛飾区)も“マッスルスーツ”という作業補助・福祉用の機器を製品化する事業を始めます。同社は、小林宏さんのの研究開発成果である空気圧で作動する“人工筋肉”を利用するものです。

 小林さんも1台当たり30万円から50万円の手頃な価格の物流作業や介護作業を支援する“マッスルスーツ”を製品する計画です。

 こうした装着型の作業支援ロボットシステムの製品化、事業化が最近、活発になった背景には、行政による公的な研究開発支援が大きいようです。例えば、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が「生活支援ロボット実用化プロジェクト」を、経済産業省がそれぞれ2013年8月に高齢者の自立支援、介護実施者の負担軽減に資するロボット介護機器の支援として「ロボット介護機器開発・導入促進事業」を進めました。この支援企業の一覧をみると、医療・福祉・介護分野向けの装着型の作業支援ロボットシステムはまだ参入する企業が出てきそうです。

 たとえば、和歌山大学が研究開発している農業用の作業支援ロボットシステムは、弊ブログの2012年9月27日編に紹介しています。東京農工大学でも研究開発しています。こうした各大学の研究成果を基に参入する企業が増えていきそうです。日本市場で互いに競い合って、独創的ないい製品を実用化してもらいたいです。

ベンチャー企業のサイバーダインが3月に上場することが話題になっています

2014年03月08日 | イノベーション
 サイバーダイン(CYBERDYNE、茨城県つくば市)は、2004年6月に筑波大学大学院教授の山海嘉之さんの研究開発成果を基に、創業したベンチャー企業です。同社は、つくばエクスプレスの研究学園駅のすぐ側に立っている建物で活動しています。

 山海さんも、弊ブログの2014年3月2日編でお伝えした、内閣府の「最先端研究開発支援プログラム」というプロジェクトの中心研究者のお一人です。

 サイバーダインは、2014年2月19日に東京証券取引所がマザーズ市場に上場することを承認したとのニュースが話題を集めています。株式の公開予定日は3月26日で、主幹事会社はSMBC日興証券だそうです。

 大学発ベンチャー企業の大型のIPO(新株上場)になるとして、証券会社やベンチャーキャピタル(VC)などの金融系の業界で話題になっています。

 サイバーダインは、医療・福祉・介護分野向けの“ロボットスーツ HAL”と呼ばれる人間の動作を補助する装置・システムを開発・製造・販売しています。



 2008年に、同社は大和ハウス工業とロボットスーツの販売代理店契約を結ぶなどして同社から事業資金を獲得しています。

 サイバーダインのロボットスーツは人間が上半身の腕を動かすと考えた時に、その腕の筋肉に“筋電流”が流れるのをセンサーで検知し、この信号検知によって、動かす筋肉の動きを支援するように、補助システムの関節部にある電気モーター(DCモーター)が動くことで、通常の筋肉の数倍の力が働き、動きを補助・支援ます。

 こうした動作原理を利用して、脚の筋肉の動きが弱った人間の動きを補助する“下肢用HAL”を運動機能回復用の福祉機器としてリースしたり、販売したりしています。



 サイバーダインが“下肢用HAL”などを福祉機器向けなどで製品化し始めたことから、日本市場では同様の目的の福祉機器開発が活発化しています。

 例えば、2014年2月27日に菊池製作所と東京理科大学の教授が共同で設立したベンチャー企業のイノフェス(東京都葛飾区)も“マッスルスーツ”という作業補助・福祉用の機器を製品化する事業を始めます。

 東京理科大学教授の小林宏さんの研究開発成果である空気圧で作動する“人工筋肉”を利用するものです。

 見かけは似たような作業補助用のロボットシステムを、パナソニックの子会社であるアクティブリンク(奈良市)は、2015年から装着型の「パワーローダー」というロボットシステムを量産化することを明らかにしています。

 いろいろな会社が、福祉機器用のロボットシステムを製品化することで、製品化開発が活発化し、その市場ができつつあるようです。

科学技術の展示会・イベント「FIRST EXPO 2014」を少し拝聴しました

2014年03月02日 | イノベーション
 2014年2月28日から3月1日までの2日間にわたって、「FIRST EXPO 2014」という科学技術の展示会・イベントが東京都新宿区で開催されました。

 この展示会・イベントは主に、科学技術が好きな高校生や大学生などに、日本の科学技術の最前線の姿をみせて、科学技術の将来を担いたいという趣旨だったようです。

 

 この「FIRST」とは、内閣府などが日本の科学技術の基盤を高めるために、2010年3月から約5年間で始めた「最先端研究開発支援プログラム」というプロジェクトです。日本を代表する大学・公的研究機関の教員・研究者や企業の研究開発者の方々30人を“中心研究者”に選びだし、各研究開発テーマごとに18億から62億円という巨額の研究開発費が投入されました。



 大学・公的研究機関の教員・研究者や企業の研究開発者の“中心研究者”に日本では最大級の研究開発費が投入されました。“中心研究者”は、自分が提案した研究開発テーマを実現するために、いろいろな大学や公的研究機関、企業と共同研究プロジェクトを進めます。

 多くの大学・公的研究機関の教員・研究者や企業の研究開発者にとって、5年間で「研究開発費として18億から62億円を受け取れる」とは、夢のようなことです。

 中心研究者には、例えばiPS細胞を発見した、京都大学の山中伸弥教授や、島津製作所の田中耕一所長などと、日本を代表する研究開発者の方が選ばれています。

 このブログの2014年2月5日編で、ご紹介した大阪大学発ベンチャー企業のクオンタムバイオシステムに基盤技術を提供してる大阪大学の川合知二特任教授も中心研究者のお一人です。

 昨日3月1日午後に、「FIRST EXPO 2014」がほとんど終了したころに入り、その概要を少し拝見・拝聴しただけです。今回の「FIRST EXPO 2014」は「最先端研究開発支援プログラム」が今年3月に終了することを受けての成果報告会だったようです。

 この「FIRST EXPO 2014」の様子はNHKが取材しており、「後日、Eテレで放映する」とのことでした。