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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

青色LED事業化を担当した豊田合成の事業化経緯をお伺いしました

2015年01月05日 | イノベーション
 2014年のノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学名誉教授の赤崎勇さんたち3人の受賞式報告会が、2014年12月中旬に東京都千代田区内で開催されました。

 当然ですが、受賞された赤崎さん、名古屋大学教授の天野浩さん、カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校教授の中村修二さんは多忙なので、この報告会には出席されませんでした。その時の主な報告者は、青色LED(発光ダイオード)を事業化した豊田合成の担当者の方と、天野教授をリーダーにして現在進めているGaN(窒化ガリウム)のパワーデバイスの開発チームの一員である名古屋大学の助教の方などでした。

 豊田合成のご担当者は、赤崎さんとの共同研究を開始した経緯をお話になりました。



 豊田合成のご担当者は、赤崎さんと天野さんが出席するノーベル賞授賞式(晩餐会・舞踏会)の日である12月10日の前後に、豊田合成がスウェーデンのストックホルム市内のホテルに、同社としてお祝いの懇親会などを開催する拠点を設け、文部科学省や大使館の主要メンバーと懇親会を開催した話などを伺いました。当然、同拠点を中心に受賞準備を進めた話を伺いました。その際に、くつろがれている赤崎さんと天野さんの個人的な写真などを拝見しました。

 1981年8月に、赤崎さんは勤務していたパナソニック(当時は松下電器産業)の研究子会社だった松下技研(川崎市)から、名古屋大学に教授として移籍します。

 そして、窒化ガリウムの結晶成長用のMOVPE(有機金属化合物気相成長法)などの装置を手作りし、窒化ガリウムの結晶成長の研究を進めます。当時は、青色LEDを製品化するための基板としては、SiC(炭化ケイ素)やCeS(硫化セレン)の方がいくらか光る試作品ができていて、ほとんどの研究者は基板材料にこれらを用いて、実用化を研究していました。

 ところが、赤崎さんは窒化ガリウムの方が結晶成長温度が高く、高圧にしないと結晶がつくれないことから、将来電流をたくさん流す際には、より安定した結晶の窒化ガリウムの方が適していると考えました。つまり、結晶をつくりにくいということは、その分だけ結晶が安定していると考えたそうです。

 この結果、青色LEDの実用化を狙って、窒化ガリウム基板で研究開発を続けているのは、赤崎さんたちの研究グループだけになったそうです。この時の状況を、赤崎さんは「われ一人荒野を行く」と語っています。

 1986年に、赤崎さんの研究開発グループは“低温バッファー層”という窒化ガリウムの結晶欠陥を大幅に減らす技術を開発し、高品質な窒化ガリウム単結晶への道を切り開きます。

 さらに、1989年にp型の窒化ガリウム結晶を開発した結果、青色LEDの実用化の大きく前進します。窒化ガリウム結晶を用いた高性能青色LEDの試作研究に進みます。このp型(ホールが電気伝導を支配)の窒化ガリウム結晶を開発では、当時、大学院生だった天野さんが貢献します。

 時間を前に戻すと、赤崎さんの研究グループは1985年から1986年までの2年間、文部科学省から研究テーマ「混晶の物性とその制御・設計に関する研究」として科学研究費を受け取り、さらに1987年から1989年までの2年間、研究テーマ「高性能GaN系青色LEDの試作研究」として同科学研究費を受け取ります。

 こうした大学での研究経緯の中で、赤崎さんは自分が研究している高品質単結晶の研究成果を、名古屋市の名古屋商工会議所で講演しました。企業側は名古屋大学の研究成果を聞いて、事業化のシーズにしたいという意図でした。

 1985年11月に赤崎さんが名古屋商工会議所で講演した時に、豊田合成の方が聴講していました。当時、豊田合成は新規事業分野を探査中でした。豊田合成は、プラスチック製やゴム製の自動車用成形部品を製造する事業を進めていました。青色LEDの研究の話から、将来は自動車用ヘッドライトなどに適用できるのではないかと考えたようです。

 こう考えた豊田合成は、名古屋大学の赤崎さんの研究室を後日、訪問し、「青色LEDの製品化をやらせてほしい」とお願いしました。何回か、赤崎さんを訪問し、当時の豊田合成の社長もお願いにいったそうです。しかし、当時は赤崎さんは半導体用結晶の研究開発に没頭していたので、「企業の製品化の研究開発を指導する時間がない」と考え、お断りしたそうです。

 ここで、1985年当時の半導体産業を考えると、日本の大手電機メーカーはDRAM((ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)を中心に世界で一番多くのシェアを持つ半導体産業全盛期でした。米国が「日米半導体構造協議」と称する輸出制限を頼んだ時代でした。

 当時の半導体事業を推進していた大手電機メーカーの研究部隊は、窒化ガリウムという主流から外れた材料で、青色LEDを製品化できるとは考えてもいませんでした。このため、半導体を製品化していない豊田合成が共同研究を願いでるという傍流同士の組み合わせが浮上したようです。豊田合成という半導体門外漢の企業は、大学の研究成果を基にした“オープンイノベーション”を実践するしか手段はなかったようです。イノベーションは辺境から産まれるとの実例です。

 長くなったので、続きは次回に。

日本での研究倫理の教育プログラムについてのミニ講演を拝聴しました

2014年10月24日 | イノベーション
 文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)は先日、「最近の研究不正の状況とJSTの取り組みについて」を解説しました。理化学研究所のSTAP細胞問題によって、日本の研究開発資金を提供している関係機関はそれぞれ“研究倫理”の声明などを発表しています。

 JST研究倫理アドバイザーを務める金沢工業大学教授の札野順さんは、「日本では“研究倫理”“研究開発者・技術者の倫理”と表現されるが、この倫理という言葉は個人的には好きではなく、RCR(Responsible Conduct of Research=責任ある研究の実施)という言葉が正しいと考えている」とまず解説されました。

 JSTのご担当者は「JSTでは平成27年度(2015年度)から、JSTの事業などの新規事業案件に応募申請するには、事前に大学などの所属機関で“研究倫理に関する教育プログラム”の受講を済ませておくことを要件にする」と説明します。JSTの各事業に応募する前に「新規案件に申請する研究代表者などは研究倫理に関する教育プログラムを受講し、その受講修了書を提出することを必要条件にする」と説明しました。

 この“研究倫理に関する教育プログラム”とは実際には「CITI JAPAN」のeランニングプログラムを示します。



 基になったCITIとは、2000年4月に米国の10大学病院などの篤志家が結成したCollaborative Institutional Training Initiative (CITI)が作成したRCRプログラムを示します。そして、「CITI JAPAN」は、日本と米国の医学部教員などが参加するNPO(特定非営利活動法人)が作成した日本語版Webサイトのeランニングプログラムです。

 実は、ライフサイエンス・バイオテクノロジー系の研究開発が盛んになった米国では、研究不正事例が急増し、問題視されます。米国の研究者は多国籍・移民の方が多く、研究分野での競争が激しい環境です。特に、特許などの知的財産が絡む事例が多いライフサイエンス・バイオテクノロジー系の研究開発では、いくつかの研究不正事件が起こりましたそして大きな社会問題になりました。

 この結果、ライフサイエンス・バイオテクノロジー系の研究開発者に研究開発資金を提供する米国NIH(国立衛生研究所=National Institutes of Health、米国保健福祉省の公衆衛生局傘下)は、1989年からRCR 教育を受けることを薦め、2010年以降は義務化しました。 

 そして2000年4月に米国の10大学病院などの有志が“CITI”と呼ばれるWebサイトを利用するeラーニングを開発します。そして、文部科学省の支援によって日本版の、「CITI JAPAN」を制作します。

 札野さんは「このCITI JAPANのeランニングプログラムは現時点で最も包括的なRCRプログラムです」と解説します。そして「日本では公的研究機関の産業技術総合研究所と理化学研究所などで、このRCRプログラムを用いた教育が実施されています。大学・大学院などでは、金沢工業大学、早稲田大学、東京大学などが教育プログラムとして実施しています」と説明します。他の多くの大学・大学院では、“工学倫理”“技術者倫理”“ 医療倫理”、などという名前の授業として実施されている程度が実情」と説明されます。

 札野さんは、元々は企業の研究開発者・技術者のRCRプログラムなどを研究されていました。本当は、企業の研究開発者・技術者も大学や公的研究機関の研究開発者も「研究開発での倫理的な判断能力や問題解決能力を身につける基本的なものとして学んでほしい」と伝えます。

日本経済新聞紙の「企業、報酬維持の公算」が伝える特許法改正を考えました

2014年10月09日 | イノベーション
 昨日の弊ブログの2014年10月8日編の続きです。米国カリフォルニア大学教授の中村修二さんをはじめとする3人がノーベル物理学賞を受賞したことに関連するものです。

 2014年10月6日に日本経済新聞紙朝刊は中面に、見出し「企業、報酬維持の公算」という、日本の特許法改正の動向を伝えています。

 この記事はサブ見出しに「社員の発明、会社帰属へ 議論進展」とうたっています。日本経済新聞紙のWeb版である日本経済新聞紙 電子版にも掲載されています。





 特許庁が2014年6月18日に、特許制度に関する有識者委員会を開き、企業の従業員の研究者などが発明した“職務発明”について論点整理を行ったことが議論の始まりです。企業の社員の発明にともなう特許権の帰属を、条件付きで社員側から企業側に移す方向で議論を進める方針を明らかにしています。

 今回、10月6日に日本経済新聞紙が報じた見出し「企業、報酬維持の公算」の記事は、8月末に日本の企業側からある種の“譲歩案”が示され、早ければ現在開催されている臨時国会に法改正案が提出される流れになりつつあるという記事です。

 一般の方があまり詳しくない特許法の改正の動きを伝えている“タイミングのいい記事”でした。ところが、2日後の10月8日に、その議論のきっかけを与えた人物の一人である米国カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校教授の中村修二さんが、今年のノーベル物理学賞を受賞するという大ニュースが報じられます。

 企業の従業員の“職務発明”に対する不満による裁判は、既にオリンパスや日立製作所などの従業員が起こし、ある程度の金額での判決が出て、“和解”していました。しかし、中村さんが元の勤務先の日亜化学工業(徳島県阿南市)を相手に訴えた裁判では、2011年に東京地方裁判所は「請求額の200億円を支払うよう」に命じる判決を下し、金額の多さなどが大きなニュースになります。この判決内容を巡る一連の報道などによって、企業側は従業員の“職務発明”に対して対応の整備を求められます。

 現在の特許法では、特許権は発明した社員に帰属(所有)するのが原則であり、勤務する企業側にその権利を譲渡するなどした場合には発明の対価を受け取ることができるとなっています。

 今回の特許法改正では、会社側が正当な報酬を支払う体制の確保などを条件に、特例として特許権を従業員側から企業側のものとするように制度を見直す方向のようです。

 今回の特許法改正では、「従業員の職務発明に対する対価を合理的に算定する」ように企業に求めます。大企業では、既に従業員からの申請に基づき、当該発明に対する発明者の特定を行い(実はこれが予想以上に困難)、2~3カ月かけて対価を算定する体制をつくり始めています。

 企業の従業員は当該特許に対する“対価請求権”の代わりに、“報償請求権”を得ます。かなり大胆にいえば、特許訴訟を裁判所ではなく、企業内で行うようなものです。これに対して、連合や知財権研究者などは「企業が支払う従業員への対価が引き下げられる」との懸念を表明しています。

 10月8日のノーベル物理学賞は学術面での評価です。一方、発明に対する対価は実務面での事業規模などから産出される評価です。ある意味、別の視点ですが、今回のノーベル物理学賞を受賞した中村修二さんの一連の言動が、今回の特許法改正に影響を与えるのか注目されます。


青色LED開発者の中村修二さんを巡る「発明の対価裁判」を思い出しました

2014年10月08日 | イノベーション
 2014年10月8日発行の有力新聞紙の朝刊一面は、名城大学教授の赤崎勇さん、名古屋大学教授の天野浩さん、米国カリフォルニア大学教授の中村修二さんの3人がノーベル物理学賞を受賞した記事です。

 例えば、日本経済新聞紙朝刊の見出し「ノーベル物理学賞に赤崎・天野・中村氏 青色LED発明」と、日本人研究者3人がノーベル物理学賞を受賞した記事が掲載されています(正確には、中村修二さんは現在は米国籍です)。

 日本経済新聞紙のWeb版である日本経済新聞 電子版では見出し「ノーベル物理学賞に赤崎・天野・中村氏 青色LED発明」として載っています。



 日本経済新聞紙朝刊は関連記事として見出し「ノーベル賞の中村教授、異端のサラリーマン研究者」という記事を掲載しています。

 やはり現在、米国カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校教授の中村さんの話題となると、青色LED(発光ダイオード)を実用化した当時に勤務していた日亜化学工業(徳島県阿南市、小川英治社長)を相手に発明の対価を求めた裁判の話題に触れざるをえないからです。

 企業の研究開発者として、日本での発明の対価を求めて、会社との関係を問いただした人物して語られることが多いからでしょう。日本の特許制度の「社員の発明」に対する議論が盛んになる契機を与えたからです。

 2005年1月11日に日本の東京高等裁判所が下した和解勧告に対して、当時米国の大学教授になっていた中村さんは「日本の司法制度は腐っている」と怒りをぶつけたと伝えられています。

 2005年1月11日に、東京高等裁判所は「青色LEDに対する中村さんの発明対価に対して、和解勧告としてで6億円(利息を合わせて8億4000万円)を示し、中村さんの弁護士は裁判技術面ではこれから争っても、時間と経費がかかるだけで、中村さんには何の得にもならないと、和解勧告を飲むように伝えたと報道されています(この裁判が長引くと、中村さんのノーベル賞受賞の妨げになると説得したとのうわさがあります)。

 実は、この発明対価は中村さんが重視した“404特許”だけではなく、中村さんが日亜化学在職中に発明した全特許の対価だという内容だったことから、中村さんは全面敗北と感じ、怒ったそうです(この辺は、特許という知的財産の裁判の争点のつくり方というテクニックになり、深い意味を持っています)。

 中村さんが日亜化学工業を相手に青色LEDに対する発明対価を求めた訴訟では、2004年1月に東京地方裁判所は判決として、中村さんが発明した“404特許”が青色LEDの製品実用化を可能にしたと指摘し、約604億円の発明対価を認定しました。そして日亜化学に対し、請求額の200億円を支払うよう命じる判決を下し、大きな話題になりました。

 この東京地方裁判所の判決に対して、東京高等裁判所はの和解勧告では「100分の1」の発明対価という和解案を提示したのです。

 以上、今回話題にした日本企業の“社員の発明対価”に対して、日本経済新聞紙は2014年10月6日朝刊の中面で見出し「社員の発明、会社帰属へ 議論進展」という記事によって、特許庁は会社の従業員が職務発明としての発明の権利を“会社のもの”に転換する議論を進めていると伝えています。

 日本経済新聞紙のWeb版である日本経済新聞 電子版では見出し「社員の発明、特許は企業に 産業界が報酬ルールに理解」という記事として掲載しています。



 中村さんの話題のイントロだけで長くなったので、続きは明日にします。

ロボット系ベンチャー企業の試作品・製品展示を拝見しました

2014年09月26日 | イノベーション
 先日、東京都港区内で開催された新進気鋭のベンチャー企業の製品展示を拝見しました。

 その一角で、経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が助成金などを支援しているベンチャー企業の製品展示コーナーがありました。その中心はロボット系ベンチャー企業の試作品・製品展示でした。

 パナソニック系のベンチャー企業のアクティブリンク(奈良市)は2015年度に実用化する予定の「アシストスーツ」などを展示しています。



 この「アシストスーツ」を装着すると、人間の身体の姿勢などを、位置センサーが検出し、どう動きたいかを推測し、腰部分につけた電気モーターが、作業時の腰の負担を軽くし、作業労働を軽くします。

 電気モーターがアシストするので、工場内の可搬作業などの作業が軽減されます。たとえば、体力があまりない高齢者や女性の方などの作業を支援します。工場内だけではなく、農業や林業などの作業を支援します。

 この「アシストスーツ」の電気モーターの代わりに、ゴムバンドという弾性体を利用する「スマートスーツ」を展示していたのは、スマートサポート(札幌市)です。

 会場では、アウト型スマートスーツを展示していました。



 人間の作業負担や疲労を軽減させます。少子高齢化社会には必要な機器です。スマートサポートは電気通信大学・北海道大学発のベンチャー企業です。

 太陽光電池パネルの大がかりな大規模太陽光発電所(メガソーラー)は、太陽光が照りつける中近東で設置が進んでいるそうです。中近東の砂漠などに設置された太陽光電池パネルの悩みは、砂が太陽光電池パネルの上に載って、太陽光の当たり具合を低下させることです。

 太陽光電池パネルの上に積もった砂を掃除する「サービスロボット」を開発したのは、未来機械(香川県高松市)です。


 
 未来機械は香川大学発ベンチャー企業です。

 中近東は赤道付近なので、緯度が低いために、太陽光電池パネルはほぼ水平に設置されます。横・縦が72センチメートル・43センチメートルの掃除ロボットは角度15度まで登れるそうです。

 2回・90度回転する動作によって、隣の太陽光電池パネルの列に移動し、掃除作業を続けます。

 日本では緯度がいくらかあるので、太陽光電池パネルを斜めに設置するために、あまり掃除する必要性が低いそうです。

 WHILL Inc.(カリフォルニア州シリコンバレー、及び東京都町田市)は販売を始めたばかりのパーソナル・モボリティー(個人移動手段)の「WHILL Model A」を展示していました。



 同社は大手企業から事業資金を集めている、米国シリコンバレー型のベンチャー企業だそうです。