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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

nano tech 2013展で、希少金属代替材料開発プロジェクトの成果を拝見しました

2013年02月01日 | イノベーション
 1月30日から2月1日までの3日間にわたって開催されている第12回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議「nano tech 2013」に行ってきました。東京都 江東区有明の東京ビックサイトで開催されています。

 「nano tech 2013」は、日本の企業や大学、NPO、行政機関などに加えて、海外の国・地域の23カ国の機関も出展しているそうです。まさにナノテクの国際展です。



 「nano tech 2013」の入り口付近には、経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の巨大なブースが広がっています。新エネルギー・産業技術総合開発機構が研究開発を支援した研究開発プロジェクトなどの成果が展示されています。

 その巨大なブースの中に、「希少金属代替材料開発」プロジェクトの成果が展示されているコーナーがあります。中国などからの輸入に頼っている“レアメタル”と呼ばれる希少金属元素の使用量を大幅に減らしたり、その代替材料を研究開発する“国家”プロジェクトです。平成20年度から平成25年度(2008年度から2013年度)に行われている研究開発プロジェクトです。

 成果を上げたことで有名なプロジェクトは、ネオジム・鉄・ホウ素(Nd-Fe-B)高性能磁石の耐熱性を上げるために添加しているディスプロシウム(Dy)の添加量を40%程度低減することに成功したものです。ディスプロシウム原料は中国からの輸入にほとんど頼っているために、尖閣諸島の問題以降、中国からの輸出制限に困っていたレアメタル元素です。

 このネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石はハイブリッド自動車や電気自動車のモーターやハード・ディスク駆動装置(HDD)などの駆動用モーターに使われています。

 最近の新聞に、ネオジム・鉄・ホウ素磁石の主力メーカーである日立金属は、危機管理用に備蓄していたディスプロシウム材料の市場価格が急落したために、その資産評価損益を被ったとの記事が載っていました。

 日本の大手磁石メーカーなどが参加したネオジム・鉄・ホウ素高性能磁石のディスプロシウム添加量を削減する研究開発プロジェクトが成功した結果、中国が供給するディスプロシウム原料・材料の価格が大幅に下がったようです。

 「希少金属代替材料開発」プロジェクトはディスプロシウムやインジウム(In)などの6種類の元素の削減・代替を図る研究開発プロジェクトの半分程度は終了しています。今回の展示ブースでは、最終年度の平成25年度分の成果を展示しているようでした。

 展示ブースの中で目を引く展示物は、自動車の排ガス浄化用の触媒向けに、現在利用されている白金族の白金(Pt)やPd(パラジウム)、ロジウム(Rh)の元素の代わりに、鉄化合物を代替する研究開発成果でした。

 日産自動車が中心になった研究開発成果です。鉄化合物を数10ナノメートルにまで微粒子化して、酸素原子の吸蔵・放出機能を持つ酸化セシウム(CeO2)に接触させることで、白金族元素の使用量を半分にできたと説明しています。もちろん、“鉄化合物”の正体などは公表されていません。

 白金などの白金族の原料・材料の価格も一時かなり高騰しました。その資源確保の対策になれば、日本にとって明るい“材料”になると感じました。

 この新エネルギー・産業技術総合開発機構の展示ブースには、魅力的な研究開発プロジェクトの成果が並んでいました。もし、どれも実用化されれば、かなりインパクトを与えるものばかりです。その歩留まりは、10年ぐらい経つと当然、分かると思います。“打率3割”いけば、たいしたものだと思います。

古河電気工業などはイットリウム系超電導ケーブルの送電実験に成功しました

2013年01月30日 | イノベーション
 2013年1月29日に、古河電気工業などの研究開発チームは、イットリウム系超電導ケーブルでの送電実験で世界最高となる275キロボルト、150万キロボルト・アンペアの実証試験に成功したと発表しました。

 1985年に高温超電導ブームを起こした酸化物超電導材料がやっと事業化の見通しが立ち始めたようです。

 今回の実証試験成功を発表したのは、古河電気工業と国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の3者です。経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構は平成20年から同24年度までの5年間にわたって実施されている「イットリウム系超電導電力機器技術開発」プロジェクトの研究開発費を支援しています。5年間で約140億円を支援します。

 超電導ケーブル実証試験の具体的な内容の説明は後回しにします。今回、古河電気工業などがイットリウム系超電導ケーブルの実証試験成功を発表した背景には、日本と米国、フランス、韓国、中国などの企業・組織などが、イットリウム系超電導ケーブルの製品化・事業化で激しく競合し始めていることがあります。ハイテク技術のグローバルな競争です。

 中国やアジアなどの新興国各国は、これからの一層の成長を図るためには、社会インフラストラクチャーとして電力網を築く必要が高まっています。その際に、その電力網構築事業を受注したいと、古河電気工業などは考えています。その目標時期は2020年ごろのようです。

 今回、古河電気工業と国際超電導産業技術研究センターが発表したイットリウム系超電導ケーブルの詳細は、2011年6月に発表しています。クロム・ニッケル(CrNi)基合金のテープ状基板に、イットリウム・バリウム・銅(Y・Ba・Cu)などの元素で構成される酸化物超電導体を結晶成長させたものです。この結晶成長では、イオンビーム支援蒸着法を利用しています。





 開発段階では、フジクラが基板を、昭和電線が酸化物超電導体の蒸着を担当し、古河電気工業が超電導ケーブルに仕上げています。これは、国際超電導産業技術研究センターがプロジェクトの取りまとめをしている研究開発チームの企業分担構成だからです。

 古河電気工業は今後、イットリウム系超電導ケーブル事業を始めるためには、製造設備を確保する必要があります。それが、2011年10月に発表した米国の超電導線材子会社のスーパーパワー社(ニューヨーク州)の買収でした。同社は、オランダのフィリップス社の子会社でした。買収額は50億円前後と推定されています。この企業買収によって、古河電気工業は超電導線材の量産設備を確保したとみられています。

 スーパーパワーは、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の研究開発部門からスピンアウトしたベンチャー企業です。米国には、イットリウム系超電導線材を製造できる企業としては、アメリカン・スーパーコンダクターがあります。将来、同社と古河電気工業は競合するとみられています。

 今回の超電導ケーブル実証試験に使った長さ30mの超電導ケーブルは、古河電気工業とフジクラが折半出資で設立したビスキャス(本社東京)が製造したそうです。ここで製造した超電導ケーブルは、古河電気工業の100%子会社である中国瀋陽市の瀋陽古河電纜公司の敷地内で、長期課電・通電試験を実施し、成功しました。

 従来は66キロボルトケーブルだったものを、約4倍の275キロボルトケーブルに高電圧化するために、「超電導導体の外側に巻く電気絶縁層を従来の6ミリメートルから22ミリメートルと厚くするなどの工夫を加えた」と説明します。電気絶縁層は絶縁紙を用いているそうです。

 超電導体のテープは表面が銅の色になっています。超電導体テープは液体窒素(沸点がマイナス196度、摂氏)によって十分に冷却されるように、超電導体テープ表面に銀(Ag)をメッキし、さらにその上に銅(Cu)をメッキしているからです。

 電気絶縁層の外側に、イットリウム系超電導線材製の超電導シールド層を巻いて、強力な磁力が外側に働かないようにしています。その外側に保護層と断熱層を設けています。断熱層はプラスチックフィルムにアルミニウム蒸着したものを巻いたものだそうです。いろいろな材料を、その役割ごとに多層に巻いてケーブルに仕上げていることが分かります。

 電力電線ケーブルは日本国内市場では、代替需要向けが主体になり、需要は今後あまり成長しないとの予測です。このため、国外市場を求める成長戦略が練られているようです。国内の電線メーカーはグローバル市場向けの布石を打っているようです。酸化物超電導材料を軸にしたハイテク製品の事業化競争がやっと本格化しそうです。

基調講演「新興国における日本企業の市場獲得と現地化」を拝聴しました

2013年01月29日 | イノベーション
 1月28日に東京都品川区で開催された「国際知的財産活用フォーラム2013」を拝聴しました。特許庁傘下の独立行政法人工業所有権情報・研究館(INPIT)が主催したセミナーです。

 今回の総合タイトルは「グローバル市場の獲得と知財を活かした事業展開」です。



 午前中の基調講演「新興国における日本企業の市場獲得と現地化」は示唆に富む内容のお話でした。グローバル市場で活躍する大手ガラスメーカーの旭硝子の日本・アジア事業部ソーラー・産業事業部主幹の堺井啓公さんが講演されました。

 まず興味を持ったのは、旭硝子の各事業の売上高と営業利益です。2011年12月期に公表された2011年度の数字です。

 大看板のガラス事業は2011年の売上高は5544億円(全体の44%)で営業利益は99億円(同6%)です。一方、ディスプレー向けのガラス基板などの電子事業は売上高は3865億円(全体の32%)で営業利益1335億円(同81%)、フッ素樹脂などの化学品事業は売上高は2486億円(全体の20%)で営業利益181億円(同11%)です。このほかにその他の事業があります。

 ガラス事業は規模は大きいが収益はかなり低いということです。窓ガラスや太陽電池パネル用、自動車用窓ガラスなどの製品を売っているガラス事業では、建築用の“板ガラス”では、旭硝子グループとフランスのサンゴバン社(+セントラル硝子)、日本板硝子グループ、米国ガーディアンインダストリーズ社の4社で世界市場の65%のシェアを占める大競争製品です。自動車の窓ガラスも、旭硝子グループとフランスのサンゴバン社(+セントラル硝子)、日本板硝子グループの3社でシェア65%を占めています。

 ガラスの既存市場はグローバル市場では寡占化が進み、熾烈(しれつ)な価格競争の結果、あまり儲かっていないようです。

 これに対して、電子事業の中核を占める液晶用ガラス基板は、旭硝子グループとサンゴバン社(+セントラル硝子)、日本板硝子グループの3社でシェア65%を占めています。旭硝子の営業利益の81%を稼ぎ出す“儲け頭”です。

 旭硝子は窓ガラスなどの汎用品では、あまり儲けていませんが、日欧米アジアなどのグローバル市場向けにガラス溶解炉などの生産設備を稼働させ、汎用品のガラスを販売することで従業員の雇傭を維持しています。

 そのガラス生産設備を稼働させている中から、テレビやパソコンなどの液晶ディスプレー用ガラス基板という高付加価値品を販売する電子事業で稼ぐ事業構造です。フッ素樹脂などのファインケミカルでも稼いでいます。

 ガラス全体の事業規模を維持しながら、その時の高付加価値製品で高収益を上げる事業構造を保っている点に感心しました。日本企業は高付加価値製品の販売で収益を維持しようとしています。その実現には、旭硝子のような事業構成がかなり参考になると感じました。

 旭硝子は「2020年のありたい姿」を目指し、「ガラス技術立社」「第二のグローバリぜーション」「環境・エネルギー分野での技術力」の3つの視点で成長基盤を築くそうです。

 ガラス技術立社では、ガラス技術などを基に、新たな事業モデルの構築を追究されるそうです。

 講演された堺井啓公さんは、実は経済産業省の方で、現在は官民交流で旭硝子に出向されているそうです。講演の後半は、経産省や厚生労働省、文部科学省が取りまとめた「平成23年度 ものづくり基盤技術の振興施策」を解説されました。この内容も示唆に富むものでした。

三菱重工業は大型風力発電機向けの油圧式変速機を開発したそうです

2013年01月25日 | イノベーション
 三菱重工業は風力発電機向けに新型「油圧ドライブトレイン」を採用した“変速機”を開発し、その試験運転を横浜製作所内で開始したと発表しました。経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けての開発です。

 今回開発した、1.5MW級風力発電機向け“変速機”は、海に風力発電機を並べる“洋上風力発電設備”の実用化を狙ったものです。

 現在、英国で実用化が進められている、7MW級の洋上風力発電設備の実用化を目指したものの想像図です。



 大型の風力発電機では、風の力で回転する羽根の回転力を、発電機に伝える変速機(動力伝達機構)の大型化が課題になっています。従来は歯車を何段も組み合わせた機械式の変速機が使われています。機械式は大型化が難しいそうです。

 今回、三菱重工が作製した油圧ドライブトレイン開発品は、10rmp(1分間当たりの回転数)を油圧ポンプ・油圧モータなどを介して、回転数を1000rmpに高速化して発電機に動力を伝えるものです。



 この画像から、油圧ドライブトレイン開発品はかなり大きいことが分かります。

 この開発品の油圧ドライブトレインによって、1.5MW級風力発電機の発電部の回転数を一定に保てるようになります。



 機械式から油圧式に変更すると「汎用性の高い油圧機器や材料、安価な同期発電機などを使うことが可能になり、コスト競争力向上に効果がある」そうです。

 三菱重工は油圧ドライブトレインを開発する目的で、英国のベンチャー企業アルテミス・インテリジェント・パワー(Artemis Intelligent Power)社を買収し、油圧デジタル制御技術を入手したそうです。新規事業起こしを加速するために、ベンチャー企業を買収するのは定番になっています。

 三菱重工は、今回の開発成果を基に、2013年に英国でまず陸上で7MW級の実証機の運転を開始し、2015年に洋上市場向けに市場投入する計画です。

 風力発電機の実用化は、羽根向けには炭素繊維複合材料の適用拡大や、発電した電力を溜める大型蓄電池にリチウムイオン2次電池などと、日本企業が得意とする技術・製品が適用できる見通しです。日本企業にとっては、新しい用途が産まれるいい話です。

「サービスシステム科学の展開」を拝聴し、日本の今後を考えました

2013年01月24日 | イノベーション
 東京工業大学社会人教育院が主催する講演会「ひと、テクノロジー、社会の今」が始まり、その第一回目「サービスシステム科学の展開」を拝聴しました。

 講師は、東工大社会理工学研究科価値システム専攻教授の木嶋恭一さんです。



 ご専門の「サービスシステム科学」の中身は一般の方にはあまり馴染みがないだろうと、約30分程度の前振りでは、あれこれと背景などをご説明されました。

 米国やドイツ、日本などの先進国では、第三次産業の“サービス産業”がGDP(国内総生産)の約70%に達し、その成長率も日本は40%と高い伸び率を示しています。成長著しい中国でも、第三次産業のGDPは35%程度ですが、その成長率は191%と高い数字が予想されていると、現状を簡潔に伝えます。

 米国の国際競争力の戦略を考え、分析した米国のIBMは、1990年代からサービスの科学的・工学的アプローチの研究を始めていました。2004年12月に、米競争力評議会(Council on Competitiveness)の議長を務めた米IBMのサミュエル・パルミサーノCEOは、通称「パルミサーノ・レポート」を報告しました。

 このレポートでは、米国はサービス大国であり、米国はサービス業で世界トップの産業競争力を維持すべきとまとめたそうです。

 乏しい記憶によれば、この前後に、IBMはパソコン事業やHDD(ハードディスク駆動装置)事業を売却し、製造業からソフトウエア事業重視に切り替えます。さらに、ソフトウエアでも、ユーザー向けのアプリケーションソフトウエアからミドルウエアと呼ばれる基幹システムとつなぐソフトウエア事業に切り替えます。しかし、IBMの事業収支の赤字化は進み、サービス産業重視に切り替えていきます。

 IBMは、こうしたサービス産業を支えるサービス科学という学術分野を研究する大学院を、米国などの主要大学院に設置を働きかけます。

 木嶋さんは、サービス科学やサービスシステム科学は、いろいろな学術分野の学際分野での研究が不可欠といいます。よくいわれるT型人材でないと、中身が理解できないと解説されます。「科学・技術とビジネスマネジメント、人文科学」の3者を理解し解析できることが重要と力説されます。

 この点では、日本の大学・大学院は専門性の高い人材を育成する教育態勢であり、米国のように学際領域に強いT字型人材の教育は実際には弱いままと感じています。

 木嶋さんは「価値と品質は同一ではない」と解説し、「日本企業・従業員は品質管理は得意でも、価値創造はまだ得意ではない」といいます。「品質が良くても、ユーザーがその製品やサービスの価値をどう感じるかは分からない」からです。その理由は、価値は提供者と受け手の両者が協働でつくり上げるからだといいます。経験を共有する点が価値の特徴といいます。

 以下は、かなり学問的な話ですので、簡単にさわりを述べます。木嶋さんは価値をつくる共創(協奏)プラットファームが重要といいます。その代表例として、ショッピングモールの仕組みや、楽天やアマゾンなどのインターネットの通信販売システムの事例を丁寧に説明されます。

 日本の製造業が製品・サービスの高付加価値化で苦心している現在、サービス科学の面を取り込んだビジネスモデルを考える“さわり”を少し考えることができました。