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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

産学連携拠点がイノベーション創出の役目を果たしているか評価する施策の話です

2013年04月17日 | イノベーション
 経済産業省は4月上旬に、大学などに設けられた産学連携拠点の産学連携活動や実績を評価し、その戦略や戦術を修正するためのPDCA(Plan、Do、Check、Act)サイクルのモデルを構築する新施策「産学連携評価モデル・拠点モデル実証事業(モデル実証事業)」を平成25年度(2013年度)から実施すると発表しました。

 その狙いは「日本が経済成長するためのイノベーション創出を継続するためのエンジンの一つとなる産学連携活動を強化する実証事業」(経産省産業技術環境局)と説明しています。



 具体的には、経産省と文部科学省が平成23年度から24年度まで(2011年度から2012年度まで)に作成した「産学連携機能評価指標」の枠組みを基に、大学と企業などが共同して進める産学連携拠点などの活動内容を客観的に“質的評価”する目的で実施します。この質的評価指標を用いて、各産学連携拠点などが自分たちの成果を実証的に評価し、PCDAサイクルを実践し、イノベーション創出の戦略・戦術修正などを実現し、その成果を上げることを狙います。

 今回の新事業は「産学連携評価モデル・拠点モデルを構築する機関」と「産学連携評価モデル・拠点モデルを実証する産学連携コンソシアム」を同時に公募し、連携機関として同時に採用するそうです。「産学連携評価モデル・拠点モデルを構築する機関」が作成するモデルを「産学連携評価モデル・拠点モデルを実証する産学連携コンソシアム」が適用・実践し、その実効性などを報告するという相互作用を実践します。「産学連携評価モデル・拠点モデルを実証する産学連携コンソシアム」は補助事業です。

 「産学連携評価モデル・拠点モデルを構築する機関」は、経産省と文科省が作成した「産学連携機能評価指標」を基に、自分たちの産学連携活動の特徴や傾向などを加味した独自の評価指標(モデル)を設定し、具体的な数値目標を立てることになります。これを受けて「産学連携評価モデル・拠点モデルを実証する産学連携コンソシアム」は目標達成を測る実証データを集め、評価結果を分析し、改善策などを作成するPCDAサイクルを実践します。

 同時に、経産省や文科省などの行政機関は、評価結果や改善策などの実証評価を基に、日本での産学連携拠点などの特徴や機能などを、外国の産学連携拠点と比較し、日本の産学連携の目標設定や方向性の把握を可能にすることを目指します。さらに、「各産学連携拠点への国(各行政機関)の資源(資金)配分の最適化を図る指標につなげたい」そうです。

 そして最終的には「産学連携活動がイノベーション創出や経済成長につながることを、客観的に示す評価指標を目指す」(経産省産業技術環境局)そうです。

 この新施策の応募資格は大学であることです。採択件数は10件の予定です。是非、各産学連携拠点にPCDAサイクルを実践し、イノベーション創出の戦略・戦術修正などを実現し、その成果を上げてもらいたいです。アベノミックスの成長戦略の実現が果たせます。

シャープの資金調達による財務改善策の記事を読んで、あれこれ考えました

2013年04月04日 | イノベーション
 2013年4月2日発行の朝日新聞紙の夕刊一面に、「シャープ、1000億円公募増資へ」という特ダネ記事が載っていました。

 経営再建中のシャープが財務基盤を安定させて、事業再建に向けた、大きな一歩になりそうな動きを伝える見込み報道記事です。



 朝日新聞紙の当該記者が、この「1000億円規模の公募増資に踏み切る方針を固めた」との推定した理由は、「シャープが近く公表する3カ年の中期経営計画に盛り込む。財務基盤を安定させ、市場での資金調達を再開する狙い。当初、実現性の面から難色を示していた主力取引銀行も業績回復の兆しが見えてきたことで容認する方向だ」と報じています。5月14日に中期経営計画を発表するとの憶測報道も流れています。

 シャープは、2012年3月27日に台湾の鴻海精密工業(ホンハイセイミツコウギョウ、Hon Hai Precision Industry)からの670億円の第三者割当増資について、「関係当局からの許認可が得られなかったことなどを理由として払込期間の最終日である2013年3月26日までに払い込みが行われないことになった」と、2012年3月27日に発表しています。鴻海精密工業は、世界最大のEMS(電子機器の受託生産サービス)企業です。

 こうした事情を受けて、シャープは市場での資金調達を行うことにするようです。逆にいえば、市場から資金調達できるとの見通しを持つところまで、シャープの敬遠再建が進んだとみることができます。

 少し前までは。2年連続の巨額赤字によってシャープは「格付けが“投機的水準”に引き下げられて、新たな社債発行などができない状態」と報じた新聞記事もありました。

 シャープは、ここ数カ月間に電機産業・IT(情報技術)分野のグローバル市場の主なプレーヤーである米国クアルコムや韓国サムソン電子と業務提携し、出資を受けています。

 2012年12月4日に、シャープは米半導体大手のクアルコムとの資本・業務提携を発表しました。クアルコムは約100億円の出資を約束し、同年12月末にその半額を出資したとみられています。

 さらに、2013年3月6日に、シャープはサムソン電子の日本法人であるサムスン電子ジャパンから約104 億円の出資を受け入れると発表しました。テレビ向けの液晶パネルやスマートフォンなどの中小携帯機器向けの小型液晶パネルを供給することを前提しにた提携・資本出資のようです。

 実は、クアルコムとサムソン電子からのそれぞれの出資額は約100億円と少額であり、シャープの財務内容の改善にはほど遠い金額です(しかも、いろいろな出資条件があるとみられています)。しかし、グローバル市場で大きな影響力を持つ米クアルコムと韓国サムソン電子と手を結ぶことは、中国のことわざの遠交近攻(えんこうきんこう )のような戦略・戦術にもみえます。

 約1年前の2012年3月にシャープと鴻海精密工業は資本・業務提携を締結し、その具体的な中身を協議してきました。シャープが鴻海精密工業を業務提携先に選んだ理由は、米アップル社のスマートフォン「iPhone」の生産を鴻海精密工業グループが委託されており、シャープが「iPhone」向けの小型液晶パネルを供給していることと推定されています。これによって、スマートフォンのライバルである韓国サムソン電子に対抗するとの見立てがささやかれました。

 シャープはその見立てを超して、韓国サムソン電子とも分野を考えて手を結ぶ戦略をとりました。まるで、したたかな小国が、強国と戦うために、その時の局面を打破する権謀術数(けんぼうじゅっすう)を巡らしている感じです。

 研究開発成果を基に技術力で業績を伸ばしてきたシャープは、本当の意味で事業戦略を練り、実行しています。つぶれる前にやるべきことはすべて実行する感じです。やっと、事業戦略と知的財産戦略を練り上げる力がついてきた感じです。

 1980年代に成長著しい日本企業は、主に米国で、先輩企業の事業収支を悩まし、いくつかは破綻したり、別の事業分野に逃げ出す契機をつくりました。その逆の立場に、日本企業はなっています。シャープが手練手管の戦術によって一皮も二皮もむけて真のグローバル企業として復活する日を待っています。

 米インテル社は対象製品を切り替えることで、成長路線に乗り成長し始め、復活しました。日本のパナソニックもシャープも今は踏ん張りどころです。

文科省傘下の科学技術振興機構は、総額600億円の新施策を始めます

2013年04月03日 | イノベーション
 文部科学省傘下の独立行政法人の科学技術振興機構(JST)は最近、「産学官による実用化促進のための研究開発支援」という施策内容を発表しました。その施策の事業名は、産学共同実用化開発事業です。

 昨年12月に発足した安倍晋三内閣はアベノミックスを掲げて、デフレ脱却を図っています。しかし、本当に重要なことは日本企業・個人などが魅力ある製品やサービスを実用化して事業化し、事業収支を上げて日本経済が成長することです。いわゆる成長戦略を実現し、日本企業が事業収支を高めて法人税を納めると同時に従業員などの給料を増やすことが大切です。

 単に金融政策によって円安や株価上昇を起こすことだけではなく、日本の企業などが魅力ある商品をつくり出し、従業員の給料を上げ、景気をよくすることが重要です。

 そのためには、日本企業などが魅力ある製品やサービスを実用化して事業化することに成功することが求められます。その魅力ある製品やサービスを研究開発するタネをつくる、国としての支援策が、今回始める産学共同実用化開発事業です。

 大学などの研究開発機関が持つ独創的な研究成果を基にした特許などの知的財産を起点として、その知的財産を基に製品やサービスを実用化して事業化する企業とが産学連携チームを組織します。こうした産学連携チームに原則5年間~10年間にわたって、3億~50億円の開発費を委託して進める技術移転新制度が産学共同実用化開発事業です。



 同事業の特徴は「開発リスクを国(JST)が負担し、各企業が独自では実施困難な開発・事業化を支援する制度である」と、科学技術振興機構の産学連携展開部は説明します。
 
 同事業は2013年1月11日に安倍晋三内閣が閣議決定した「日本経済再生に向けた緊急経済対策」が措置した平成24年度補正予算に基づく事業であり、総額が600億円と、例年になく大規模である点が注目されています。

 産学共同実用化開発事業に応募する産学連携チームに参加する企業は、日本国内に法人格を持ち、技術開発力などの基盤を持つことが求められています。大学などが持つ技術シーズ(特許など)知的財産の実施権を科学技術振興機構に独占的な実施権設定が可能なことも必要条件になっています(これは小難しいので説明はここまでです)。

 同事業に応募して採択されると、当該産学連携チームは開発の成否認定条件や実施料などの契約骨子を、大学などの技術シーズの所有者と当該企業、科学技術振興機構の3者で取り決めて合意することが開発の出発点になります。

 開発が終了した時に、この合意した開発の成否認定条件に従って、開発が成功したかどうかを判定します。開発に成功したと認定されると、開発費の返済契約を提携し、開発成果実施契約を締結します。この場合に「委託した開発費の返済は無利子で行われるなどのさまざまな配慮をしてある」と、科学技術振興機構は説明します。

 もし開発が不成功だと認定されると、開発費の90%が免除され、残りの10%を返済することになります。この場合は10年間での年賦返済などを適用できるなどの措置があるそうです。これが国が開発リスクをとることの意味です。失敗してもほとんど負債が生じないようにした工夫点です。

 日本の各企業は是非、この制度を活かして魅力ある製品やサービスを実用化して事業化してもらいたいと思います。この制度は平成の“米百俵”です。

持続可能性社会実現に向けた生物模倣技術の重要性を拝聴しました

2013年03月17日 | イノベーション
 東京都江東区内で開催されたシンポジウム「生物模倣技術(バイオミメティクス)がもたらす技術革新と博物館の役割」(主催は文部科学省科学研究費新学術領域「生物規範工学」)を拝聴しました。

 人類が開拓した、現在の人工物文明をどう考えるかという点で、大変示唆に富むシンポジウムでした。




 
 “生物模倣技術”“バイオミメティクス”とは、これまでは生物の機能を真似することでした。例えば、サメの肌表面の微細な凹凸などを真似した、水の流体抵抗が小さい水着などがその代表格です。東北新幹線の先頭車両の前に突き出た先頭部のデザインも野鳥のクチバシなどを模倣した、流体力学の賜物です。

 ただし、現在の生物模倣技術はまだ初歩的で、入り口に過ぎないようです。これからは真の生物模倣技術を実現したいという視点で、このシンポジウムは企画され開催されました。

 シンポジウムのまとめを担った東北大学大学院教授の石田秀輝さんは講演「結言:ネイチャーテクノロジーがもたらす持続可能性社会」の中で、「自然・生物はゴミを出さない」と解説します。地球表面は、太陽からの光や熱エネルギーを受け取って、多様で複雑な自然体系を創り出し、ゴミをつくらない持続可能性システムをつくり出していると解説します。地球で人類が長く繁栄できる持続可能性社会はこれからの研究開発成果にかかっていると主張します。

 今回のシンポジウムのテーマ名は「技術革新と博物館の役割」です。



 このシンポジウムを企画した東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授の下村政嗣さんは、「欧米などの博物館や動物園などは、自然・生物が持つ機能や生態系などを市民に分かりやすく伝える役目を本来業務として進めている」と説明します。大まかにいえば、生物学者が集めて体系化した自然・生物の“智恵”を、工学者などに伝えて、新しい工学体系をつくりたいと主張します。現在は、生物情報がまだ十分には伝わっていないといいます。

 下村さんは「問題提起持続可能性社会に向けた技術革新としての生物規範工学」として、以下のように主張しました。現在の人工物科学に基ずく工学などは、高温・高圧を利用し、化石燃料利用や原子力利用の発電を基に、金属材料ベースの文明を築いてきましたが、このままでは広義のゴミがたまってしまう。リサイクルなどの循環型社会を再構築するには、博物館にある生物標本・資料・論文などから、人類は学び直し、本当の循環型社会を目指す工学などを考え始めることが必要と説きます。

 生物のように室温に近い環境下で、穏やかな反応によって、目的の物質・材料などを創り出し、必要とする機能や機構を実現するには、まったく新たらしい反応などが必要となります。人類は、こうしたまったく新たらしい反応を実現する科学・技術体系を見いだすしかありません。まったく新しいイノベーションを起こすことは求められています。

 今回は壮大な話なので、細部は自分勝手な解釈を入れています。今後とも、循環型システムの持続可能性社会を目指す工学などを考え続けます。

「ナノセルローズ・シンポジウム2013 生物が創り出すナノ線維」を拝聴しました

2013年03月01日 | イノベーション
 京都大学生存圏研究所が開催した「ナノセルローズ・シンポジウム2013 生物が創り出すナノ線維」の講演会を拝聴しました。

 京都大学生存圏研究所が主催する、ナノセルローズ・シンポジウムは今回で7回目だそうです。



 このシンポジウムの主題になって「ナノセルローズ」「ナノ線維」とは、植物の細胞壁を構成し、て“心棒”として働いているセルロース・ナノファイバー(CNF)のことです。このセルロース・ナノファイバーはセルロース分子の集合体です。このセルロース・ナノファイバーがコンクリートの中の鉄筋にようなものです。このセルロース・ナノファイバーの“心棒”が強いために、例えばスギの大木は立っていることができます。

 この天然の心棒であるセルロース・ナノファイバーは、植物を構成する主成分であるだけに、無尽蔵に存在します。ところが、心棒の構造材である直線状のセルロース分子は、分子の表面に水酸基(OH-)を多数持つために、セルロース分子同士が水素結合によって強固なつながった集合体になっています。心棒が多数集合したものでしか存在できないところが自然の妙です。

 京都大学生存圏研究所の矢野浩之教授の研究グループは、このセルロース・ナノファイバーを巧みに取り出し、例えば繊維強化プラスチックの“繊維”として実用化したいと考えました。セルロース・ナノファイバーは、高強度かつ高弾性で、低熱膨張係数などの優れた性質を持つからです。

 いろいろな紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、紙をつくる際に利用するパルプからセルロース・ナノファイバーを取り出す、実用化に必要な技術を開発しました。

 一般の方には、パルプも細長い繊維の集合体と直感的に思われるでしょうが、セルロース・ナノファイバーは直径が数から数10ナノメートル(nm)と微細です。人間の髪の毛が直径数マイクロメートル(ミクロン)であることを考えると、セルロース・ナノファイバーはその1000分の1ぐらいと細い点が特徴です。

 繊維強化プラスチックの用途の中で、主なものは自動車の車体部品です。



 自動車の車体(ボディー)を繊維強化プラスチックに代替すると、軽量化が可能になるからです。現在の自動車では、繊維強化プラスチック製の車体部品はまだあまり多く使われていません。

 将来、セルロース・ナノファイバーで強化した繊維強化プラスチックを実用化するために、まずはポリエチレン(PE)で基礎データを採取し、プラスチックの種類をポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)へと拡大する開発を精力的に進めています。当初は、かなり無理な狙いとも思えましたが、さまざまな工夫を加えて、ある程度の実用化のメドを立てつつあります。

 こうした研究開発からイノベーションが産まれることを祈念しています。