石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

戦後ガザはどうなるのか?当事者たちの本音と本性(上)

2024-01-15 | 今日のニュース

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0595GazaJan2024.pdf

 10月7日のハマスによるイスラエル入植地奇襲をきっかけに始まったガザ戦争は、イスラエル軍がガザ北部を焦土化し、南部でも都市部に張り巡らせたハマスのトンネル網をしらみつぶしに攻撃する悲惨な市街戦が繰り広げられている。パレスチナ側の死者は女性・子供を含み2万人を超え、ハマスにとらえられた人質の多くも解放されず停戦の気配は見えない。国連安保理も機能マヒしたまま時間だけが過ぎていく。イスラエル軍とハマスの戦力の差は圧倒的であり、戦争がいずれイスラエルの勝利で決着することは衆目の一致するところであろう。ただ戦後のガザがどのような形になるかは不透明である。

 

 ここでは当事者たちの本音と本性がどのようなものかを探りながら、戦後ガザの姿を推測してみよう。

 

ネタニヤフ極右政権の本音と本性

 完全比例制のイスラエルでは政党が乱立している。現在のネタニヤフ政権は極右政党がキャッスティングボートを握り、彼らはユダヤ民族の本音と本性をむき出しにしている。

 

彼らはユダヤ人が神に選ばれし者であり(選民思想)、イスラエルの土地ははるか昔に神から与えられたものである、と主張している。ユダヤ人は2千年前に祖国の土地を追われ(ディアスポラ)、移り住んだヨーロッパ各地で蔑視され抑圧された。さらに第二次大戦では1千万人以上が強制収容所のガス室に送られた(民族浄化)。金融業で成功したユダヤ人は、第一次世界大戦で欧米連合勢力を支援し、見返りとして祖先の地イスラエルを取り戻した(バルフォア宣言)。彼らは「民なき土地に土地無き民を」をスローガンにヨーロッパから移住した。「民なき土地」と呼んだパレスチナであったが、もちろんそこにはディアスポラ以前からアラブ人が連綿と住み続けていた。スローガンとは時に荒唐無稽であっても響きが良ければ実態とは無関係に利用されるものである。

 

第二次大戦後にイスラエルは国家として独立した。そして4度の中東戦争で周辺アラブ諸国を完膚なきまでに打ち砕き、「不敗神話」を打ち立てた。一方でユダヤ人は自分たちをゲットー(ユダヤ人居住区)に押し込め、最後は強制収容所で死の苦しみを与えたヨーロッパ各国に絶えず贖罪意識を喚起した。米国に移住したユダヤ人たちは世界の超大国にのし上がる米国の政治・経済を牛耳り(ユダヤロビー)、さらにキリスト教の聖地エルサレムをアラブ・イスラム教徒から守るという看板を掲げて、米国の世論をイスラエル支持一色に染め上げた。

 

 ネタニヤフ政権の本音と本性は上記のことから次のように読み取れる。まず敵との戦争が不可避と判断されれば躊躇せず先制攻撃を行うこと、そして国際世論を敵に回してでも手段を選ばず敵を徹底的に壊滅することである。イスラエルにとって攻撃こそ最大の自衛策であり、勝利こそ全てを正当化する。今回のガザ戦争でハマス側に先制攻撃されたことは誤算であったが、直ちに報復しハマスをせん滅するまで戦いは止めないと明言している。

 

 イスラエルがここまで強気なのは米国が絶対に見捨てないと確信しているからである。またガザとウクライナの二重紛争にうんざりしつつあるヨーロッパ諸国に対しても折に触れてアウシュビッツの贖罪を持ち出して牽制している。冷酷なイスラエルに妥協と言う言葉はないのである。

 

(続く)

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(1月13日)

2024-01-13 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・米英軍、イエメンフーシ派の軍事拠点を16か所を一斉空爆

・イエメンフーシ派、米英の空爆に報復宣言。首都で大規模集会

・米:イランとの直接対決は望まず

・イラン、オマーン沖でタンカー拿捕

・中国外相、13-18日までエジプトなどアフリカ4カ国歴訪

 

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今週の各社プレスリリースから(1/7-1/13)

2024-01-13 | 今週のエネルギー関連新聞発表

1/11 ENEOS

日米水素サプライチェーン構築へ向けた資本参画について~メキシコ湾岸におけるクリーン水素製造~

https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20240111_01_01_2008355.pdf

 

1/11 INPEX

オーストラリア イクシス LNG プロジェクト参加権益等の追加取得について

https://www.inpex.co.jp/news/assets/pdf/20240111.pdf

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(102)

2024-01-12 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(16)

 

102 アフガン戦争勃発:呉越同舟の米国とアラブ(2/5)

 この内戦で反政府勢力の中心となったのが「ムジャヒディン」である。「ムジャヒディン」とはイスラームのジハード(聖戦)戦士を意味する現地語である。イスラーム・ジハードを掲げるムジャヒディンにとって無神論を唱える共産主義は「悪の権化」とも言える存在である。ムスリム(イスラム教徒)にとって共産主義はキリスト教やユダヤ教よりも認めがたい。

 

ムスリムたちは「キリスト教のGodもユダヤ教のエホヴァも自分たちが信ずるアッラーと同じ唯一の存在(神)である」と信じている。三大一神教最後発のイスラームにとって「唯一神のアッラーはGodやエホヴァと同じ。なぜなら神は唯一の存在だから」である。

 

ついでに言うならムスリムは旧約聖書に出てくる預言者が最初の預言者であり、キリストは最後から二番目の預言者、そしてムハンマドが最後の預言者であると考える。キリスト教ではキリストは神の子であるが、イスラームでは神が子供を生むことは無く、キリストはあくまでも預言者の一人ということになる。そして一神教徒すべてがそうであるように彼らは複数の神は認めない。従って彼らにとって古代ギリシャの多神教は邪教であり、日本古来の「八百万の神」などは野蛮人の信仰と映る。それでも少なくとも「神」の存在を前提としている点で彼ら一神教徒はかろうじて多神教徒を理解或いは容認できるのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(1月11日)

2024-01-11 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・2024、25年の米原油生産量1,321万B/D、1,344万B/Dで最大:EIA発表

(中東関連ニュース)

・イスラエル軍、トンネル内にガザ人質の痕跡を発見、公開

・イエメンフーシ派、紅海で米海軍に最大級の攻撃

・国連安保理、日米提案のフーシ派紅海襲撃事件非難決議採択。中露は棄権

・イスラエルとヒズボッラー、レバノン南部で交戦

・UAE大統領、インド訪問

・独、サウジ向け地対空ミサイル輸出再開、戦闘機Eurofighter輸出も検討

・サウジ標準化公団(SASO)、製品安全基準向上求め日中韓を歴訪

 

 

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中国以外は評価が低いBRICS:世界主要国のソブリン格付け(2024年1月現在) (下)

2024-01-10 | その他

(注)「マイライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0594SovereignRatingJan2024.pdf

 

2.2021年1月以降の格付け推移

  ここでは2021年1月以降現在までの世界の主要国及びGCC6か国のソブリン格付けの推移を検証する。

 

(格付け無しが続くロシア!)

(1) 世界主要国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01.pdf参照)

先進国の中ではドイツが過去3年間継続して最高のトリプルAの格付けを維持している。米国はドイツより1ランク低いAA+を続けている。なお米国の場合、S&Pは2011年にトリプルAからAA+に引き下げている。昨年S&Pと並ぶ格付け会社FitchRatingが同国をトリプルAからAAに引き下げている。FitchRating, S&P共に連邦債務の上限問題に関して連邦政府と議会の関係が不安定であることを引き下げの理由としているのは興味深い。

 

アジアの経済大国中国と日本の格付けは3年間A+で推移している。AAAのドイツより4ランク、米より3ランク低く、過去3年間格差は解消していない。台湾は2020年までAA-であったが、2021年上期に韓国と並ぶAAに格上げされ、2022年上期に再度引き上げられ現在はAA+に格付けされている。これら欧米・アジア各国より格付けは少し下がるが、石油大国のサウジアラビアは2023年上半期にA-からAにアップした。世界的な景気回復とOPEC+の協調減産による原油価格の上昇が同国の経済見通しを明るいものにしている。

 

コロナ禍前の世界的な経済成長の中で注目されたBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国については、上述のとおり中国がA+である。その他の4カ国を見ると、インドは過去3年間BBB-である。これは投資適格の中で最も低く、S&Pの格付け定義では「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」とされている。

 

南アフリカとブラジルは共にBB-で投資不適格であった。BBの格付け定義は、「より低い格付けの発行体ほど脆弱ではないが、事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。」とされ信用度が低い。BRICsの一角を占めるロシアは、2022年1月までインドと同じ投資適格では最も低いBBB-であったが、同年4月のウクライナ侵攻に伴い、S&Pは同国をN.R.(No Rating)として格付け対象から除外しており、現在もその状態が続いている。

 

(アブダビに並んだカタール、伸張著しいオマーン!)

(2)GCC6カ国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-02.pdf参照)

 GCC6か国(UAE、クウェイト、カタール、サウジアラビア、オマーン及びバハレーン)の過去3カ年のソブリン格付けの推移を見ると、まず2021年1月時点ではUAE(アブダビ)は最も高いAAであり、これに続きクウェイトとカタールがAA-に格付けされていた。しかしクウェイトは2021年下半期にはA+に落ちている。これに対してカタールは2022年下半期にAA-からアブダビと同格のAAに格上げされている。

 

3カ国は政治体制、人口・経済規模などが似通った産油(ガス)国である。それにもかかわらずクウェイトが格下げされているのは、同国が中途半端な議会制民主主義を採用している結果、政情が安定せず経済改革がほとんど進まないことに原因があると考えられる。カタールについては前項でも触れた通り天然ガス(LNG)が世界的に品不足で価格が高騰したためである。

 

サウジアラビアはこれら3カ国より低くA-であったが、昨年上半期にAに格上げされている。同国はUAE(アブダビ)、クウェイト、カタールを大きくしのぐエネルギー歳入を誇っているが、一方で人口も3カ国より飛びぬけて多いため、財政的なゆとりが乏しい。S&Pはこれらの事情を考慮してサウジアラビアの格付けを厳しく見ている。

 

産油量の少ないオマーンとほとんどないバハレーンの格付けは他の4カ国よりかなり低く2021年下半期まではB+にとどまっていた。その後、バハレーンは現在までB+格付けのままである。これに対してオマーンは2022年に一気に2ランクあげてBBとした後、昨年下期にさらに1ランク上のBB+に格付けされている。BB+は投資不適格では最も上のランクであり、同国は投資適格を目指して努力中である。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(101)

2024-01-10 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(15)

 

101 アフガン戦争勃発:呉越同舟の米国とアラブ(1/5)

 70年代前半の束の間の平和と繁栄の時代が過ぎると、後半には中東は俄然きな臭くなる。アラブから少し離れイランとパキスタンに挟まれたアフガニスタンに、1978年、ソ連肝いりの共産主義政権が誕生した。アフガニスタンは古くから交易の要衝であり、19世紀には中央アジアからインド洋を目指すロシアの南下政策に対し、インド洋沿岸沿いにオマーンからインドに至る交易路を確保しようとする大英帝国の東インド会社が激突、そこは「グレート・ゲーム」と呼ばれる紛争多発地帯であった。1970年代初頭に王制が倒れると、ソ連は好機到来とばかりに共産主義政権を支援した。

 

 しかし伝統的な部族社会であり、また強固なイスラーム信仰の国であるアフガニスタンは安定するどころか反政府武装勢力が勢いを増した。劣勢に立たされた中央政府はソ連に援軍を要請、ソ連は国際社会の反対を押し切って1979年に軍事介入に踏み切る。この後、ソ連軍が撤退するまでの10年の間、アフガニスタンは泥沼の内戦を繰り広げるのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(1月9日)

2024-01-09 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・サウジアラムコのアジア向けアラビアンライト価格、27カ月ぶりの安値

・リビア最大の油田、抗議活動で操業停止

(中東関連ニュース)

・イスラエル、北部ガザの大規模戦闘は終結

・米国務長官、トルコ/ヨルダン/UAE/カタール/サウジ各国を経てイスラエル歴訪

・ヒズボッラー高官、レバノン南部でイスラエル攻撃受けて死亡

 

・UAE大統領、アゼルバイジャンを公式訪問

・米国防省:イラク撤退の予定なし。イラク政府の撤収検討方針に異論

・UAE内閣改造、宇宙飛行士が青年相に就任

・エジプトで大規模な古墳群を発見

 

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中国以外は評価が低いBRICS:世界主要国のソブリン格付け(2024年1月現在) (上)

2024-01-09 | その他

(注)「マイライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0594SovereignRatingJan2024.pdf

 

 本レポートは著名な格付け会社Standard & Poors (S&P)[1]の世界主要国及びMENA諸国のソブリン格付け[2]を取り上げて各国を横並びに比較するとともに、いくつかの国について過去3年間にわたる半年ごとの格付け変化を検証するものである。

 

 因みにS&Pの格付けは最上位のAAAから最下位のCまで9つのカテゴリーに分かれている。このうち上位4段階(AAAからBBBまで)は「投資適格」と呼ばれ、下位5段階(BBからCまで)は「投資不適格」又は「投機的」とされている。またAAからCCCまでの各カテゴリーには相対的な強さを示すものとしてプラス+またはマイナス-の記号が加えられている[3]。なおC以下でS&Pが債務不履行と判断した場合はSD(Selective Default:選択的債務不履行)格付けが付与され、さらに格付けを行わない場合はN.R.(No Rating)と表示される。

 

S&P(日本)ホームページ:

https://disclosure.spglobal.com/ratings/jp/regulatory/delegate/getPDF?articleId=3107249&type=COMMENTS&subType=REGULATORY&defaultFormat=PDF

 

*過去のレポートは下記ホームページ参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/SovereignRating.html 

 

(日本は台湾より3ランク、韓国より2ランク下、中国と同じA+!)

1.2024年1月現在の各国の格付け状況

(表:http://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-01.pdf 参照)

2024年1月現在の格付けを昨年8月のそれと比べると最高格付けAAA(トリプルA)のドイツ、カナダ、シンガポール等の他、AA+の米国[4]、AAの英仏、A+格付けの日本、中国など主要な国々に変動はなかった。

 

極東各国(地)の格付けは台湾と香港がAA+に格付けされている。韓国はこれら2カ国より1ランク低いAAであり、日本と中国はさらに2ランク低いA+とされている。台湾と香港の格付けは米国と同じである。台湾は政治的、軍事的に緊張をはらんだ状況に置かれているが、IT産業が好調であるなど、経済的には日本或いは中国よりも安定していることから高いソブリン格付けを得ている。中国の動向を踏まえると、今後台湾と香港がどのように評価されるか注目される。

 

G7の国々のうちドイツ及びカナダはAAAの最高格付けであり、米国は1ランク下のAA+、英国及びフランスはさらに1ランク低いAAである。そして日本はAAAより5ランク低いA+に格付けされ、イタリアは投資適格ではあるがBBBにとどまっている。因みに格付け定義ではAAは「債務を履行する能力は非常に高く、最上位の格付け(トリプルA)との差は小さい」とされ、これに対して格付けAは「債務を履行する能力は高いが上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化からやや影響を受けやすい」とされている。そしてBBBの定義は「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」である。

 

新興経済勢力として注目されるBRICS各国の格付けを見ると、中国は上述のとおりA+であり欧米先進国に次ぐ高い評価を得ている。しかしインドは投資適格では最も低いBBB-であり、ブラジル及び南アフリカは投資不適格のBB-の格付けである。特にロシアはウクライナ戦争による欧米の経済制裁を受け、格付け対象から外れるNR(No Rating)の扱いである。

 

アジア諸国のうちシンガポール及びオーストラリアがAAAに格付けされ、またMENA諸国では、アブダビ及びカタールがAAに格付けされている。世界的に天然ガス(LNG)の需要がひっ迫しておりLNG輸出国カタールの格付けが高い。

 

その他の主要MENA諸国では、イスラエルがAA-である。またGCC諸国を見るとクウェイトはアブダビ、カタールより2ランク低いA+である。サウジアラビアは昨年上半期にA-からAに1ランクアップしている。ロシアなどを含めたOPEC+(プラス)の協調減産の結果、油価が比較的高目に推移しサウジアラビアの財政が黒字基調であることが格上げの要因と見られる。GCC諸国の中で石油天然ガスの生産量が比較的少ないオマーンと殆ど産出しないバハレーンは共に投資不適格のランクであるが、オマーンは昨年下期にBB+に格上げされバハレーンとの格差が拡大している。

 

MENAでは大国に位置付けられているトルコ及びエジプトは共にBの格付けである。人口の多い両国は国内のインフレが悪化していることが格付けの低い原因である。因みに格付けBの定義は「現時点では債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた発行体よりも脆弱である。事業環境、財務状況、または経済状況が悪化した場合には債務を履行する能力や意思が損なわれ易い」である。アジアの国々の多くは投資適格では最も低いBBBの格付けであり、タイ及びフィリピンがBBB+、インドネシアはBBBである。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

[1] 世界的な格付け会社はS&P社のほかにMoody’s及びFitchRatingがあり、三大格付け会社と呼ばれている。

[2] ソブリン格付とは国債を発行する発行体の信用リスク、つまり債務の返済が予定通りに行われないリスクを簡単な記号で投資家に情報提供するものである。「ソブリン格付け」は、英語のsovereign(主権)に由来する名称であり、国の信用力、すなわち中央政府(または中央銀行)が債務を履行する確実性を符号であらわしたものである。ソブリン格付けを付与するにあたっては、当該国の財政収支の状況、公的対外債務の状況、外貨準備水準といった経済・財政的要因だけでなく、政府の形態、国民の政治参加度、安全保障リスクなど政治・社会的要因を含めたきわめて幅広い要因が考慮される。

[3] S&Pの格付け定義についてはhttp://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-02.pdf参照。

[4] FitchRatingは最近米国格付けを最上位のAAAからAAに引き下げた。S&Pはすでに2011年にAAAからAAに引き下げている。引き下げの理由はFitchRating, S&P共に連邦債務の上限問題に関して連邦政府と議会の関係が不安定であるためとしている。

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(100)

2024-01-08 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(14)

 

100 「平和の家」と「戦争の家」(4/4)

民族(血)と宗派(心)と政治思想(智)が絡み合い「敵」と「味方」が判然としなくなった。「敵の敵」が味方であるかそれとも別の敵なのかもしれない。同様に「敵の味方」が敵なのかそれとも別な味方なのか、その時の状況或いは時の経過によって目まぐるしく変わる。

 

 このような「敵」と「味方」が判然としない色調は21世紀に入りますます濃厚になるのであるが、1970年代後半から1980年代の中東は比較的穏やかな時代であった。これが平和な時代と呼べるかどうかは異論があるかもしれない。しかしその平和を担保したのはひとつがオイルマネー(カネ)に潤う湾岸産油国とその分け前に預かった中東各国が享受したオイルブームであり、もう一つがシリア、イラク、リビアなど各国に生まれた強権独裁体制である。第四次中東戦争以降の一時的な中東の平和は「オイルマネー」と「独裁者」がもたらしたと言ってもあながち間違っていないであろう。

 

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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