石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(ニュース解説)エネルギー大国、米中の衝突(その5)

2006-06-10 | その他

(「石油文化」ホームページに全文一括掲載しています)

 (これまでの内容)

その1:はじめに

その2:エネルギー大国:米国と中国

その3:石油をめぐる米国と中国の衝突

その4:自縄自縛の米国と「安保理タダ乗り」の中国

    (1)世界秩序の維持に使命感を抱く米国と気楽な中国

 

(2) 内外の世論に縛られる米国と国内世論を容易に操作できる中国

 米国のブッシュ政権は「中東民主化政策」と「二国間のFTA(自由貿易協定)締結」を中東外交の柱としている。その目的とするところは、政治的には中東に西欧型民主主義を根付かせてイスラム・テロやパレスチナ問題を解決し、またFTA(自由貿易協定)の締結により、投資及び貿易面で米国の絶対的な優位を確立するためである。

  米国が民主主義の布教に取り憑かれ始めたのは旧ソ連邦が崩壊し社会主義との闘争に勝った時からである。米国は西欧型民主主義こそ新しい世界秩序の根本規範であると固く信じてそれを他国に押し付けた。その動きを加速したのは9.11テロ事件である。米国はイスラム原理主義こそ悪の根源であるとばかりに、中東での民主化政策を強引に推し進めている。しかし、そのために内外の世論から批判を浴びている。

  他方中国は共産党の一党独裁である。中国政府は言論の自由が保証されていると言うが、それを額面どおりに受け取る向きはいないであろう。インターネットが普及したことによりかなり辛らつな政府批判も見受けられるが、度を超した批判は陰に陽に抑えられ、その反対に親政府的な論調は大々的に取り上げられる。中国が言論操作の極めて容易な社会であることは間違いない。従って中国政府は対外政策について国内世論の批判に考慮する必要が殆ど無いフリーハンドな立場にあると言えよう。

  米国首脳の外国訪問が西欧民主主義の宣教師の趣きがあるのに対し、中国首脳のそれは露骨な自国の国益確保である。例えば4月に胡主席が行った外遊の訪問先は米国とサウジアラビアとナイジェリアであった。米国訪問では米国側の対応が冷淡であったと言われている。中国としても米国訪問はかなり儀礼的なものであり、胡主席の本当の目的は石油確保のための産油国詣でではなかったかと推測される。サウジアラビアとの間では中国本土での製油所建設を始め石油に関する包括的な協力が話し合われた。またナイジェリアについては、先に中国はAkpo油田への参加を果たしており、今回の首脳訪問ではナイジェリア国内に合弁製油所を建設することが報道されている。もちろん主席のこのような外交に対して中国々内からは批判的な論調は一切聞こえてこない。外交に関する限り中国政府首脳は国内世論に対してフリーハンドなのである。

 (3) ビジネス・モラルに縛られる米国と国益最優先の中国

 石油・天然ガスの利権契約については、しばしば贈賄問題が取り沙汰される。利権交渉の相手国が開発途上国の場合は特にその傾向が強い。利権獲得の見返りとして相手国の政府高官に多額の賄賂が贈られる(或いは高官から賄賂を要求される)ことはなかば公然の秘密である。

  米国はロッキード事件を契機に外国公務員に対する商業目的での贈賄行為を違法とする「海外腐敗行為防止法」を制定した。これはその後OECDで「外国公務員贈賄防止条約」として批准され、2002年現在では35カ国が加盟している。これにより贈賄が根絶されたわけではないが、先進国の民間企業は疑惑が表面化した場合の社会的制裁を恐れてコンプライアンス(法令順守)の姿勢を強めている。

  しかし中国の場合、契約当事者は民間企業ではなく国営企業である。国営の石油企業は、利権獲得が国策であるとばかりに相手国の政府高官に対してかなりダーティーなアプローチをしているであろうことは容易に想像できる。そして仮にモラルに反することが露見しかかったとしても国家ぐるみでもみ消して国際世論の目からそらせ、或いは国内世論の告発を押さえつけることはほぼ間違いない。

  別の問題点として環境問題もある。石油・天然ガスを探鉱或いは生産しようとする場合、常に環境汚染や環境破壊の問題が惹起する。例えば開発現場が海上であれば海洋汚染が問題となり、陸上であれば自然環境の破壊が問題となり、環境保護団体の厳しい目が光っている。米国のアラスカではかなり以前に石油及び天然ガスが発見されているが、野生動物保護法などの環境規制をクリアできないためにいまだに生産に着手できないままである。またメキシコ湾でも探鉱や生産のための施設建設には多くの制約がある。

 そのような中で、メキシコ湾を挟んで対峙するキューバが沖合い鉱区を国際入札にかけると発表、中国が入札に参加する意向を表明している。キューバでの石油開発には米国ほどの厳しい環境規制はない。米国の政府或いは石油企業にとっては、自国の領土内ですら自由に開発ができない中で、社会主義国のキューバで中国が石油開発に乗り出すのを手をこまねいて見ているしかないのである。彼らの胸中が穏やかでないことは確かであろう。

 5. 最後に

 これまで米中の衝突の原因として、米国が国際社会の中で独善的かつ権柄づくの姿勢に終始し、一方、中国は国際社会のルールやモラルに対する自覚が乏しく、露骨に自国の国益を優先させていることを筆者なりの考えで述べた。

  しかし、日本や欧米先進国もかつては現在の中国と同じような態度で振舞っており、中国を一概に非難する資格がないことを忘れてはならない。また米国の独善的とも言える姿勢についても、「Uncle Sam(お人好しのアメリカ人)」といわれるほど善良な使命感に支えられたものであり、何よりも米国内には政府や企業の暴走を抑える健全な世論があることも留意すべきであろう。

  ただし、米中の衝突を手を拱いて傍観していれば事態は改善しないばかりでなく、さらに悪化する恐れすらある。従って両者に対話を促すための国際世論を形成することが重要である。現在の日米関係或いは日中関係を考えると、日本自身が両国の対話の仲介者となることは難しいが、国際世論を喚起する外交努力を続けることは重要であろう。

 (完)

 「石油文化」に一括掲載しました。


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