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ファイナンシャル・ジャーナリスト 竹川美奈子のブログ。
お金に関する情報や日頃感じたことを発信していきます。

運用会社としての鎌倉投信(その2)

2012-09-17 13:13:49 | 投信

続きです)

●BGIから学んだこと →「取るリスクと取らないリスクをはっきるする」。これがもっとも重要

●取っているリスク

・株式の本源的価値

・サイズ(→企業規模小さい会社に投資。イノベーションを起こしやすい)

・流動性(→他の運用会社が取れなくて、鎌倉投信がとれるリスク。解約はキャッシュで対応。株は動かさなくてすむ。月々の積立金額もわかるし、入金を前提にリバランスが可能。直販の利点を使える)

●取らないリスク

・市場予測・株価予測はしない。どの会社の株が上がるかはわからない。だから、投資先の銘柄は等配分、業種もニュートラル。同業種は20%以内に抑えている。

・投資タイミングもとらない。ほぼ毎日買っている

・積極的なTAAもしない

●アクティブ運用の基本法則

IR(インフォメーション・レシオ)=IC(情報価値)×√BR(頻度)

-ICはそれほど大きくないと思っている。その分、BRで稼ぐ。特に流動性の低い会社は驚くほど少ない単位で買っている(バレないように)。

-投資先の銘柄は等配分。今は1銘柄が(ポートフォリオ全体の中に占める比率は)2%。比率が2%を超えたところは売る(利益が出ている場合)。毎日売る。どこまで上がるか分からないから。逆に、ウエイトを下回ると買う。が、あくまでも簿価を下回る水準まで下がったら。あとは自動的に買う。

●徹底した分散→「市場・業種」「スタイル」「外需・内需(今は25%:75%)」「地域・決算日、本社の場所など」「投資タイミング」

-ファンドマネジャーは1社だけをみて、割安な株を買っていく。でも、ポートフォリオ全体でみたときに割安になっていないことも多い。「俺はあの時点でこの会社を買っていた」という人はたくさんいるが、「俺はあの時点でこのポートフォリオを組んでリターンをあげた」とコメントする人はいない。

-私たちは「ポートフォリオ全体」でPBR管理をしている。

-運用は1人の「技量」ではなく、「技術」として行うべき(→技術は継承できる。私が事故に遭っても他の人が対応できる)

-「ポートフォリオは芸術」だと思っている。当初から100銘柄くらい投資先の候補があって、その中かポートフォリオに足りないものを加える。あるいは「その中からどれを加えるとリスクが下がるか」といった視点で候補企業の中から組入を決定(自称「オタク」だとおっしゃってました)。

こうして出来上がった運用コンセプトが「ベンチマークなし」「(超)中小型」「予測しない;市場は効率的である」「直接リサーチ型」「リスク管理型」

―いい会社というのは投資するときの「制約条件」のようなもの。いい会社は最終的に社会が決めるもの。いい会社をうまく組み合わせるしくみをつくり、お客様にリターンを提供することが仕事。鎌倉投信の投資哲学を実現するしくみをプロとして提供することが大事だと思っている。

●リスク・リターン

「結い2101」のパフォーマンス評価(2010年3月29日~2012年8月31日)
・実績リターン 年率2.6% (TOPIX -10.8%)
・実績リスク 年率8.7% (TOPIX19.3%)リターン

Q&Aは省略します。

(感想)90年代から投信のファンドマネジャーの方の取材をしていましたが、「この銘柄をどこで仕込んだか」的な話が圧倒的に多い…。新井さんのように「予測はしない。当たらないから」と言ってしまうアクティブファンドマネジャーは初めてかもしれません(笑)。 今回の話を聴いて、「アセットアロケーション全体で管理する」、ポートフォリオのPBR管理やキャッシュ管理などで「リスクを抑えること」をすごく意識されていると感じました。また、キャッシュの比率が高いため、上昇相場では他の投信ほど上昇しないだろうという点にも言及されていました。

以前こちらにも書きましたが、投信を購入するときには5つのPについて確認することが重要だと思っています。「理念に共感したから」だけではなく、「目先の成績がいいから」と飛びつくのでもなく、(ここまで詳しい説明を聴く必要はないですが)他のこともバランスよく調べてから購入する・しないの判断をしても遅くないと思いますし、結果的にそのほうが長く持てるのではないかと思うのです。

 <他の方のレポート>

●梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(水瀬ケンイチ)「鎌倉投信セミプロ向けセミナーレポート」
●"いい投資"探検日誌 from 新所沢 鎌倉投信セミプロ向けセミナーレポート (速報版) 「運用会社としての鎌倉投信」  


運用会社としての鎌倉投信(その1)

2012-09-17 12:52:17 | 投信

9/15(土)に鎌倉投信でセミプロ向けセミナーというのがあり、資産運用部長新井和宏さんのお話をきいてきました。投資経験者や金融機関に勤めている方、メディアの方などから「いい会社に投資するだけでリターンあげられるの?」とか、「結い2101ってSRIファンドなの?」といった質問をされることがよくあります。私は鎌田社長だけでなく、新井さんからもお話を伺ったことがあり、それほど違和感は感じていなかったのですが、たしかにこちらだけみると、「理念はわかるけど…。で??」となる方もいらっしゃるかもしれませんね(苦笑)。

ということで、今回は運用担当者である新井さんが「運用会社としての鎌倉投信」というテーマで、少し専門的な話を交えて運用の説明をする会がありました(レジュメ60ページ、1時間半びっしりと説明されましたので、要点のみまとめています)。

経歴→住友信託を経て、BGIへ。約20年の運用経験。アセット・アロケーションが主軸だが、エンハンスド・インデックス、4資産バランス、通貨、ヘッジファンドなど様々な運用に携わる。運用兼企画セクションにいたため、経験の幅は広い。

日本株にβ(ベータ)は存在するのか?→存在する。ただ、リスク対比でやたらに低い。それは「自動車・電機業界依存」「外需依存」「少子高齢化などの社会・構造的な問題」があるから。

仮説の検証→「社会的な問題を解決しない限り、日本株の長期的な上昇はない」。これが鎌倉投信の根幹。こう思わない人は「結い2101」に投資しないほうがいい。

低成長市場(国)への投資手法

-ニッチなイノベーション(→時価総額の小さな企業群に世界シェアが高い企業が存在する。グローバルニッチなマーケットにおいてトップシェアをとる小さな会社が多い)

-物・サービス飽和時代のビジネス(→サービスが同じなら共感性の高いものを選ぶ)
-社会的問題解決型ビジネス
-集中投資

市場に関する仮説

-市場は基本的に効率的。ただし、例外的にアノマリーは存在する。しかし、アノマリーも安定的ではない(→アノマリーは変化する、逃げる。運用会社はそれについていけるかどうか。効率的市場仮説;日本は「セミストロング・ファーム」。BGIは世界的にインフラが整っていて、運用担当者も多数いる。同じことをやっても(鎌倉投信という)ベンチャーが勝てるはずはない。

●鎌倉投信の発想;「インデックスについていかない方法論はないか?」→TOPIX以外への投資、タイミングを分散する、キャッシュを1つの資産として持つ。

個人投資家の特徴               個人向け商品を作るときの解決策

-過去の失敗にも、成功にも引きずられてしまう → ①低いボラティリティ

-下方リスクへの低い許容度(下がるとイヤ)  → ②安定的なリターン

-知識レベルに大きなばらつき           → ③シンプルな商品

-市場が下がったときに売却する習性      → ④応援先を応援する仕組みづくり

補足)投資で成功するには安いところで買って、高いところで売ること。下がったところで売らないようにする習性を商品としてつくれないか。そのための仕組みとして「受益者総会」や「いい会社訪問」などを実施。

運用者の特性     

-ファンドマネジャーのサラリーマン化(→指数にちょっと勝てればいい、隣の席の人にちょっと勝てばいいという人が増えた)

-マネジャーの分断(アセットアロケーションと個別資産) 

-ファンドマネジャーとポートフォリオマネジャーの統合(→ファンドマネジャーはいい会社を買いたいと思っているが、ポートフォリオマネジャーはリスクを下げたいと思っている。つまり向いている方向が違う。以前は分けていたが、今はひとりで兼務するケースが多い。その結果、リスク管理が甘くなることも…)

-第三者評価への依存(BARRA、SRI)

●では、差別化の可能性は?

⑤インデックスの呪縛からの解放

⑥キャッシュマネージ

⑦銘柄選択とリスク管理のバランス(→ポートフォリオマネジャーとファンドマネジャーのバランスをとる)

⑧主体的な調査体制(直接訪問。地方のアナリストがついていないところにアノマリーが存在する)

⑨新規上場銘柄や直近業績の悪い銘柄を敢えて保有

●運用コンセプト

×インデックス、×PI、×ロングショート

◎「企業業績にどうしたらトラックできるか?」…企業業績=純資産と配当金額の増加率は右肩上がり。

●期待リターン・想定リスク水準の設定
・企業の純資産の増加率平均値 →5.2%
・期待リターン5% ÷ 期待シャープレシオ0.5以上 = 想定リスク10%以内

どうしたら企業業績についていけるか

-インデックスの説明力を低下させる

-アノマリーは不安定で小さい。日々努力するしかない

-リスクを下げること(→こちらは技術的にできる。リターンは神のみぞ知る。-リスクを下げるためにも、キャッシュを1アセットとして持つ、東証一部銘柄をポートフォリオの半分以上は持たない)

●アセット・アロケーターとして学んだこと

-TAA(タクティカル・アセット・アロケーション=市場の短期的な環境変化のタイミングを捉えて、機動的に資産配分の変更を行う手法)はリスクの割にリターンが低い(→要は、当てられない)

-機械的なリバランスは度の頻度でやっても大差ない(→利益がでてから。どの程度で行うかは匙加減)

-キャッシュも1アセットである

●キャッシュ比率の決定要因

-直販なので、資金の出と入りがみえるので、キャッシュマネジメントしやすい。これは直販のメリット。

-今は(株式比率を)60~70%の範囲内で管理している。

-ボラティリティの変化によって、キャッシュを変化させることでリスクを抑える。

-ヒストリカルボラティリティ(過去250日)をみて、ボラティリティが上がったら株式比率を下げ、逆にボラティリティが下がったら株式比率を上げる

(続く…)