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黒の福音

2012年04月15日 20時50分35秒 | 小説

松本 清張氏の作品。

松本 清張は、中高生のときにほぼ全巻読んだのだが最近また読みだしてゐる。

面白い。

筆運びが、いい

現在の「小説家」のやうな「軽い日本語」ではないのがいい。

以前別の小説家のあとがきを読んだ時に編集者に「最近の若い人は難しいものを読まないから、やさしく書いてください」と言はれ新シリイズを書くにあたり文章のレベルを落としたといふことが書いてあつた。

だうりで、つまらないものが増へるはずだ。

そしてこんなところにも「マスゴミの弊害」があるのに驚き、怒りを感ぢる。

その点、松本清張氏の作品は昭和40年代に書かれたものが多く、社会的背景も興味深いことながら内容が薄ッぺらくなく、楽しめる。

本作品は昭和34年3月に起こつた「スチュワアデス殺人事件」に基づいて書かれたものであり、松本氏が独自の推理と解決を提示したものださうだ。(解説、中島河太郎氏より P693-)

「昭和35年版の「朝日年鑑」によると、東京都杉並区善福寺川で女の死体が発見された。持ち物からT子さんで英国海外航空のスチユワデスであることがわかつたが解剖結果から他殺と断定されて大騒ぎとなつた。容疑線上に最後まで残つたのが、T子さんの生前出入りしていたカソリツク教会のベルギイ人神父。操作本部は相手が外国人であるだけに国際問題にもなりかねないと慎重を期し、極秘の操作を続けたのち同神父を直接調べようとして出頭を求めたが応じなかつた。当人ばかりでなく教会組織をあげての出頭拒否に警察部内のみならず一般からも批判の声があがつた。

結局、2.3回出頭して取り調べを受けたが黒白がつかず、まだ警察がこれからも調べたいと言つてゐた矢先問題の神父は当局へ何の連絡もせず羽田から飛行機で本国へ帰ってしまつた」(P693-694)

松本氏はこの事件に深い興味を覚へ事件の資料を収集し、犯行現場にも出向くほどの熱意を示した。

結果本小説が生まれたのである。

解説者は「思ひきつた」と記述するのだが、それは昭和34年当時の日本の国際的立場などを考慮したものと思はれる。現在ではだうなのか?

未だに昭和34年から脱しきれてゐないのではないかと思ふこともあるが、松本清張氏の「取材してある過程を元に小説にしあげる」といふこの行動は大変思ひきつたことだつたのであらう。

現在でもおなぢことが言へるのではないか?

いずれにしても、松本 清張 といふ作家の文章力、構成力に感嘆するものである。 

三島 由紀夫といひ、松本 清張といひ、昔の作家の日本語と文章構成力はよかつた。深い洞察力のもとに表現力が加はり奥深い、いひ酒を呑んでゐるやうである。



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