読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

歌舞伎 型の真髄

2014年07月20日 16時42分25秒 | 文化

渡辺 保氏の著書。

渡辺氏は1936年東京都生まれ、慶應義塾大学経済学部卒業後、東宝演劇部企画室を経て演劇評論家に。
「女形の運命」で芸術選奨文部大臣新人賞受賞、「忠臣蔵 もう一つの歴史感覚」で平林たい子文学賞、
また同書と「俳優の運命」で河竹賞、「娘道成寺」で読売文学賞、「四代目市川團十郎」で芸術選奨文部大臣賞
等々著書で数々の受賞をされてゐる。

2000年に紫綬褒章を、2009年には旭日小綬章を受章されてゐる。

本書は、数ある歌舞伎の演目から、おなぢ場面でも役者によつて「型」が違ふことが述べられてをり、
歌舞伎好きには興味深い内容となつてゐる。

ごひいきの役者がゐると、その役者中心に観てしまひおなじ演目でも役者が違ふと衣装や、「型」が
違ふとは知らず、本書で初めて知った。

また、上方歌舞伎と江戸歌舞伎の違ひにも書かれてゐるので、東西で同演目を演じても舞台装置から
美術から違ふといふこともわかつて、面白かつた。

いつも海老蔵丈(市川宗家)を見てばかりなのだが、本書のやうに比較を読むとたとえば勧進帳で
幸四郎の弁慶を観劇して團十郎、海老蔵との違ひをみたくなる。

本書は20の演目の型について述べられてゐる。いくつかは観劇した演目もあつたので、違ふ役者の
「型」を読むと新鮮だつた。

本書の姉妹編「歌舞伎 型の魅力」をこれから読まふと思ふ


クローズアップ

2014年07月09日 19時57分42秒 | 小説

今野 敏氏の作品。

警察小説が多い今野氏だが、今回の作品は

ジャアナリズム

に視点を充てた作品である。 

都内の公園で起きた殺人事件、偶然近くのバーで飲んでゐたTV局の記者が壱番にかけつけ、警察の捜査の最初の段階を
携帯動画に納める。

そのTV局はその動画をスクウプとして放送。

局内でこの記者は大変持ち上げられるのだが、「別に狙つてゐたわけではない」「偶然だ」とヒーロー扱ひを
どこ吹く風と受け流す。

この記者に、あんなにすぐに殺人現場にかけつけたのは何か事前に知つてゐたからではないか、と
局内や警察、週刊誌の記者などが接触してくる。

警察では、特命捜査係といふ時効がなくなつたことにより過去に起きた事件を洗い出し再捜査するチイムの刑事が
この事件に非常な興味を抱いてゐた。

まあ、所謂「推理小説」なのだが

面白いのは、スクウプを揚げた記者が

「一斉に同じ方向で横並び放送ばかりの現状を批判し、自分で考え取材する」

ことだ。これ現在のマスゴミへの厭味かな?と思ひながら読んだ。

この作品はある議員のスキャンダルが登場し、マスゴミが一斉にその議員を叩くのだが

記者が属するTV局だけは批判をしない。 それどころか、横並びマスゴミの鼻を明かすやうなことを放送する。
そして、その放送を機に局を訪れる人間・・・・

そこから、事件が繋がつていく・・・・

この作品はやはり、考えないバカな横並びで安心するばかなマスゴミを遠回しに批判してゐるのであらう・・・


スープの国のお姫様

2014年07月02日 22時51分14秒 | 小説

樋口 直哉氏の作品。

樋口氏は1981年生まれ、服部栄養専門学校を卒業された料理人、作家であります。
フランス料理の出張料理人として活躍され、2005年「さよならアメリカ」で第48回群像新人文学賞
を受賞しデビュー。同作で芥川賞候補となる。
著書に「月とアルマジロ」「大人ドロツプ」「星空の下のひなた」「アクアノートとクラゲの涙」など。

なにげなく図書館の新刊コオナアで手にして、料理に関する本だつたので借りた。

予想外に面白かつた。自分が料理が好きなせいもあるのかもしれないが・・・

スープの国の、と題名にあるとおり、物語はスープを中心に始まる。

主人公は昔料理人だつたが、シェフが亡くなつた事を機に料理から離れ、レポオタアのやうなこと
をして過ごしてゐる。

ある日、別れた恋人から料理の仕事を紹介される。

それはある屋敷の専属のコツクで、女主人の夕食を作る仕事だつた・・・

夕食は決まつてゐる、それはスープとバゲツト2切れ。 スープはおまかせ・・・・

時々、この屋敷に客が来る。その客がリクエストするスープ、客が望むやうなスープを
作つていく主人公。

スウプの5話の話が出てくる。

ポタージュ・ボンファム
ビールのスープ
ロートレックのスープ
偽ウミガメのスープ
せかい1おいしいスープ

この作品はスウプだけでは終はらない。

主人公、雇い主、雇い主の血縁関係の人々、執事・・・とその人間関係も面白い。

スウプの作り方、その昔出来上がつたばかりの頃のレシピや民話なども出てきてなかなか面白い。

何より自分が面白いと思つたのは、作者が料理人なのでスウプの作り方を書いてゐてくれて
ゐるところだ。 材料もこの材料を使ふとこんな味になるとか書いてあるので、実際に自分で
作つてみたくなる・・・・・

しかし、これを読むとスウプといふのは実は下ごしらえが大変な料理で、さう簡単に出来るものではない
と思ひ知らされる・・・

じつくり、美味しいスウプを作つて楽しめるのは、ある意味すごく贅沢なことなのかも・・・と思つた