読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

夕暴雨 (ゆうばくう) 東京臨海署安積班

2011年04月30日 10時08分30秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。

お台場の警察署の捜査一課安積を筆頭とする捜査員たちの物語シリイズ。

今野氏の作品は、先に3点ほど読みストオリイのみならづ、描かれる人間が面白いがこのシリイズもしかり。

お台場の警察署が新築され、旧署から引越しをする。署の新築は単なる旧署からの移動だけでなく、編成も変更され課が新設されたりで、今までゐなかつた顔が一緒になる。

その中で相楽といふ人間が新設された捜査二課の係長としてやつてくる。相楽は安積に何かと対抗意識を燃やし、「手柄を先に」立てることを考える言動をのぞかせ安積はいい気がしない。

そこへ、東京ビツクサイトで開かれるコミュニティに爆破予告がインターネツト上に書かれる事件が起きる。いたづらなのか、本気なのか。

相楽と安積のチイムは見解が分かれ、相楽は自分の信じるやり方を進める。安積の部下、須田はインターネツトやパソコンを普段から愛用し、爆破予告の書き込みなど独自の考えを持つてゐた。安積は須田の意見を参考にしつつ、捜査を進めるが相楽のやり方に対し危惧を感ぢる。相楽に忠告するが、相楽の反応は・・・・・・

「相楽みたいな人、ゐるな・・・」と思ひつつ読んだ。対抗意識を燃やすのが強い人ほど、そちらに気を取られて肝心の仕事の要点を外してゐる傾向がある。それに気付かないで進めるから始末が悪い。

しかし、「面白い」と思はせる小説は「人物」が面白く展開していくな・・・と今野氏の小説でも思つた。


日本改正案 三島 由紀夫と楯の会

2011年04月27日 16時26分18秒 | 政治関連・評論・歴史・外交

松藤 竹二郎氏の編集による、三島 由紀夫と楯の会の憲法改正論議の書。巻末に資料として三島氏の書簡、遺書等がある。

三島 由紀夫と楯の会、聞いたことはあつたが実際どのやうなことを目的とした団体でどんな活動をしてゐたのか皆無であつた。

三島 由紀夫は、楯の会の会員4名と自衛隊市ヶ谷駐屯地へと向かひ、陸相を監禁、バルコニーにて演説を行なつた後、割腹自殺を遂げた。一名の楯の会の会員、森田氏も三島の介錯を行なつた後に割腹した。

この事実が世にクロオズ・アツプされ、楯の会のイメエジといふものは、「軍国主義の復活」とか「極右」などマイナスのイメエジが大きいやうに思はれる。

本書では楯の会が組織してゐた、「憲法研究会」の下に現行憲法の問題点(と楯の会が認識する事)および憲法改正案を討議したやうすが公開されてゐる。

現在でも現行憲法の争点となつてゐるのは、第九条と自衛隊であるが楯の会はこの条文だけでなく、天皇に関する規定も討議してゐる。

といふのは、大日本国憲法は天皇の存在と権限を絶対的なものとして規定し、これを利用(といふべきだらうか)した軍部が権力を握つたといふ歴史を鑑み、その失敗を繰り返さないやう、しかし天皇の位置を現行憲法とは違ふものとして規定しやうと討議をしていくやうすが公開されてをり、中々興味深い。

この討議がなされてゐた時代は、昭和43年から44年である。楯の会は「天皇」の存在が国民の間で薄れてゐるやうな時代と認識してゐたやうである。

「天皇」の存在といふのは、今までずつと忘れ去られてきたやうに感ぢてゐたが、突如として天皇の存在を思ひ起こさせまた、一人一人の中の天皇の存在がどんなものだつたのかを認識させるやうな事が最近起きた。 震災により、天皇陛下がメツセエジを出したり、避難所を訪問したり、御用邸のお風呂を使用させてくれたりといふことがあつた。それらのニュースを見聞きし、天皇の姿を拝謁したときの国民一人一人の気持ちがどんなものなのかは、きつと避難所で陛下ご夫妻を迎へた人たちと同ぢ感情をテレビを観た人が抱いたのではないか・・・・・・ そんな気がしてゐる。

その感情を踏まへて楯の会の「天皇に関する規定」の討議を読んでいくと、今までとは違つた気持ちで天皇の規定に関して考えてゐた・・・・・・・ 現行憲法は神道を無視した、非神道民族が作つたものなので、神道に沿つた大日本国憲法までの天皇の行為がなくなつてゐるとのことで、これは違和感を覚えた。同時に、「国」として重要なことをきちんと主張しなかつた当時の政権(吉田茂?)はおかしい。

主張すべきことはきちんと主張すべきであつた。

第一章は三島 由紀夫による(と思はれる)「新憲法に於ける<日本>の欠落」と題された主張であるが、共感する部分が多い。 極東裁判で「文明が裁く」といふやうな思想を前提に裁判を行なつた連合国(の一員)による、現行憲法は楯の会の討議を読んでいくと、「非文明国に憲法を教えてやる」的な発想のもとに条文を変えたのではないかと思はれるやうな部分があるんだと思つた。

テレビで、憲法創案したアメリカの担当者を出演させて現行憲法はかうやつて出来た、と紹介する番組を観たが、楯の会の討議を読みながら当該番組を思ひだすと、マスゴミは日本国の「国」と言ふものを踏まえた上での憲法討議は毛頭考えに無く、ただ手放しで現行憲法は素晴らしいと思はせるやうな構成にしてゐるのかと思はざるをえない。(いつもの結論、マスゴミはどこまで行つても害だ)

現在、領海侵犯行為や北方領土不法占拠の問題などが起きてきたがすべて「憲法9条」により自国の領土も積極的に守れない状況となつてゐる。

いつもいつも「反対」「憲法擁護」「護憲」を唱えながら、防衛に関して現実的に何も提起しない共産社民その他の団体(政党といふレベルではないだらう)は、問題が起きてゐる現実的な部分から、自分たちのしてゐることが間違つてゐると素直に認めるべきである。 今回の震災で自衛隊が物凄く活躍してゐる。 災害派遣すら「違憲」とホザゐてゐた集団は、もふ少しまぢめに物事を考えるべきである。 (災害派遣と防衛とは話が違ふが、自衛隊そのものの位置づけをもふ一度考え直すべきでは?)

この人たちの矛盾に関しては三島氏が本書で指摘してゐるので、嬉しい。


千里眼 美由紀の正体(上下)

2011年04月24日 21時49分17秒 | 小説

松岡 圭祐氏の作品。

千里眼新シリイズの最終回。 新シリイズを通じて度々出てきた、「千里眼 岬 美由紀が見る事の出来ない感情」に関する物語。

内容が内容だけに、嫌悪を感ぢる人もゐるかもしれない・・・ と思ふが、オリジナルの千里眼と繋がつてゐるので、次々に読みたくなる。

新シリイズは2007年に角川文庫より刊行されたが、クラツシツクシリイズとして小学館文庫から出版されてゐた作品を松岡氏がすべてリライトして角川文庫より刊行したさうだ。松岡氏曰く、オリジナルを読んだ人も楽しめる内容とのこと。この機会に小学館文庫を読み通して、それから角川文庫を読み通さうかと思ふ・・・・・・

 


芝居の媚薬

2011年04月23日 21時33分16秒 | 人物伝、評伝 (自伝含)

三島 由紀夫氏の著書。

著書といふよりも三島氏自身の日記や、当時手がけてゐた劇の台本に関する自己解説(批評)、観劇した歌舞伎や映画の感想をまとめたもの。

三島氏の視点が面白い。

自分も歌舞伎を観るので、知つた演目が出てきたのはよかつたが、演じられた役者さんたちがことごとく違ひ(無理も無いが)、いろいろ思ひを馳せながら読んだ。

「憂国」

この解説があつたのは興味深かつた・・・・・・

三島氏の作品は世界中で翻訳されてゐるが、戯曲も世界中で公演されてゐるといふやうす(契約書にサインしたといふ日記の著述)があり、改めて三島氏の作品の凄さを感ぢた。

巻末に三島氏の略年譜がある。終戦半年前に召集されるも、軍医の誤診で帰宅させられそしてあの活躍をする・・・だが、あの最期・・・・・・といふところで何か物凄い「意図」を感ぢた。

三島氏は夏目氏と競ふ、あたくしのお気に入りの作家である・・・ かういふ「人間臭さ」を味はふのはまた面白い

三島氏の作品を読み直したくなる・・・ 


疑心 (隠蔽捜査3)

2011年04月19日 14時56分10秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。

シリイズ3作目。

警察庁勤務キヤリアの主人公竜崎は、息子の不祥事から所轄の大森署の署長へと左遷される。所轄の署長といふ、本庁の下の立場となつた竜崎に米国大統領が来日する際の警備の本部長に任命する旨のFAXが来る。 使はれる立場の所轄の署長が指揮する側の本部長任命など何かの間違い、と確認すると以前竜崎と揉め事を起こした管理官が背後で動いてゐたことを知る。

竜崎の足を引つ張るための人事と思ひつつ、仕事として竜崎は引き受ける。その竜崎の元に本庁から派遣されてきた女性キヤリア警察官がゐた。竜崎はその女性に心を奪はれることとなる・・・

妻からも「唐変木」と言はれる竜崎の恋愛・・・・・・いかにも竜崎らしい方法で解決する。同時に品行方正の悪い「捜査官」戸高の活躍もある。

本作品が面白さは、竜崎といふ主人公の性格もあるのだが竜崎を支える妻の冴子の性格もある。