読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

家族

2011年07月02日 09時05分55秒 | 司法・法曹

小杉 健治氏の作品。

小杉氏の作品は司法・裁判ものが多く、裁判を通して描かれる「心情」などが好きなのでよく読む。 この作品は「家族」と題されたが家族の心情・事情を通じた現在の国の状況もよく描かれてゐる。

裁判員裁判が始まつて、1年以上が経過してゐる。その間、色々な問題がきつと起きてゐるのであらう・・・・・ 本書はさう言つた部分も取り上げてゐるのではないか。

まづ

裁判員に選ばれた、と通知を受け取る人々が登場する。 

会社が合併を控えた会社員。派遣から正社員になれるかだうかの結婚を考えてゐる男性。母親の介護を10年以上しつつ、企業した仕事も結婚も放棄した状態の女性。

そして、事件の関係者。

母親、妻、息子、娘と暮らす会社員。 母親は痴呆の症状が出始め、軽い認知症を患つてゐた。現在の症状ならまだ、妻はパートに出かけ留守番に母親を置いていくことが出来た。

しかし、ある日、息子が帰宅すると母親が死んでゐた。母親の首筋に紐のやうな痕があつたことや物色したやうな形跡があつたことから、他殺とされ警察の捜査が始まる。そのうち、マスゴミが押し寄せ、「認知症の母親が邪魔になつた息子の犯行ではないか」との風潮で放送がなされる。

そのうち、犯人が逮捕されるのだが犯人とされた人物は近所に住むホームレスの男性であつた。

裁判員に選ばれた登場人物らは、この裁判を担当することとなる。 裁判員として選ばれるかどうかの事前の呼び出しにそれぞれが向かひ、「できるなら辞退したい」といふ心情を持ちつつ裁判員を引き受けるやうすも興味深い。

そして、裁判員裁判の審理に関する記述。裁判員裁判は、裁判員がそれぞれの職業や事情を抱えてゐるので、通常の裁判のやうに審理を長引かせづ集中して3日間で裁判を行なふ。そのため、弁護士・検察官が事前に「公判前整理手続」を行なひ裁判に備える。裁判では「公判前整理手続」により準備された証拠、法廷での被告や証人の証言を基に評議を行なひ評決する。

この作品では、この裁判員裁判の「公判前整理手続」による欠陥と思へる事例も描かれてゐる。この作品で、「裁判員裁判の欠陥」といふものが具体的に理解できた。成程、これは困る。裁判員として都合をつけてきた人たちも困るし、何より被告に対して「誠実な裁判」になるのかだうかと疑問が涌いた。もし、この小説に描かれたやうなことが実際の裁判員裁判で起き、気付く人がゐないとしたら、最悪「裁判員裁判で冤罪発生」と言ふことになつてしまふ。

そして、

高齢者社会

と呼ばれて久しい、日本。

今年も世界一長寿の国になつたらしい。しかし、国は高齢者にとつて住みやすい環境を用意してゐるのか?

退職して、定収入が無くなり年金生活を送る立場の人たちが増える。一方で年金基金が十分でない。社会保険庁職員らが、「ムダにした」年金の補填がだうなつたのか全くわからないまま、しわ寄せが払つてきた人たちに来てゐるこの現実。

そんな国の欠陥も描かれてゐる。

現在の国の震災対応と根本が同ぢ・・・・ 結局、官僚、議員は自分たちの利権追及だけで後はだうでもいひ、と考えて対処してきた結果なんだなと思つた。

その「犠牲」になる人が出てゐる・・・・といふことを描いた小説だと思ふ。


裁判官 人の命は権力で奪えるものか

2011年03月19日 15時15分25秒 | 司法・法曹

正木 ひろし氏の著書。

本書は昭和30年に発行されたが、本書発行のきつかけとなつたのは、昭和26年1月に山口県熊毛郡で起きた老夫婦惨殺の強盗殺人事件に関する被告人から「冤罪である」といふ手紙を昭和28年11月に受け取つたことに始まる。

一審、二審で死刑判決を受けた「主犯」の男性が実は全くの冤罪であり、無期懲役の刑を宣告された一人の真犯人の「犯人5人説」によるでッちあげにより、逮捕起訴されたといふ内容の手紙であつた。

正木氏はこの手紙の内容の真偽をはかりかね、「裁判の記録を拝見した上で引き受けるかだうか決める」と返答したところ、一審、二審の判決謄本が送付されてくる。これにより、正木氏はこの事件の裁判に関はることとなるのだが、本書はその判決文書と被疑者や証人の供述が記載され、正木氏の判決文書に対する意見がある。

この事件で起訴、有罪とされた「冤罪の4人」がだうなつたのかは不明なのだが(発行されたのが裁判継続中であつたため)、一人の嘘により周りが騙され減刑嘆願までし、裁判官や警察官の心象も真犯人に対してはよくなるのに、冤罪の4人に対しては不利になつて行く。

本書で書かれてゐる事件は、裁判官がいかに役に立つてゐないかを表したものであるが、現実今でもかのやうなことが起きてゐるのが恐ろしい。

それから、冤罪で被疑者とされた人の家族に「宗教」の人間が近づいてくるのは驚いた。宗教団体といふのが、こんな昔からあつたのか・・・・

裁判官といふ仕事に不向きな人は、罷免になつてほしい・・・・・・と思つた。


弁護士 私の人生を変えた首なし事件

2011年03月19日 14時57分39秒 | 司法・法曹

正木ひろし氏の著書。

本書は昭和43年発行されたもので、正木氏が担当した昭和19年に起きた警察官による取調べ時の拷問死の事件発生のいきさつかた裁判について記述されたもの。

正木氏は1896年東京生まれ。東京大学法学部を卒業し現両国高校などで英語の教鞭を取るかたわら、画家を志して絵を学んだこともある。始め民事事件弁護士として出発したが、本書のテエマである「首なし事件」を契機に刑事弁護士に転じた方である。

本書は、先に投稿した「足利事件」の佐藤博史弁護士により知つた。かなり古い本なので、佐藤氏の本を読まなければ知らなかつた。偶然23区の図書館にあつたので、借りることが出来た。 http://blog.goo.ne.jp/liebe-kdino-schumi/e/fa56a34ac3056aa9fa66e68e66448ab2

事件が戦前なので、現在の憲法に規定されてゐる被疑者の人権といふ考えはなく、憲兵(官憲)がすべてのやうな時代、お上にたてつくとは・・・といふ風潮の中の事件である。

さのやうな時代背景の事件なので、裁判も警察官の味方、証人も後が怖いので法廷で証言を翻す・・・といふ背景の中、正木氏は墓を掘り起こして問題の遺体から死因を突き止めるべく首を切断、東京に持ち帰り「ほんたうの死因」の鑑定を得ます。

しかし、この鑑定に対しても様々な「妨害」が出て、裁判で型がついたのは事件から12年後であつた。

時代背景は自分には想像もつかないことで、その中で孤軍奮闘し「真実」を求める正木氏の姿勢は言葉では表せないものがある。

マスゴミの姿勢は今も昔も変はらない・・・

「報道の自由」など今掲げても、内容は戦前と一緒だな・・・と思つた。そして、裁判所や検察庁、警察も変はりはないやうな印象を受ける。


訊問の罠 - 足利事件の真実

2011年03月05日 11時43分13秒 | 司法・法曹

菅家 利和氏、佐藤博史氏の共著。

菅家氏は「足利事件」冤罪被害者。1991年栃木県足利市で幼女が殺害された事件で逮捕。公判で無実を訴えつづけるも、2000年に無期懲役が確定し収監。09年4月DNA再鑑定の結果、無罪が明らかになり逮捕後17年半ぶりに釈放された。

佐藤氏は弁護士、早稲田大学客員教授。二審より足利事件の弁護にあたり、菅家氏の無罪を主張しつづけてきた。現在も足利事件の真実を明らかにすべく、検察・裁判所と闘い続けている。

現在、検察官の不祥事と言ひますか、検察の横暴により起訴され無罪となつた事件や検察の証拠改竄等の事件が報道されてゐますが、本件は警察(含科警研)・検察・裁判所の一体となつた「犯罪」だと思ひます。(一審に関しては、担当した弁護士の怠慢といふか職を全うする気の無い対応に関し、これもある意味犯罪だと思ひます)

警察(含科警研)・検察・裁判所の一体となつた「犯罪」、と書きましたが、個人的には一番ひどいのは裁判所だと思ふ。

裁判所といふのは本来、検察と弁護士(含被告人)のどちらがほんたうのことを言つてゐるのかを見極めるべく、当人の「自白」とされてゐる記述が物的証拠、解剖所見と矛盾が無いのかを精査していく立場ではないのでせうか?

佐藤氏が本書で疑問を呈してゐるやうに(「第四章 弁護人、検察官、裁判官はなぜ無実を見抜けなかったのか」(P86-128))、この裁判はおかしい。素人のあたくしですら、順を追つて読んでゐて、「菅家さんの供述が、犯行の場所も違ひ、被害者の衣服の棄て方も現物とは違ふ棄て方を言ふ等、ことごとく矛盾してゐるなかなぜ誰も菅家さんは無罪では?と思はなかつたのか?」と思ひました。

犯人ですら、自分はやつてないと嘘を吐いて逃れるやうな事件において、犯人であると「自白」してゐる人が犯行場所や殺害方法などの嘘を吐くのは一体だういふことなのか、なぜ証拠と供述に矛盾があるのかを判定を下す肝心の立場の裁判所が全く考慮しなかつたことになります。

DNA鑑定が誤りだつた、といふのはかなりの衝撃を世に与えたことは間違ひない。それだけ、当時(今もさうだらうが)DNA鑑定は絶対である、といふ思ひにより裁判所はろくに証拠の供述の検討をしなかつたやうです。

しかも、佐藤氏らは菅家さんの「DNA再鑑定をしてほしい」といふ要望を叶へるべく手を尽くすのですが、裁判所より「再鑑定は不要」として却下されます。(「第五章 DNA再鑑定までの長い道のり」)

やうやく再鑑定と思つたら、裁判所の言ひ分がまた呆れるものであつた。(「第七章 裁判所は真実を闇に葬るつもりなのか」)

ここまで読むと、裁判所は役人つながりなのか(これまで検察関係の本で度々指摘されてゐることでもあるが)警察・検察の味方なのかと思はざるをへません。

謝罪は勿論ですが、謝つてもらつても・・・・といふくらい、年月が流れてゐます。しかも、佐藤氏らは12年前から当時のDNA鑑定に疑問を抱き、再鑑定を要求してゐたのです。つまらないプライドや配慮などをしてゐる暇があつたら、「真実は何か」に時間を割くべきだと思ひます。


反転 闇社会の守護神と呼ばれて

2011年03月04日 15時06分23秒 | 司法・法曹

田中 森一氏の自伝とも言ふべき書。

田中氏は1943年長崎県平戸生まれ。岡山大学法文学部在学中に司法試験合格。71年検事任官。大阪地検などを経て東京地検特捜部で撚糸工蓮汚職、平和相互銀行不正融資事件、三菱重工CB事件などを担当。伝説の辣腕特捜検事として名を上げ、87年弁護士に転身。2000年、石橋産業事件をめぐる詐偽容疑で東京地検に逮捕、起訴され本書が発表された2007年時点では有罪判決を受け上告中であつたが、2008年刑が確定し受刑する。

本書を読んで様々な感想はあらうが、個人的には「天罰が下つたんだな」と思つた。何をだう間違へてしまつたのか、「嘘を吐きとおせ」とし悪人を無罪にさせるやうな裏工作を法を知つた立場にありながら続けたことに対する、天罰が下つただけであらう。

本書は序章から終章まで全十章からなるが、七章のあたりからイライラした。大体、自分が取り込まれてゐるのも気付かづに相手からの飲食接待をそのまま受け(自分ひとりで食事に行き、勘定をしやうとすると店の店長が勘定は受け取れない、++さんから自分が払ふと言はれてゐるからと聞き「感激した」とする時点で既に人間としてダメ)、裏工作や抜け道を教えるなど言語道断。

田中氏の事はさておき、本書には実名の自民党政治家らが登場し、いかに政治家と名乗る人物たちが「政治に金がかかるやうにし」「自分たちだけはなんとか納税その他を免れやうとし」「金を得やうと」する醜いサマが書いてある。 これを見ると、現在の政治家と名乗る人々、とりわけ「地盤鞄看板」を持つてゐるヤツラは「私たちは汚いカネで育つてきたのです」と世間に公表をしてゐるのだな、と言ふことがよくわかつた。

本書は一般的にはおよそ関はらないであらう、社会が見えるが「金金カネ」なんだな・・・といふ人間の薄汚い本質をよく描いてゐる。