平野 啓一郎氏の作品。
平野氏の前作「決壊(上下)」も考へさせられましたが、今回の作品も同様に考へさせられたのと同時に、感心ゐたしました。
感心の理由は平野氏の観点と言ひますか、国内・国外の世の中の動きに対する感性と言ひますか。
「凄いな~、鋭い!」と同時に「この人相当頭いいよな」といふ感想と言ひますか・・・・・・
物語は近未来の2033年。
有人火星探査を任務に負ふ宇宙飛行士の一人として、佐野 明日人は2年半地球を離れ
6人のクルーと火星探査船 ドーン(DAWN)に乗り込む。
2033年といふ世界は、町のいたるところに設置された防犯カメラの映像から「顔検索」が出来誰がどこで何をしてゐたかを簡単に判明できる世界となつてゐた。
対して、本来の自分の顔だけでなく、「顔を変える」「いくつかの顔を持てる」時代にもなつてゐた。
進化してゐる「情報社会」が描かれ、進化した情報社会から発展していく「道具」とそれを使用していく人類が描かれる。
実際に起きるであらう内容が記述されてをり、大変興味深い。
火星探査の宇宙飛行士、明日人だけでなく他のクルーが登場するが、アメリカ国籍の人物らである。
探査船の船内で起きてゐる事、これが人種差別の問題の論争も引き起こす。
この事件はアメリカ大統領選にも影響していくさまが描かれ、日本といふより一人の日本人宇宙飛行士とその妻を通してアメリカ内部のやうすが描かれていく・・・・感じだ。
このほかにも、様々な「物語」がちりばめられ「人間の心情」といふものを前作の「決壊」とは別の視点で描き出した傑作だと思ふ。