読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

そして、海老蔵

2009年10月31日 16時56分51秒 | 文化
村松 友み (しめすへんに見)さんのノンフィクション。

市川 新之助改め市川 海老蔵襲名となつた海老様の襲名披露公演の1年間の追跡。

歌舞伎座、松竹座、御園座、国立シャイヨー劇場、南座の公演を追い、海老様だけでなく 歌舞伎に関わる「裏方」の方々も取材されてをります。
江戸指物、鬘、床山、衣装、附打(つけうち)、脚本、大道具 

村松さんは「歌舞伎に全く無縁な一人の観客にすぎない」と記述されてをりますが、かくいふあたくしも、「ほんと素人」で御座ゐます。

テレビで度々観てはいましたが、劇場に行きだしたのは平成20年の5月からです。
海老様を初めて観たのは平成20年の7月からです。

この著書で、歌舞伎界に関わる方々、裏方さん、そして役者さんの更なる努力も
わかりました。

鬘や衣装に関しても役者さんたちは気を配り、自身に合ふやうに作つてもらはなければならない。それには、自分がわかつてゐないと・・・ 
等々

海老様の衣装の色へのこだわりもすごいなあと。
以前、歌舞伎座イヤホンガイドを聞いたときに、衣装の解説もしてくれて「屋号」の色や柄も説明してくれて、「奥深いんだ・・・」と思つたのですが、人任せではなく自分で色々と関はつて時間を使つてゐるのだ・・・ と知りました。

附打も、りゐべが好きな人がこの本に載つてゐました。この人の音は綺麗なんですよね。
耳障りな音が全く無い。

源氏物語を演じたときのやうすや、訳者の瀬戸内寂聴さんのお話なども記載してありました。
個人的には「源氏物語」つて好きぢやない・・・・
最初読んだとき、「ただの女たらしぢやねえか」

何年か後、ドイツ人に「源氏物語は素晴らしいのに、今の日本人であんなに素晴らしい作品を書く人がゐない」と言はれ

・・・?  は??? 光源氏つて聞こへはいいけど、ただの見境のないすけべじじいぢやねえか
と沈黙したりゐべに、相手は「?」といふ感じでした。 きつと、「なんで褒めたのに返答がないのか」と思つたのかもしれないが、こちらとしては気持ち悪くて黙つてゐました。しかも見境なく花や和歌を送つた結果とんでもない醜女に付きまとはれるし・・・

でも「源氏物語」も今読めばまた違つた風流が感じられるのかも知れません・・・・・・
とくに、海老様が演じられたなら・・・ 

ま、それはさておいて源氏物語の稽古の際に海老様始めとした役者さんたちがいろいろご意見されることを読み (海老様が「女の部屋に忍んで行きながらこんな台詞言はない」、これは笑つた。どんな台詞だつたのか)
さうかあ、一方通行ぢやないんだなといふのもわかりました。

りゐべなど、観る側の人間は 「おお~ 次の海老様公演は1月だ!」で楽しみにして終はりますが演じる方々と裏方さんたちはもの凄い時間と労力を費やしていらつしやるのですね・・・漠然とイメージしてゐたけど、こんなに多くの人が関わつてゐるんだなとわかりました。

この著書には「新歌舞伎」のことも記述されてをります。
りゐべ、一度拝観しました。
でも・・・・

観てゐる途中から、退屈になりました。それから台詞で歌舞伎にありえない言葉が使はれてゐるのも驚きました。 歌舞伎にありえないといふか、「江戸時代にこの言葉は別の言葉でしよ!!」といふやうな、「現代語」が使はれてゐて興ざめしました。

それから、あまりきにしなかつた「脚本」その他を見ますね。
歌舞伎座に歌舞伎を観に来るのであるから、テレビで聞くやうな台詞は聞きたくないわけです、こちらとしては。
テレビのない時代に書かれた新歌舞伎の台詞には、いまやテレビで頻繁に聞く言葉が台詞になつてをり興ざめです。

いづれにしろ、この本は自分が何気なく歌舞伎を観て、初めて海老様を観てその声の美しさに魅かれ以来ずつと海老様の公演を観てゐるりゐべに色々教へてくれたこと、気付かせてくれたことが満載でとてもよかつたと思ひます。

外科医 須磨久善

2009年10月31日 09時41分25秒 | 医療 (医療小説含)
海堂 尊氏の著書。

題名と、本の表紙に載せられた手術着姿の外科医の後ろ姿の写真
これを見て、フィクションだと思ひこんでしまひましたが、実はこれは実在する「須磨久善」といふ心臓外科医の物語でありました。

著者、海堂氏も元外科医、現在病理医としてご活躍されてをります。
この本の執筆のきつかけは、海堂氏の作品 「チーム バチスタの栄光」といふミステリー作品が「このミステリーがすごい!」大賞受賞され映画化となつた運びに、須磨医師が「医療監修」を引き受けられたことによる・・らしひ。

ともあれ、この本は世界的有名な心臓外科医 須磨久善氏の半生記なのである。

文中では、須磨医師の「人生の転機」とも呼べる時期が大抵5年おきに訪れること、そして
須磨医師が即断をして次の行動に踏み出すことを軸として次々描かれていく。

60ページにあるやうに、「日本人は新しいものに対し拒否反応を示すことが多い」として日本特有の対応や回りの行動が記述されてをりますが、確かにそのとおりで「誰か」が一歩を踏み出さないと中々次が続かない・・・・・もしくは誰もやらない・・・・といふ雰囲気が濃厚である。

しかし、須磨医師は「横並びだと本来の医療の本質は全うできないはづだ」と考へてゐる。(78ページ)
また、海外でのご活躍経験から 「日本は田植え社会」(みなで動くことによつて田植えがきつちり行なはれる:80ページ)と言はれてをりますが、この表現はお見事であります。上手い例へだなあと感心しました。

日本社会と欧米社会の違ひを的確に、簡潔に表されてをります。

通常、このやうな 「異端児」 の考へを持つた人は日本ではあまり成功しなかつたりする・・・
回りの横槍などが入つたり・・・・
協調性がないと言はれたり・・・

しかし須磨医師には、助けが現はれ今に至つてゐます。
その理由をりゐべは 「須磨医師は、常に相手の立場になつて行動するからだな」と考へました。

この本を一読されるとおはかりと思ひますが、須磨医師の「相手の立場になつて」が随所に出てきます。
こんなすごい医師が日本にゐらしたのですね・・・・

1Q84 Book2 (7月-9月)

2009年10月30日 08時50分09秒 | 小説
Book2 、読み終わりました。

Book3を執筆中と聞きましたが、確かに「続く」と思はれる終わり方ですね・・・・
しかしいつでも終了できさうで、いつでも再開できさうな雰囲気を持つてゐるやうに思ひます。

ここが村上さんの才能といふか、「村上春樹」たる所以なのでありませう。

Book1では、これから起きる事そして起きてきた事がファンタジツクに描かれてゐて
Book2では、Book1で語られたことを徐々に明かしていく流れで(それもまたファンタジツクな世界を築いてゐて)

Book3が完成するときには、ファンタジツクな世界がだふなつてゐるのか
楽しみです。

1984年 
今から26年も前なんだ・・・・ そんなこと感じさせないのはやはり1Q84年だからなのか?

春、バーニーズで

2009年10月21日 14時03分59秒 | 小説
吉田修一さんの短編集。

短編集といつても、五編のうち四編は続きものである。

印象に残つたのは、最後の「楽園」
それまでの四編とは関係がなささうに見へるこの作品、男女の会話が続くのだけど。

「ねぇ、あなたにとって楽園ってどんなイメージ?」
この質問に答へていく主人公だが、質問者は黙つて聞くことなく答へのたびに質問をする。

回答者は、質問されることで段々想像力が膨らんでいき・・・・

「ねぇ、そこに何か埋まってない?」
「え、そこって?」
「あなたの足元よ」

自分の足元には、何が埋まつてゐるのかな・・・・?そんな気持ちにさせられた文章でした。

月魚

2009年10月21日 13時56分29秒 | 小説

三浦 しをんさんの作品。

古書店の主、本田 真志喜(ましき)と古書卸 瀬名垣 太一は幼馴染。

ただ、二人にはだふしても忘れられない、ある思ひ出があつた。

瀬名垣はそれを心に引きずり負い目をもち、真志喜はそんな瀬名垣を気遣いつつ一歩踏み出せない。
お互いに一歩踏み出せない二人・・・

そんな二人がある時、「掟破り」の古書買い入れを決める。そこで出会つた人とは・・・・

着流しの古書店主、真志喜がなんともいへぬ 「色気」を放つ
正反対と思へる瀬名垣のあつけない「度量」

月の夜・・・・

幻想的でいい物語だなと思つた。
もし映像化するなら、真志喜は海老様に演じてほしい