読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

謎解き「張作霖爆殺事件」

2011年08月31日 14時15分16秒 | 政治関連・評論・歴史・外交

加藤 康男氏の著書。
加藤氏は1941年生まれの編集者・近現代史研究家であられる。早稲田大学政治経済学部中退、集英社に入社し「週刊プレイボーイ」創刊から編集に携りその後「日本版PLAYBOY」編集部、集英社文庫編集長、文芸誌「すばる」編集長、出版部長などを歴任したのちに退社。恒文社専務取締役として出版活動に従事、2004年退任。以後、編集者、作家として主に近現代史をテーマに執筆活動を行つてをられる。

「あとがき」で加藤氏は「張作霖爆殺事件は関東軍の謀略だった、と軒並み記されている。そこで冒頭にも述べたが、関連史料をあらためて渉猟しつつ新史料の発掘と提示に極力努め、事実を明確に彫り上げたいというのが本書の目的」(P245)と記述されてゐる。

記述されたとおり、加藤氏はロシアやブルガリアなどの古書店を回られたりイギリス公文書館所蔵の当時のイギリスの諜報資料など日本だけでなく海外の文献も取材され、検討されてゐる。

本書は第一章で関東軍の「河本大作首謀説」を検討、第二章で「コミンテルン説」「張学良説」を検討、第三章で「謎の解明」とし「河本首謀説の絶対矛盾」といふ構成となつてゐる。

驚いたのは、列車が爆発したその瞬間の写真があつたといふことだ。山形県に住む元陸軍特務機関員が保管してゐたもので、爆発前、爆発の瞬間、その直後、現場検証の模様から張作霖の葬儀まで61枚もあつた。本書にもP78-79に爆発の瞬間の写真が掲載されてゐる。

この写真だけでも、「河本首謀説」とされる河本氏の自白による爆薬をしかけた場所と爆発の状況に矛盾があることがわかる。 

加藤氏はまづ、河本首謀説を様々な史料で紹介し、次に1991年12月のソ連崩壊により明らかになつた重要な機密文書が明らかになり、2005年に出版された「MAO(邦題 マオ-誰も知らなかつた毛沢東)」第十六章 西安事件の中で「実際にはスターリンの命令にもとづいてナウム・エテインゴンが計画し、日本軍の仕業に見せかけたものだという」といふ部分を紹介する。そして、MAOの参考文献とされた書を検証して行く。

ソ連説の検証には、イギリスの情報活動の文書も検証し引用してゐる。それによると、イギリスはなぜ日本が十分に調査せず事件を認めたのかを奇異に思つてゐたことが明らかになる。同時に、当時の日本の諜報活動がお粗末であると諸外国から思はれてゐたことも明らかになる。
(余談だが、お粗末な諜報活動で戦争は勝てない。あの戦争はすべてが間違つてゐたやうに思ふ)

また張作霖の息子である、張学良首謀説の記述もあるのだがこの息子の行動も中々すごい。狡猾な性格といふ言葉がぴつたり、といふ印象をもつた。ここでもまた、イギリス情報部の見解と調査結果が出てくる。このイギリスの調査結果がまた興味深い。イギリス公文書館には、詳細な手書きの現場見取り図(日本人が書いたと思はれる)も保管されてゐたが、その見取り図および写真の状況から河本氏らがしかけた爆薬では絶対に起きない被害状況が明確となつてをり、なぜ当時の日本政府がきちんと調査しなかつたのか全くわからない。

加藤氏は最後に「GRU百科事典」といふ2008年モスクワで刊行された百科事典の記述を紹介してゐる。

「フリストフォル・サルヌイニの諜報機関におけるもっとも困難でリスクの高い作戦は、北京の事実上の支配者張作霖将軍を1928年に殺害したことである。張作霖は1927年以降も明確に反ソ、親日政策を実行していた。ソ連官史に対する絶え間ない兆発行為のため、東清鉄道の運営はおびやかされていた。将軍の処分は日本軍に疑いがかかるように行なわれることが決定されたのである。そのために、サルヌイニのもとにテロ作戦の偉大な専門家であるナウム・エイチンゴンが派遣された。(中略)
1928年6月4日、張作霖は北京-ハルビン間を行く特別列車で爆死した。そして張作霖殺害の罪は、当初の目論見どおり日本の特殊部隊に着せられた」(P242-243)

今後、クレムリンや他国から新史料が公開されるとこれ以外にどんなことが明らかになるのか?

思ふに、日本の教科書はきちんとした事実調査がなされなかつた当時のままで嘘ばかりが書いてある。中国のプロパガンダの新聞記事をそのまま引用したやうな記述や参考資料もある。全体的にきちんと内容を見直し、教科書記述の参考文献も明らかにすべきと思ふ。 


日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く

2011年08月29日 10時47分29秒 | 政治関連・評論・歴史・外交

佐藤 優氏が大川周明の著書の全内容を引用・解説するといふ手法で当時のことを明らかにしてゐる。

「はじめに」を読んだところだが、同意する記述があつた。

「国家指導者が戦争に対して責任を負うのは当然のことだ。特に敗戦の場合、国家指導者が国民からその敗戦責任を追求されるのは当たり前のことである。しかし、戦勝国がA級戦犯の罪状として『平和に対する罪』のような、太平洋戦争勃発時に戦争犯罪として国際法に明記されていかなった罪の責任を問われる謂れはない」 (P1)

ほんたうにさうだよな。。。

そして、

「このようなことを言うと『お前は日本の過去を反省せず、戦前・戦中の時代を美化するつもりか』という非難がなされるであろうが、筆者は、負け戦は絶対にするべきではないという観点から過去についてもっと反省すべきであるし、それらを美化する必要はさらさら無いと考える。ただし、敗戦後にアメリカの謀略工作によって刷りこまれた物語、もっと乱暴な言葉で言うならば深層催眠術から抜け出すことが必要となっていると考える」(P2)

全く同感である。

敗戦のせいなのか、嘘つき民族のプロパガンダもしくは捏造記事をそのまま反論もせずに放置した結果、かなりゆがんでゐる事もあるし何しろ

「一体何が起きて戦争となつたのか?」が不明であつた。

しかし、ここで本書を見つけた。

本書は大川周明によるNHKラジオの連続講演(全12回)の速記録「米英東亜侵略史」の単行本の全文を掲載し、「米国東亜侵略史」として第一部、佐藤氏による第一部の解説に第二部、第三部に「英国東亜侵略史」、佐藤氏による第三部の解説に第四部といふ構成となつてゐる。

第一部と第三部は、米英の近代史の一部分となつてゐるかのやうで、勉強になる。いつ、どの地域がだう「植民地化」されて行つたのか。スペインはそれ以前に植民地化してゐたから、プエルト・リコのやうにスペイン語を使用しながら米国領といふいきさつの記載などもあり、中々興味深い。
そして、佐藤氏も指摘してゐるが、大川周明の解説は「既に敵国」となつてゐた米英を語るにも感情的な表現はほとんどなく、「冷静な解説」に努めてゐる。この点でも現在といふ時代に生きる自分が読んで、冷静に読める。この文章を戦中当時に書くのはかなりのものではないか?と思ふ。

第二部および第四部はおおまかな目次を紹介しやう・・・・・・

第二部 「国民は騙されていた」という虚構
第一章 アメリカ、ソ連双方が危険視した思想家
第二章 アメリカによる日本人洗脳工作
第三章 アメリカ対日戦略への冷静な分析

第四部 21世紀日本への遺産
第四章 歴史は繰り返す
第五章 大東亜共栄圏と東アジア共同体
第六章 性善説という病
第七章 現代に生きる大川周明

第二部も勿論重要なのだが、(現在、各国および日本のマスゴミが使用してゐる手法でもあるし)第四部が現在の状況には非常に重要だ。

なぜなら

全く同ぢことを繰り返しつつあるからだ。

四カ国条約、九カ国条約で相手(アメリカ)の言ひ分をのみ、相手に譲歩したから相手も譲歩してくれるだらうといふ甘い読み(と自分は思ふ)の結果、相手の戦略にひッ掛かり「当時アメリカ人が上下を挙げて喜んだのも当然(P64)」と同ぢことをしてゐる。

「日米同盟」があるから安心と思つてゐたら、「尖閣諸島」で「自衛隊をサポートするが率先してはやらない」などど「知らないよ」発言をされた。それでいて「日米同盟」を盾に金の出資を要求されてゐる状況。

まさに大川周明が「我々はアメリカのこのような気性と流儀とをはっきりと呑み込んで置く必要があります」(P54) と言つたとおりである。

思ふに

二世三世の苦労知らずの坊ッちゃん嬢ちゃんに、かのやうなやりとりは無理だろう。官僚が実質動くと言つても、決めるのは政治家だ。その政治家が生まれたときからほとんど不自由なく、身分に応じた対応が用意されて海外へ行つたところで、「ほんたうの相手の姿」が見えるかだうかは甚だ疑問だ。

「政治家の子」に対してわざわざ相手を不快にさせ、今後の外交を不利にするやうな馬鹿なことはしない。 それで「ああ、いい人ばかりなんだな~」と良い印象だけをもつて帰つてきて、実際自分が大臣を勤めると「思つてもゐないイヂワル」をされて呆然とし、手を思ひつかずに「言ひなり」になるのではないかと考える。(汚沢が与党になつた当時、600人だか連れて中国に行き、ご馳走あれこれしてもらつたがあれが尖閣諸島で何の役に立つたのか? 新人議員は少しこの件から勉強してもらひたい。次があるか知らんが)

そして、太平洋戦争(大東亜戦争)が侵略戦争だつたのかアジア植民地解放戦争だつたのかと言ふところだが

佐藤氏の解説で、「ここでの大きな問題は『他の諸国から収奪されているあなたの国を将来解放したいのだが、今は私に基礎体力が欠けるので、当面、基礎体力をつけるために期間限定であなたから収奪する。それがあなたのためになるのだ』という論理は、収奪される側からはまず受け入れられないにも関わらず当時の日本人に見えなかったことである。」(P241)として、第五章 大東亜共栄圏と東アジア共同体 (P238-258)があるが、これは現在の日本人が必読すべきであらう。
特に、「東アジア共同体」なることを民主党が妄想してゐるやうだが、止めたはうがよひ。

東南アジアの国々は、日本の行為は「解放」で終はつてゐるのであの戦争は「解放戦争」となるのであるが、侵出した半島大陸に関しては見方が違ふのはかういふことだつたのか・・・と納得した。 (それはさてをき、それに乗じてありもしない強制連行や創氏改名、言語の取り上げ、南京大虐殺などの捏造を行なふのは問題外の悪行である。しかも最近、半島人の名前で「あの時もろ手を挙げて歓迎し、自ら進んで『日本人になつた』のに敗戦となつたと同時に手のひらを返したやうに被害者づらをしてゐるのが同じ民族として恥ずかしい」といふ主旨のコメントがあつたが、このソオスをぜひ知りたい)

東アジア共同体とは、ざつくばらんに言ふと、ルール無視の中国共産党の内側からの崩壊を待つてゐるよりは、インド・オーストラリア・ニュージーランド他と「共同体」を作り中国の封じ込めを計るもの・・・・・・だが、既に「植民地から開放しますがその前に・・・」と言ふ間違ひ(お節介)を行なつたのだから、もふ少しここは慎重にするべきだ。特に、素人集団の民主党に余計なことをしてもらひたくない。逆に日本その他が中国の植民地となりかねない。

個人的な意見では外交には「嘘」「二重基準」は不可欠と思ふ。相手が嘘つき民族なのだから、性善説ベエスで計画を立てると見事に裏切られる。それで怒つても、ある意味「相手を研究しなかつた」こちらのミスだと思ふ。

善意が通じない相手に善意を見せ続け効果を期待するのはおかしい。「違ふ人々」には違ふ人々用の対策をしないから「無策外交」となるのだ。やつても効果がないことを続けるのはおかしいし、時間の無駄であるし、こちらの領土領海が危うくなり税金がムダになるだけなので、性悪説を用いてゐる相手には性悪説で行くべきだ。いい加減学んでもらひたい。

個人の疑問だが、日本が中国が米英から植民地化されるのを傍観してゐたら今頃だうなつてゐたのか? 

しみぢみ「ほッときゃよかつたんだよ」と思ふ。ほッてをけば、半島大陸は今頃ロシアもしくは米英になつてゐたかもしれない。 さうしたら、中国のチベット・ウイグル侵攻もなかつたかもしれないし、チベットやウイグルの人たちは安心して暮らし続けてゐたのかもしれない。

東アジア共同体を構想するのなら、なぜ中国に対してまだODAを行なふのか? 民主党はやることなすことが矛盾すぎて、ほんたうに日本の迷惑だ。

それから
戦後失策外交を行なひ続け、問題をわざわざ作り出した自民党。

二大政党が問題政党なので、早々に両方とも失脚して政界から消滅してもらひたい。大体、あんな大人数必要なのか? 実際官僚が動かし、議員はその指示監督を行なふのなら、今の半分の人数で十分ぢやないのか?

なんか話がズレたが、60年以上のことについてあれこれ考えた・・・・・・


天網 TOKAGE 特殊遊撃捜査隊 2

2011年08月23日 15時30分35秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。 TOKAGEシリイズ第二弾。

新宿駅のバスタアミナルを出発した名古屋行きのバスが、ジヤツクされたと言ふ一報が入る。その数分後、東静岡行きのバスジヤツクの連絡が入る。第一報が誤報かと思へば、実はバス2台がジヤツクされてゐた。すぐ後に、東京駅を出発した名古屋行きのバスがジヤツクされたといふ連絡が入る。つまり、3台のバスがジヤツクされたのであつた。 犯人からの連絡はなく、バスの位置もつかめない。犯人の目的は何か・・・?

インタアネツトが普及した現在、PCや携帯等情報伝達ツウルを使いこなし、その知識が無いと「犯罪についていけない」事態となつてゐる。足で動き回ることよりも、情報をツウルを使用して収集するはうが重要なのか?

そんな警察と新聞記者の嘆きのやうな場面がある。 若い者はどこでもそのツウルを抵抗なく使用するが、年配の警察官や新聞記者には追いつけないところがあり、聞き込みをしても得る答えに自分の理解がついていかない・・・・

この作品はそんな一面を表してゐる。同時に、犯罪を「ネツト中継」するやうなことも実際起きかねない・・・ そんなこれからの懸念も描かれてゐる作品である。 

自分の飲酒運転、カンニング、賭博等「犯罪」とされることを自らネツト(ブログ、ツイツタア)に書き込む人たちがゐる。その人たちは、驚くほどに罪の意識がないし同時に自分の個人情報を惜しげもなくさらし、個人情報に関する警戒心も無い。

片や、ネツトユウザアの中には書き込んだ人のIPアドレスから所在地を割り出し、個人の居住住所を割り出す人もゐる。見つけた情報がネツトに書き込まれることも少なくない・・・

「情報社会」のかのやうな一面がどんな犯罪を引き起こすのか・・・? それを描いたのが本書だと思ふ。

この作品は、TOKAGEといふオオトバイによる偵察専門の特捜班を取り上げながら、特捜班と捜査班の警察の仕事を描き、これから頻発すると思はれる「ネツト犯罪」を取り上げてゐる。

その中で、やはり「人間」が面白い。 ネツトの知識が全く無い記者、しかし記者としての実績と必要な勘はそなえてゐると自負する記者と新卒の「記者としてのセンス」がまるで無いと思はれるのにネツトに関する知識が豊富で「歩き回る」よりも情報を収集してしまふ若者。 この作品ではこの記者の人間の読みどころがまず一つ。

次はTOKAGE隊の「若手」上野がこれまで隊長に付いてゐたが、今回の事件で「リイダア」を指示される。 部下についたTOKAGEは二人とも上野よりも年長で捜査経験も長い。実戦でどんどん動いていく・・・・ 「隊長なのに、部下に指示を出せず」落ち込む上野。その心理も描かれ、働き始めて一人で何かしだすとこんな気持ちになるよな・・・と思ふ心理描写がある。

そして今野氏の警察作品には、必ず女性が出てきてリイダアだつたり、なんらかの技官であつたりして「男の中で役割を担つてゐる」。そして、男ばかりのなかで女に対する偏見や負の感情が的確に書かれてゐることも注目してゐる。 

今野氏はかのやうな場面に実際に目にして、憤り(?)のやうな感情を抱いたことがあるのだらうか? レコオド会社に勤められてゐた時にそのやうな場面はあつたかもしれないが、かなり状況描写が現実的だ。 

優秀な女社員(捜査員)がゐると、「敵はない」と能力に嫉妬を感ぢた男がだう陰険陰湿になるかを把握してゐるのと同時に優秀な部下を性別問はず信頼する男、戸惑いながらも男の部下と同ぢやうに接しやうと四苦八苦する男、先輩として若干の恋愛感情を抱きつつ憧れる男など、いろいろ描かれてゐる・・・

面白い小説は、人間が面白く描かれてゐるが作者の観察眼の鋭さも否定できない。


エチュード

2011年08月22日 21時54分23秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。 警部補 碓氷弘一シリイズ。

渋谷の駅前広場で殺傷事件が起こる。警官が駆けつけて犯人を現行犯逮捕するも、犯人は犯行を否定。

数日後、今度は新宿の駅前で同様の事件が発生し、こちらも犯人が現行犯逮捕され逮捕された被疑者は犯行を否定する。

両者に共通の疑問点は、凶器が道に落ちてゐる、犯人を取り押さえてゐた「協力者」がゐる、協力者はいつの間にか姿を消してをり、警官たちは協力者を思ひださうとすると犯人のことしか思ひ浮かばない・・・といふことであつた。

事件に疑問を抱いた警察上層部は、警察庁から心理調査官を呼び「特捜部」を設置して「真犯人」を探すこととする・・・・

今回、読みどころなのは「警察」といふ男社会に「警察に雇用された、警官の資格を持たない技官が派遣される」といふところであらう。技官は心理学等専門の技術や知識をもつ学者であるが、捜査に関しては素人となり警察官と同様の権限を持たない。捜査に関して「助言」をすることを求められる。

「捜査のプロ」を自認する警察官の中に、「捜査の素人」が捜査に口を出すこととなる・・・ しかもそれが若くて美しい女性であつた。 碓氷は彼女と組むことを指示され、内心面倒と思ふのだが・・・・

碓氷の心情が女性技官の藤森との会話、行動を通して描かれるが同時に「社会に出てゐる女性と男性」の本音のやうな記述もある。藤森技官の心理が描写されてゐるわけではないのだが、その立場や背景を碓氷の視点を通じて描く。 これが面白い。

今回の作品は、「人の心理の隙を衝いた」事件なので、その部分も読みごたえがある。

しかしながら、

男の嫉妬と逆恨みと嫉みは、女以上の陰険さと陰湿さを呼ぶ。常々思つてゐたが、この作品を読んで、「心理解説」されてゐたので成程と思つた。 やはり男の相手は出来ない。


イコン

2011年08月20日 19時06分25秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。

湾岸署にゐた安積班が神南署に異動となつてからの活躍の物語。

原宿のライブハウスでアイドルのイベントが行なはれる。ここに本庁生活安全課の宇津木は部下の保科とともに監視してゐた。 イベントが始まつた後に、誰かがトイレツトペエパアを投げたことで客席でもみ合いが起こる。宇津木らが「警察」を名乗り暴動を止めたあと、床に少年が倒れてゐるのが発見される。少年はナイフで刺されてをり、病院へ搬送後に死亡した。

「アイドル」のイベントなのだが、このイベントには「当のアイドル本人」が現れない。彼女は「ネツト」で生まれたアイドルであり、ネツト上での書き込みに反応するが人前には出てきたことが無い「アイドル」であつた。 

安積を始めとした、「ネツト上」のでバアチヤルな世界になぢみのない捜査員たちは戸惑ふのだが・・・・

この作品の最初の文庫出版は98年。「パソコン通信」といふ、今はすたれた言葉が出てくるが、それ以外は今読んでも違和感が無い。逆に、今かういふのが現在だな、と思ふ。

ここに投稿するのは、今野氏特有の「人間」を描く部分がこの小説でも用いられてをり、印象深い場面があつたからだ。

安積は離婚してゐる。

宇津木は、離婚ギリギリのやうな家庭事情であり、息子・娘・妻も自分とほとんど口を利かず宇津木は自分が彼等から嫌われてゐると思つてゐる。 離婚するか否かには踏み切れない。帰宅しても誰も出てこない・・・ 

そんな宇津木が、「少年が夢中になる世界」の事件に関はることとなる。彼は、息子との会話を試みる・・・・

そのときの心情その他の描写がよひ。

事件解決への進行と、宇津木の複雑な家庭事情が進む・・・ そのいきさつがよひ。