読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

点と線

2012年01月29日 20時32分33秒 | ミステリー・推理

松本 清張氏の作品。

ドラマにもなつたことがあると思ふ・・・ 北野武氏が鳥飼警部補を演じてゐた記憶があるが観てゐない。

書かれたのが昭和32年といふ時代なので、物語はその時代のべえすに沿つて書かれてをり

時刻表
青函連絡船
電報
夜行列車

など、情緒あふれるもの、と書いてしまふのだが。

当時の人にとつてみれば、もどかしい中にも「人」「風景」があり

何もかも便利になり時短となつた現代から見ると、うらやましいやうな一面もあつた

それはさてをき

松本 清張といふ人は、すごいな・・・と思はされる作品である。 執筆が昭和30年前半、今から50年は経過してゐるのにドラマ化が未だにされるのであるし、本作品など今を予見したやうな内容なのである。

先日、清張氏の「半生の記」を読み記事を投稿したが・・・・

人間といふものはさまざまな経験をして苦労をある程度しないといけないのかな、と思ふ作品であつた。

松本清張氏は小学校を卒業後当時のハロワのやうなところで仕事を紹介してもらひ、その後職を転々とする。朝日新聞に図工として20年勤務するのであるが、その中で学歴差別を経験する。氏は決して「学識」のある人ではない過去を生きてきたのである。

にも関はらず、このやうな世間を見通した内容の小説が書けるといふのは、いったいだうしたわけなのか?

元々の天性もあり、観察力の鋭さもあり・・・ といふ「人」としての特性なのであらう。 勉強だけしてゐても必ずしもいいといふわけではないと励みになるやうな人である・・・・

本題に入るが

安田、といふ機械商工を営む男は彼が関はる役所の役人をたびたび赤坂の料理屋へ招待してゐた。料理屋の女中、女将からも上客である。
その安田に誘われて2人の女中が昼間食事に出かける。食事がすんだら安田は鎌倉へ行くので、東京駅まで送つてほしいと2人に頼む。東京駅まで見送りに来た女中と安田が東京駅のホウムで見たのは、別の女中と見知らぬ男が九州方面の特急に乗り込む姿であつた。

数日後、その二人の心中遺体が九州で発見される。毒物の入つたビンが遺体の脇にあり、二人並んで死んでゐるやうすから「情死」と判断されるのであるが、奇妙なことに男のポケツトからは列車の食堂車を一人で利用した食券が出てきた。

博多署の鳥飼刑事は疑問を抱くのだが・・・・

安田がわざと、二人の姿を目撃させたのではないか? 安田の犯行ではないか、と警察が捜査するも次々と壁が出てくる・・・・

しかし。

トリツクは思はぬところにあつた。

そして、そのトリツクとは・・・・・

この時代からそんなに腐敗してゐたのかと思はざるをへない位、今の世を反映してゐる背景があつた・・・・・

かういふことを見通して書ける松本清張といふ人は、何を見つめて生きてきたのか・・・・


ST 桃太郎伝説殺人ファイル

2011年09月08日 13時02分07秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。

今野氏が扉に書いてゐるが、岡山吉備路は伝説の宝庫で桃太郎伝説についての新たな発見がある。お伽話とは違ふニュアンスの話が新鮮と取材の際に感ぢられたらしい。

その今野氏の受けた印象が、この作品に反映されてゐる。

鬼が島へ鬼退治に行つた桃太郎 
犬、猿、雉を連れて腰に吉備団子をもち・・・・

そのお伽話の元となつた伝説、お伽話にならなかつた伝説の紹介を兼ねて「事件の謎解き」になつてゐる。

伝説も面白かつたけど、「変わり者」のSTメンバアの描写は今回も面白かつた・・・・・・


天網 TOKAGE 特殊遊撃捜査隊 2

2011年08月23日 15時30分35秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。 TOKAGEシリイズ第二弾。

新宿駅のバスタアミナルを出発した名古屋行きのバスが、ジヤツクされたと言ふ一報が入る。その数分後、東静岡行きのバスジヤツクの連絡が入る。第一報が誤報かと思へば、実はバス2台がジヤツクされてゐた。すぐ後に、東京駅を出発した名古屋行きのバスがジヤツクされたといふ連絡が入る。つまり、3台のバスがジヤツクされたのであつた。 犯人からの連絡はなく、バスの位置もつかめない。犯人の目的は何か・・・?

インタアネツトが普及した現在、PCや携帯等情報伝達ツウルを使いこなし、その知識が無いと「犯罪についていけない」事態となつてゐる。足で動き回ることよりも、情報をツウルを使用して収集するはうが重要なのか?

そんな警察と新聞記者の嘆きのやうな場面がある。 若い者はどこでもそのツウルを抵抗なく使用するが、年配の警察官や新聞記者には追いつけないところがあり、聞き込みをしても得る答えに自分の理解がついていかない・・・・

この作品はそんな一面を表してゐる。同時に、犯罪を「ネツト中継」するやうなことも実際起きかねない・・・ そんなこれからの懸念も描かれてゐる作品である。 

自分の飲酒運転、カンニング、賭博等「犯罪」とされることを自らネツト(ブログ、ツイツタア)に書き込む人たちがゐる。その人たちは、驚くほどに罪の意識がないし同時に自分の個人情報を惜しげもなくさらし、個人情報に関する警戒心も無い。

片や、ネツトユウザアの中には書き込んだ人のIPアドレスから所在地を割り出し、個人の居住住所を割り出す人もゐる。見つけた情報がネツトに書き込まれることも少なくない・・・

「情報社会」のかのやうな一面がどんな犯罪を引き起こすのか・・・? それを描いたのが本書だと思ふ。

この作品は、TOKAGEといふオオトバイによる偵察専門の特捜班を取り上げながら、特捜班と捜査班の警察の仕事を描き、これから頻発すると思はれる「ネツト犯罪」を取り上げてゐる。

その中で、やはり「人間」が面白い。 ネツトの知識が全く無い記者、しかし記者としての実績と必要な勘はそなえてゐると自負する記者と新卒の「記者としてのセンス」がまるで無いと思はれるのにネツトに関する知識が豊富で「歩き回る」よりも情報を収集してしまふ若者。 この作品ではこの記者の人間の読みどころがまず一つ。

次はTOKAGE隊の「若手」上野がこれまで隊長に付いてゐたが、今回の事件で「リイダア」を指示される。 部下についたTOKAGEは二人とも上野よりも年長で捜査経験も長い。実戦でどんどん動いていく・・・・ 「隊長なのに、部下に指示を出せず」落ち込む上野。その心理も描かれ、働き始めて一人で何かしだすとこんな気持ちになるよな・・・と思ふ心理描写がある。

そして今野氏の警察作品には、必ず女性が出てきてリイダアだつたり、なんらかの技官であつたりして「男の中で役割を担つてゐる」。そして、男ばかりのなかで女に対する偏見や負の感情が的確に書かれてゐることも注目してゐる。 

今野氏はかのやうな場面に実際に目にして、憤り(?)のやうな感情を抱いたことがあるのだらうか? レコオド会社に勤められてゐた時にそのやうな場面はあつたかもしれないが、かなり状況描写が現実的だ。 

優秀な女社員(捜査員)がゐると、「敵はない」と能力に嫉妬を感ぢた男がだう陰険陰湿になるかを把握してゐるのと同時に優秀な部下を性別問はず信頼する男、戸惑いながらも男の部下と同ぢやうに接しやうと四苦八苦する男、先輩として若干の恋愛感情を抱きつつ憧れる男など、いろいろ描かれてゐる・・・

面白い小説は、人間が面白く描かれてゐるが作者の観察眼の鋭さも否定できない。


エチュード

2011年08月22日 21時54分23秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。 警部補 碓氷弘一シリイズ。

渋谷の駅前広場で殺傷事件が起こる。警官が駆けつけて犯人を現行犯逮捕するも、犯人は犯行を否定。

数日後、今度は新宿の駅前で同様の事件が発生し、こちらも犯人が現行犯逮捕され逮捕された被疑者は犯行を否定する。

両者に共通の疑問点は、凶器が道に落ちてゐる、犯人を取り押さえてゐた「協力者」がゐる、協力者はいつの間にか姿を消してをり、警官たちは協力者を思ひださうとすると犯人のことしか思ひ浮かばない・・・といふことであつた。

事件に疑問を抱いた警察上層部は、警察庁から心理調査官を呼び「特捜部」を設置して「真犯人」を探すこととする・・・・

今回、読みどころなのは「警察」といふ男社会に「警察に雇用された、警官の資格を持たない技官が派遣される」といふところであらう。技官は心理学等専門の技術や知識をもつ学者であるが、捜査に関しては素人となり警察官と同様の権限を持たない。捜査に関して「助言」をすることを求められる。

「捜査のプロ」を自認する警察官の中に、「捜査の素人」が捜査に口を出すこととなる・・・ しかもそれが若くて美しい女性であつた。 碓氷は彼女と組むことを指示され、内心面倒と思ふのだが・・・・

碓氷の心情が女性技官の藤森との会話、行動を通して描かれるが同時に「社会に出てゐる女性と男性」の本音のやうな記述もある。藤森技官の心理が描写されてゐるわけではないのだが、その立場や背景を碓氷の視点を通じて描く。 これが面白い。

今回の作品は、「人の心理の隙を衝いた」事件なので、その部分も読みごたえがある。

しかしながら、

男の嫉妬と逆恨みと嫉みは、女以上の陰険さと陰湿さを呼ぶ。常々思つてゐたが、この作品を読んで、「心理解説」されてゐたので成程と思つた。 やはり男の相手は出来ない。


イコン

2011年08月20日 19時06分25秒 | ミステリー・推理

今野 敏氏の作品。

湾岸署にゐた安積班が神南署に異動となつてからの活躍の物語。

原宿のライブハウスでアイドルのイベントが行なはれる。ここに本庁生活安全課の宇津木は部下の保科とともに監視してゐた。 イベントが始まつた後に、誰かがトイレツトペエパアを投げたことで客席でもみ合いが起こる。宇津木らが「警察」を名乗り暴動を止めたあと、床に少年が倒れてゐるのが発見される。少年はナイフで刺されてをり、病院へ搬送後に死亡した。

「アイドル」のイベントなのだが、このイベントには「当のアイドル本人」が現れない。彼女は「ネツト」で生まれたアイドルであり、ネツト上での書き込みに反応するが人前には出てきたことが無い「アイドル」であつた。 

安積を始めとした、「ネツト上」のでバアチヤルな世界になぢみのない捜査員たちは戸惑ふのだが・・・・

この作品の最初の文庫出版は98年。「パソコン通信」といふ、今はすたれた言葉が出てくるが、それ以外は今読んでも違和感が無い。逆に、今かういふのが現在だな、と思ふ。

ここに投稿するのは、今野氏特有の「人間」を描く部分がこの小説でも用いられてをり、印象深い場面があつたからだ。

安積は離婚してゐる。

宇津木は、離婚ギリギリのやうな家庭事情であり、息子・娘・妻も自分とほとんど口を利かず宇津木は自分が彼等から嫌われてゐると思つてゐる。 離婚するか否かには踏み切れない。帰宅しても誰も出てこない・・・ 

そんな宇津木が、「少年が夢中になる世界」の事件に関はることとなる。彼は、息子との会話を試みる・・・・

そのときの心情その他の描写がよひ。

事件解決への進行と、宇津木の複雑な家庭事情が進む・・・ そのいきさつがよひ。