「人を殺せば死刑 - そのようにさだめる最大のメリットは、その犯人にはもう誰も殺されないということだ」
P154
社会的動向に常に目を向け、作品を発表してゐる東野さんがまたそのやうな作品を発表した。
正直、これはかなり考へさせられる作品である・・・ 読み終はつて、それぞれの主人公の事、今後の事を
あれこれ考へた
さすが東野氏の作品、ミステリイなのでこのブログでネタバレをすることは避けたい。
ネタバレせずに順を追つて読んで行くことが作品を楽しむことがまず第一にでき、次に考えるといふ
事につながるからだ
主人公の中原道正はペツトの葬儀社を営んでゐる。 その勤務先に刑事から電話がかかつてきた。
その刑事はかつて、中原が被害者となつた殺人事件を担当した刑事であつた。
刑事が何の用か?と思つた中原に、その刑事は離婚した元妻が殺害された、と伝えるのであつた・・・
それを機に、中原は自分が殺人事件の遺族となつた事件、娘が殺された事件を思ひだす。
その事件が原因で、中原と妻の小夜子は離婚することとなつた。
離婚後、連絡を取つてをらず妻がだうしてゐるのかすら知らなかつた中原だが、思ひもかけないところから
元妻の小夜子がジャアナリストとしての一歩を踏み出し
「死刑廃止論という名の暴力」
といふ原稿を書いてゐたことを知る。
それを読んだ中原は・・・
人を殺しても、「情状酌量の余地がある」として死刑にならず、無期懲役やら懲役*年となり、模範囚として
刑期よりも短く世の中に出てくる人間がゐる。
しかし、この人達のその後が社会生活をきちんと送れるとは限らない。仕事が見つからず、生活ができず
再犯する者も少なくない・・・ もし仮釈放中の犯罪で殺されたら遺族はだう思ふか
また、自分の家族は殺されたのに弁護側のあれこれの意見により、その犯人が生きながらえる事になつた
時の遺族の心情は
等々色々考える。
この小説は、
根本にある事は人が「自分の事を優先に考えるか、人の事を優先に考えるか」の違ひではあるまいか?
と言ひたいのではないのか?
死刑廃止・継続に関して正解があるのか?
死刑廃止論の国から来た娘が日本で殺され裁判に参加した欧州家族は言つた
「日本での極刑を望む」
死刑廃止論の国の人間ですら、自分の家族を殺されれば相手に死んでほしいと思ふのだ
死刑廃止論に何の意味があるのか? 個人的にはこれは綺麗事でしかないと思ふ
人の命を奪つてゐながら、自分が生きてゐて「償ふ」と言ふ意味が私には全くわからない
この物語の登場人物らは
「生きて償ふ」ことを必死に模索した者
「肉親を思ふあまり短絡的思考で自己中心な視点」しかもたない者
「両者の板挟みになる」者
である。
私が思つたのは
人を殺したら、御終ひ といふこと・・・・ どんな理由があれ、殺してしまつたらもふ取り返しがつかない