読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

虚ろな十字架

2014年09月09日 20時45分55秒 | 東野 圭吾

「人を殺せば死刑 - そのようにさだめる最大のメリットは、その犯人にはもう誰も殺されないということだ」
P154

社会的動向に常に目を向け、作品を発表してゐる東野さんがまたそのやうな作品を発表した。

正直、これはかなり考へさせられる作品である・・・ 読み終はつて、それぞれの主人公の事、今後の事を
あれこれ考へた

さすが東野氏の作品、ミステリイなのでこのブログでネタバレをすることは避けたい。
ネタバレせずに順を追つて読んで行くことが作品を楽しむことがまず第一にでき、次に考えるといふ
事につながるからだ

主人公の中原道正はペツトの葬儀社を営んでゐる。 その勤務先に刑事から電話がかかつてきた。
その刑事はかつて、中原が被害者となつた殺人事件を担当した刑事であつた。

刑事が何の用か?と思つた中原に、その刑事は離婚した元妻が殺害された、と伝えるのであつた・・・

それを機に、中原は自分が殺人事件の遺族となつた事件、娘が殺された事件を思ひだす。

その事件が原因で、中原と妻の小夜子は離婚することとなつた。

離婚後、連絡を取つてをらず妻がだうしてゐるのかすら知らなかつた中原だが、思ひもかけないところから
元妻の小夜子がジャアナリストとしての一歩を踏み出し

「死刑廃止論という名の暴力」

といふ原稿を書いてゐたことを知る。

それを読んだ中原は・・・ 

人を殺しても、「情状酌量の余地がある」として死刑にならず、無期懲役やら懲役*年となり、模範囚として
刑期よりも短く世の中に出てくる人間がゐる。

しかし、この人達のその後が社会生活をきちんと送れるとは限らない。仕事が見つからず、生活ができず
再犯する者も少なくない・・・ もし仮釈放中の犯罪で殺されたら遺族はだう思ふか

また、自分の家族は殺されたのに弁護側のあれこれの意見により、その犯人が生きながらえる事になつた
時の遺族の心情は

等々色々考える。

この小説は、

根本にある事は人が「自分の事を優先に考えるか、人の事を優先に考えるか」の違ひではあるまいか?

と言ひたいのではないのか? 

死刑廃止・継続に関して正解があるのか?

死刑廃止論の国から来た娘が日本で殺され裁判に参加した欧州家族は言つた

「日本での極刑を望む」

死刑廃止論の国の人間ですら、自分の家族を殺されれば相手に死んでほしいと思ふのだ

死刑廃止論に何の意味があるのか? 個人的にはこれは綺麗事でしかないと思ふ

人の命を奪つてゐながら、自分が生きてゐて「償ふ」と言ふ意味が私には全くわからない

この物語の登場人物らは

「生きて償ふ」ことを必死に模索した者
「肉親を思ふあまり短絡的思考で自己中心な視点」しかもたない者
「両者の板挟みになる」者 

である。  

私が思つたのは

人を殺したら、御終ひ  といふこと・・・・  どんな理由があれ、殺してしまつたらもふ取り返しがつかない


ナミヤ雑貨店の奇蹟

2013年03月01日 21時36分07秒 | 東野 圭吾

東野 圭吾さんの、久々の 純ミステリイといふ作品。

東野さんは、立て続けに刑事が登場する社会的なミステリイを発表されてゐたが、この作品では完全なるミステリイに徹してゐる。

第一章から第五章まで、「ナミヤ雑貨店」を取り巻く話となつてゐる。

第一章で、犯罪をしでかした後らしい、若者3人が「あばらや」へ向かふ。そこはとつくに閉店した雑貨屋なのに、なぜかポストに手紙が投函された。

その手紙は「悩み相談」だつた。

面白半分に回答して、返事を牛乳箱に入れると、なぜかすぐにその回答に対する返事が来た。これはどういふことなのか?

ミステリイから幕を開け、この第一章の悩み相談を始めとして第二章から第五章まで、物語りが展開していく・・・・・

東野さんは、人の心情を描くのが大変上手い作家であるが、このミステリイもその特色が生かされてゐる。

ミステリイなので、作品の詳細は書かない。ここで読むよりも作品を読んでほしいからだ。

最後の最後の、ナミヤ雑貨店の返答には、涙した。 常に社会を見つめる東野さん。社会の様相を作品に反映させていく東野さん。
若者の職がない、等若者が未来に希望が持てないといふ暗いニュウスをマスゴミが流してゐるが、東野さんはそれを蹴飛ばし、自分次第なのだと伝へてくれてゐるやうに思ふ。


ガリレオ 8 禁断の魔術

2013年02月03日 20時12分08秒 | 東野 圭吾

ドラマにもなつてゐる、ガリレオ 湯川教授シリイズ 最新作(と思ふ)。

本の帯には「湯川が殺人を?!」とか書いてあつたやうな気がする。

本書も、一章から四章の短編なのだが

帯にあることは、四章の物語のラストシインである。

一章から三章まで、さすが東野さんといふべく、面白い推理小説が並ぶ。

しかし、第四章は少し毛色が変つてくる。

湯川とおなぢ高校を卒業して湯川の在籍する大学に入学してくる男子生徒。 湯川は彼が高校時代、彼の所属する物理サアクルに新入生が入部しないことに関する相談にのり、新入生を「呼ぶあるもの」を造る手助けをしてゐた。

その「手助け」が本来の目的とは違ふこと、つまり殺人の道具として使はれるやうになつたとき、「教えた」湯川は・・・・

湯川の態度から考へたのは、今の世の中に対する東野さんの「警鐘」だ。

責任逃れをする人達が多い中、湯川のこの態度はそれを諫めるものであると言へやう。

東電の勝俣も清水も、民主の鳩山バカン野田もかういふ態度を取るべきではなかつたか?


マスカレード・ホテル

2012年01月07日 20時50分44秒 | 東野 圭吾

東野 圭吾さんの最新作。 図書館の予約で200人以上待ちで受け取り、この後460人以上が予約待ちをしてゐるといふものである。(いつもながら、東野さんの人気はすごい)

マスカレード・ホテル といふ題名のとおり、今回の舞台はホテルである。

都内某所で起きた殺人事件。遺体は、不可解な数字のメツセイジを持つてゐた。数字は何を意味するのか?

それからしばらくして第二、第三の殺人が起きるのだが最初の殺人と同様の数字のメツセイジがあつた。この数字を解明し、警察は次の殺人が舞台となるホテルで起きるのでは、と予測する。

ホテルにはさまざまな人がくる。

普通にチエツクインして帰る客だけではない。あれこれと注文をつける客、部屋に入り気に入らないと文句を言ふ客、密会の場所としてホテルを選ぶがバレたくないので小細工をする客・・・・

どれもホテルにとつては

お客様

なのである

このホテルマン(英語で男を意味するマンは差別用語となつてゐるらしいので、今後ホテルクラアクとでもなるのか?)の仕事を描き、同時に殺人事件の経過も描いてゐるのが本作である。ホテル勤務の人、とくにフロントなど接客に従事してゐる方が読んだらだうなのかな?と思ふ。

しかし

東野さんの発想力には感嘆してゐたが

今回も

ホテルを舞台に、様々な人物を登場させそして殺人事件を描くといふ3段階(以上?)の趣向に感銘した。 さうかあ、さうきたかあ、といふ犯人像であつた。

こんなことを言ふとなんだが

個人的にホテルは好きではない。

なぜなら

警戒心の眼があふれてゐるからである・・・・ 

なので

トイレに行きたくても絶対にホテルには行かない・・・・・ そこしかない限りは


真夏の方程式

2011年10月18日 21時57分11秒 | 東野 圭吾

人間を描き、世の中に「メツセエジ」を送り続ける東野さんの作品を図書館で80人待ちの順番を越えてやうやく、読めた(買へばいひのかもしれないが)。

今回の作品は、若者に対するメツセエジと思ふ。 
作品の中でメツセエジを受け取るのは、小学生なのだが

「メツセエジを受け取る」相手は現実には年齢を問はずにゐることだらう。

また、受け取つて、考えて行動しないことには意味がない。 

現在の政治・役所の怠慢によるとんでもない事象、それに対する埋め合わせはなくつけが国民に来る・・・・・・

こんな世の中にゐると、若者が無気力になるのは不思議はない。自分でさえ、政治家の「罪の自覚がない」ツイツタアを見ると

うんざり

する・・・・・・ 自分は年取つてゐるからいひけど、若者は希望もなく職があるやうな景気回復もなく、無気力になる気持ちもわからなくはない

しかし

英語もろくに出来ないのに「日本以外の未知の世界をみたい、世間を知ることが必要」とかなんとかおホザキしてオオストラリアに行つた自分としては

若者に「未知の世界に行く無鉄砲さ」を持つてほしいと願はずにゐられない。 逆に、「無鉄砲なことができる」のが若さなのだ・・・・

無知といふか、未知といふか、「知らない」ことの強さを持つのが若者だと思ふ。

若者が、あれこれ能書きを言つて行動を起こさないのは「ネツトその他の知識で変に耳年寄り」になつてしまつてゐるやうで、幾分気味が悪い。

話がズレたが、

いくつになつても

「今すぐには答えを出せない問題なんて、これから先、いくつも現れるだろう。そのたびに悩むことには価値がある。しかし焦る必要はない。答えを出すためには、自分自身の成長が求められている場合も少なくない。だから人間は学び、努力し、自分を磨かなきゃいけないんだ」(P412)

は当てはまることだと思ふ。

現況を憂慮しながら、自分にできることは何かな・・・・・と考えたのであつた。