半月ほど前のことだが、道路端で「まゆはけおもと・眉刷毛万年青」に出会った。
平鉢に植えられた、広葉で「ずんぐりむっくり」姿のおもと・万年青は、お化粧用の刷毛のような白い花を咲かせていた。
本来ならば、花茎は万年青の葉の間から、真っすぐ立ち上るのだが、此処の花茎はどうしたことか横に倒れたまま、花を付けていた。道端にしゃがみ込んでカメラを構えていたら、通りがかったオバチャン達も釣られて足を止め、「あら、珍しいお花」と、暫し花談義を愉しんだ。
芭蕉の「奥の細道」の中で、尾花沢を訪ねた際に、紅花と共に「眉掃」に思いをいたして書き留めた句がある。
眉掃を俤(おもかげ)にして紅粉(べに)の花
紅花から女性の化粧に思いをめぐらせ、眉に付いた白粉を眉刷毛で掃く動作をも読み込んで、芭蕉に似合わぬ艶っぽい俳句であるが、さらりと仕上げて品格を保っているのは流石だ。
現代の女性たちがお化粧道具として「眉刷毛」を使うのか否かは知らないが、「まゆはけおもと・眉刷毛万年青」は、かつての女性の日常生活の一部をそのまま花の名前に留めた、類いまれな花と言えよう。
眉刷毛の花珍しと愛ずる声は
化粧のことなど気にせぬ気配ぞ
花茎の倒れるままをも気に留めず
白花咲くかも眉刷毛万年青は
誰やらむ万年青の花に化粧する
刷毛の名前を其の侭とどめて
この花に眉の白粉掃く女(ひと)の
透ける指先胸に恋ふるや