かって9・11テロの大惨事があった際に、ツインタワーから直線距離で200M程の至近距離のマンションに住んでいた娘夫妻は、ハドソン河の対岸NJ州に緊急避難した。グランド・ゼロにはその後何回か足を運んだがその都度、犠牲になられた多くの人々の霊に、虚庵夫妻は黙祷を捧げて来た。
孫息子はいまや8歳になるが、誕生日から指折り数えれば、娘夫妻が緊急避難中に神から授けられたことになる。多くの人々の身代わりに生を享けたかと思えば、孫の命の受け継ぎには身震いがする想いだ。そんな思いを籠めて、誕生から間もない孫には”Cameron's Glory”とのタイトルで、讃歌を献呈した。
二・三年前のこと、娘から依頼されて、ばば様は孫息子の「ひざ当て」を作って送った。
孫が補助付き自転車に乗って、カメラを構える虚庵じじに向けて手を振る写真を写し取って、ジーンズ地に刺繍したものだ。娘からの手紙に依れば、孫は「ひざ当て」に縫い付けるのをOKせず、額に収めて机の上に飾ってあると言う。図らずもばば様は、その折の習作を額に納めて、朝晩孫との会話を愉しんでいるが、孫息子も同じ思いかもしれない。
孫はヘルメットを頭に被り、肘と膝当てのプロテクターを付け、グローブを嵌めての姿には、娘夫妻が息子に怪我をさせまいとする想いが痛いほど伝わる「出で立ち」だ。
虚庵夫人は何所から図案のヒントを得たかは不明だが、じじ・ばばが並んで寛ぐ姿を、同じようにジーンズ地に刺繍して額に収めた。嘗ての愛犬「ドンちゃん」もじじの膝下に寛ぐ、心やすまる刺繍で、二つとも虚庵居士の宝物だ。
時々は孫のお誘い じじ・ばあば~
スカイプしようよ ビデオ電話で
ばば様の老眼鏡のその奥の
やさしい”まなこ”は孫を見据えて
乞われれば孫の雄姿をひざ当てに
縫いて送りぬ ばばの夜なべに
図らずもばばの刺繍に寛いで
余生をすごす虚庵居士かな