「山鳥兜・やまとりかぶと」が、どこか優雅な雰囲気を漂わせて林の中に咲いていた。
鳥兜の名前は、舞楽で被る鳥兜に似ているからと言われるが、鳳凰(ほうおう)の頭をかたどった鳥兜はどちらかと云えばもっと華やかだ。頂部が殊に長いところはむしろ烏帽子に似ているが、形はともあれ黒一色の烏帽子は地味過ぎて、この花の名前には不釣り合いかもしれない。物の本によれば、イギリスではヘルメット・フラワー(兜花)と呼ぶらしい。兜を連想するところは洋の東西を違わないようだ。人間の感性には、民族を超えた共通のものがあるのだろうか。
それにしても「花に毒あり、美人に毒あり」ともいうが・・・。この様な優雅な花に毒があるとは、何やら人間世界を象徴しているようにも思われる。男が美人と二人きりになると、たった5分程度で男にはストレスホルモンが分泌され、このホルモンが心臓病に悪影響をもたらすというから、美人は恐ろしい。というより、男とは愚かな存在かもしれない。
美しい優雅な「山鳥兜・やまとりかぶと」も、猛毒の持ち主であることは周知の事実だが、念のため調べたら、1本の根で50人もの命を奪うと云うから驚きだ。毒の強さは植物成分としては最強で、天然物ではフグ毒に次ぐらしい。その昔、アイヌや古代人が鏃に鳥兜の毒を塗って、狩に使ったと伝えられるのは健全な利用方法だが、現代では保険金目当てのトリカブト殺人などの報道を見るにつけ、トリカブト以上に恐ろしいのは人間の心かもしれない。
「毒を持って毒を制す」との諺があるが、専門家に云わせれば、トリカブトの毒を制する毒は存在しないのだと云う。やはり「山鳥兜・やまとりかぶと」は、花の美しさを愛でるだけにしたいものだ。
暗闇の林の中に一株の
山鳥兜を木漏れ日さすかな
優雅なる花の姿と色あいを
観れば悲しも毒ある花とは
花を観て哀しと云うは愚かなれ
悲しかりけり花毒使うは