数日前になるが、原子力関係の「シニアと学生の対話会」を東大・本郷で開催した。
午後からの開始だったが、若干の時間的な余裕をもって正門に足を踏み入れたら、そこは銀杏の黄葉と落ち葉が金色の世界を創りあげていて、息を呑んだ。この時節にはごく当たり前の情景ではあるが、久しぶりに訪れると喧騒の巷とはまた別の世界だ。
銀杏の落ち葉を踏みしめながら、工学部に向かった。
これまでの略半年、学生の質問と意見とをメールで受け、これに極力丁寧に回答を認め、更には現役を離れてから間があるので、回答の不確かな部分を書籍やインターネットで調べ、或いは現役を煩わせて補強した返信を繰り返して、「往復書簡」を積み重ねてきた。
学生の希望で、その往復書簡を直接の対話で補いたいとの企画で、「シニアと学生の対話in東京09」を開催する運びとなった。これまでの元気のない草食系学生ではなく、「活きのいい、選りすぐりの肉食系学生を集めた」との学生側の触れ込みに、胸が高鳴る思いであった。
熱の籠った2時間余の対話を終え、それぞれのグループ毎に学生が対話の内容と、彼らが掴んだものを短時間で発表した。最後に乞われて講評のスピーチをさせて貰ったが、学生との得難い交流の半日であった。
H20年度の年度末、我々シニアの会の乏しい予算がごく僅か余る見通しで、有効活用策を関係者にご相談した中で、「シニアと学生の共同出版」の構想が浮かびあがった。言イダシッペの虚庵居士としては、逃げ出せないので学生連絡会の会長さんに話を持ち込み、学会・春の年会にて学生とシニアが意見交換した。それがコラボレーションの第一歩であった。
この構想の原点は、腰を据えた「シニアと学生の交流の場・意見交換の場」を設定し、シニアの熱い思いを伝え、学生と共に共同で執筆を重ねつつ、学生には次世代を担う思いを是非とも培って貰いたいと念じたものだ。
学生側の自主的な検討・企画を尊重することを大方針に据え、学生の提案を待った結果、三部作の提案があった。第一は、学生がテーマを絞ってシニアに意見と質問をブッツケ、これにシニアがメールで答える往復書簡の交換だ。当日の対話会のテーマは、将に往復書簡の延長戦で、これまでにない深みのある対話が出来た。学業と研究等の合間を縫って往復書簡を重ねてきた学生諸君の努力を多とし、シニアのボランティアのご支援とご指導に、深く敬意を表し心から感謝した次第だ。
学生提案のその二は、自分たちの後に続いてほしいと、後輩の学部生・高校生への参考書の執筆だ。またその三は、学生の夢と希望・提言などをつづって、社会に彼らの思いを届けたいとの企画だ。
シニアは学生の提案に賛同し、学会に「シニアと学生の共同出版」の追加予算を申請した。学会としては支援するべき優れた企画・活動だとして、追加予算が認められた。
来年・春の年会では、「シニアと学生の共同出版」をテーマに企画セッションが開催される予定で、大方の注目を集めている。学生諸君はこれから忙しい時期を迎えるが、それまでには何としても出版事業を、シニアと一緒になって成し遂げて貰いたい。そして胸を張って、企画セッションで成果を語って貰いたい。
対話会では、往復書簡を補って余りある大きな成果を得た。学生諸君は、是非ともこの成果を上手に汲み取って「シニアと学生の共同出版」へ反映させて貰いたい。また併せて、次世代を担う強い意志固めの材料として活かして欲しいものだ。
黄金なる銀杏の落ち葉を踏みしめて
学生対話に向かう今日かも
学生の真摯な思いと問いかけに
夜を徹しぬ長き返書に
調べ上げメールに告げにしひと節に
目を潤ませる若き君はも
半世紀 歳を隔てて取り交わす
メールの向こうの君を抱きぬ