「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「蓼科の野花 その8 浜梨」

2009-10-03 02:32:06 | 和歌

 「はまなす・浜梨」の赤い実がなっていた。

 「はまなす」は東北や北海道などの海辺の灌木だが、蓼科の寒冷な風土であれば良かろうと、誰かが移植したものであろうか。かなりの年月を経た古株であった。別荘地ゆえに、天然の山野草に混じって、道端には人手を介したであろう花木が育っていて、植物の基礎知識がないと混乱させられる。

 「はまなす」の故郷・北海道では、この紅の実を料理して、ジャムを作るという。食いしんぼうの虚庵居士は、そんな話をきくと途端に食べたくなるが、花が結んだ果実を摘んでジャムを作ろうとの発想は、花を愛する者が辿り着く、究極のものかもしれない。

 この花は皇太子妃雅子さまの「お印」としても知られるが、自然の花を「お印」とする慣わしは、世界にも例をみない雅なものだ。やんごとなき際の慣わし故、詳しいことは知らないが、一人づつに「お印」が定められ、名前に代わってその方々を象徴させるのは、床しい慣わしだ。

 かつて家紋が盛んに使われた時代もあったが、「家」単位での生活、「家系」が大切にされた時代にあっては、「家紋」も同じように優雅で大切な象徴であった。個人主義的な思想や生活スタイルが敷衍して、いつの間にか「家紋」は廃れ、精々墓石や呉服の紋付程度に限られるようになったのは、寂しいことだ。





             はまなすは寂しからずや北国の

             海辺を想ふか ほほ紅に染めて

             
             潮騒の音懐かしく聴くならむ

             梢の松籟 響く夕べに


             はまなすの花のみならず結ぶ実も  

             愛おしければ口にふくまむ