うどん 熊五郎のブログ

日替わりメニューの紹介や店での出来事など徒然なるままにつづりたいと思います。

連載2

2012年07月23日 | 学習室
熊五郎と12名の仲間達

第2章  彼等との出会い


 娘の高校入試が終わった翌年、熊五郎は十二名の小学一年生と出会う事になる。越智一樹、山上光太郎、深井百合子、関小夜子、横井尚一、関口文彦、黒山昌美、猪野沢剛希、志多浩治、森下幸子、田島千夏、藤野恭一、男子七名、女子五名の構成であった。熊五郎は、この個性派集団と九年もの長きに渡り付き合う羽目になるとは夢想だにしないことであった。
 学習室は、生徒達の負担を考慮し、小学一年生は、小学校生活が落ち着く五月から始められていた。初めての授業はにぎやかに始まった。熊五郎は子ども達に言った。
「みんな、俺の話を聞いて下さい。(熊五郎は、先生という言葉を使いたくなかった)三つだけ約束して欲しいことがある。まず一つめは、決まりを守ること。二つめは、遠足などに行ったとき、勝手な行動はしないこと。三つめは、授業はきちんと聞くこと。この三つを守ってくれれば、それ以外は何をしてもいいよ。解った?」
初めは一人一人の性格も行動パターンも解らない。授業展開はある程度、子ども達の性格を把握してからにしようと開設当時から決めていた。最も手っ取り早い方法は課外授業である。開放感のある屋外では自然と性格が出る。そこで熊五郎は翌週、地元の河原に行くことにした。思った通り、男子では越智、女子では関がリーダー役となり仲間をまとめていた。熊五郎は、この二人を中心にクラスをまとめることに決めた。初めての授業は数の成り立ち、数え方、足し算等である。
「ハイ、それでは、このページが出来たら丸もらいにおいで。」
「なんでえ。こんなのチョロいよ。学校でもう終わってらあ。」
「越智君。そんなに勉強を馬鹿にしてたら、大切なこと聞きそびれちゃうぞ。」
その都度注意をするのだが、テストは必ずと言っていいほど一番先に丸をもらいに来た。子ども達もいつしか熊五郎のペースに巻き込まれ、授業は順調に進んでいった。七月に入り、算数の授業中、突然、関が
「先生。キャンプって何するの?」
問いかけてきた。
「関さん。今は算数の授業中だからキャンプの話は後にしよう。」
すると、田島が
「先生。だって何にも話してくれないから私たち解んないもん。」
こう言うときは、決まってみんなで授業をそらそうとする。熊五郎も十分承知していた。これは総ての学年で言えることであった。
「解った。それじゃ、このページをみんなが解いたら話してあげるから。」
五分ほどで問題を解き上げた生徒達はキャンプの話を今か今かと首を長くして待っている。
「みんな終わったね。それじゃ、約束通りキャンプの話をしてあげるよ。この中でキャンプに行った人、手を挙げてみてごらん。」
熊五郎の問いに誰も手を挙げない。
「みんな、キャンプは初めてなんだ。」
全員がうなずいた。この学年は全員参加の予定である。
「みんなが行くキャンプ場は俺が以前、勤めていた会社にいた時、見つけたキャンプ場なんだ。」
熊五郎は自慢げに話し始めた。キャンプの話に話題が移ったとたん子ども達は皆、目を輝かせて聞いている。確かにキャンプ場は企画会社に勤務して二年目に開発した場所である。地元の観光課でさえ考えもしなかった分校跡地を利用して自然体験キャンプを二年間実施したのである。現地を案内して下さったのは観光課の大西さんであった。その後、大西さんが中心となり村営のキャンプ場として整備され、開設後は毎年数多くのキャンパーで賑わっていた。
「始めた頃はね。キャンプ場の真ん中に沢が流れていてその水が飲めたんだよ。」
「今も飲めるの?」
関口が身を乗り出して聞いた。
「残念だけど、今は飲めない。」
「どうして。」
「キャンプする人が多くなって水が汚れてしまってね。今は水道の水になってる。」
自然の水を飲むことなどほとんど経験のない子ども達はがっかりした表情を見せている。
「だけど、水はとてもきれいな場所だよ。五,六年生になるとキャンプ場の横を流れている川で谷川探検するんだ。滝を登ったり、立てないところを泳ぎながら進むんだ。とってもおもしろいぞ。」
「先生。俺たちも五年生になったら参加できるん?」
目をランランと輝かせて藤野が質問した。
「もちろん。ただし、二十五メートル以上泳げる人っていう条件があるけどね。」
「なんで。」
「背の立たないところは泳げないと溺れちゃうだろう。それに、谷川探検は岩がゴツゴツしていて危険だから、靴とTシャツを着ていないと怪我をしやすいんだ。ところでみんな、服や靴を着たまま泳いだことある。」
全員が首を振った。
「プールで泳ぐのは簡単だけど、流れのあるところで洋服を着たまま泳ぐのはとても大変なんだよ。泳ぐ距離は長くないけど泳ぎの苦手な人は危険なんだ。」
熊五郎は、着衣水泳の難しさも説明した。(42)
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