熊五郎と12名の仲間達
キャンプから一ヶ月が経ち、二学期が始まった。相変わらず賑やかな学年である。学習室では質問コーナーというものを設けている。積極的に手を挙げ、解らないことが当たり前、恥ずかしがらずに質問しようという試みが開設二年目から行われている。質問内容についての規定はない。勉強のことだろうが個人的なことであろうが何でも質問できる。対話教育には欠かせない存在となっていた。
「さあ。質問コーナーで質問ある人。」
熊五郎が口を開くと
「ハイ。」
「ハイ。」
「ハイ。」
と次々と手を挙げてくる。
「真っ先に上げた猪野沢君。どんなこと?」
一見ふてくされたような態度を示すときがあるが、実に家族思いで、遠足に行くと必ず小遣いで両親や弟の土産を買っている姿を見かけるが自分の物に使ったことを見たことがない。その猪野沢の質問がまたふるっていた。
「先生の頭はいつ頃からハゲてきたの?」
熊五郎は髪の毛が薄くなり始めたことを多少は気にかけていたが、にこりと笑って
「そうだなあ。いつって言われても気がついたらもう毛が無くなってたんだよなあ。」
「嘘だい。おれ、先生の髪の毛がフサフサしてんの見たことねえもん。もしかして、生まれたときからハゲてたんじゃねえの。」
越智がいつものように突っ込みを入れる。
「何言ってんの。俺が学習室を始めた頃はフサフサしてたんだよ。ところでみんな。毛が薄いと得するものってなんだか知ってるか?」
すると田島がすかさず答えた。
「床屋!」
「どうして?」
「だって毛が少ないからお金安いんでしょ。」
「は・ず・れ。毛のない人でも床屋さんに行くと同じお金取られるんだよ。」
今度は志多が質問してきた。
「先生。割引きってないの?」
「無いんだな。床屋さんに言わせるとハゲの人の髪を切るのは難しいんだって。」
「そうだよ。そうだよ。だって切っちゃったら生えてこないかもしれないもんな。」
再び越智が突っ込みを入れてくる。
「そんなことないぞ。俺だってちゃんと毛のあるところは伸びて来るから。」
「じゃ、先生、何?」
「あのな、髪の毛につける整髪剤。だってな、俺なんか一本買うと一年以上も使えるよ。普通の人だったら一年で五~六本使うだろ。その分得してる訳。」
「そうだよ。俺んちの父ちゃん、頭にジャブジャブかけてんもん。」
猪野沢が自慢げに言った。
「そうだろう。俺なんか、かけすぎるとすぐ顔に垂れてくるもの。それと床屋さんに行くお金。学習室を始めてもう十年以上経つけど一度も床屋さん行ったこと無いんだよ。」
「じゃ、先生の髪は誰が切るの?」
不思議そうに深井が質問をした。
「自分で切るんだよ。だから床屋代がかからないんだ。」
「わかった。毛が少ねえから切るのに楽なんだ。切ったって大したことねえもんな。」
今度は横井が突っ込みを入れてくる。
「そう思うだろ。だけど少ないから切りすぎるとすぐ解っちゃうから逆に大変なんだ。俺だって気を使って切ってるんだから。」
「じゃあじゃあ、先生、ハゲる人って、お金がたまるんだ。」
藤野が真顔で話しかけてくる。
「そうとは限らないよ。もし、みんなお金持ちになれるんならハゲた方がいいもんな。」
「俺、やだね。ぜってえハゲねえもん。」
志多が吐き捨てるように言った。志多はマイペース型だが一度間違った問題を二度間違えることはほとんど無い。着実に学力を身に付けるタイプであった。何でも質問できるこの時間は、とても授業とは思えない会話で盛り上がることもしばしばである。
キャンプから一ヶ月が経ち、二学期が始まった。相変わらず賑やかな学年である。学習室では質問コーナーというものを設けている。積極的に手を挙げ、解らないことが当たり前、恥ずかしがらずに質問しようという試みが開設二年目から行われている。質問内容についての規定はない。勉強のことだろうが個人的なことであろうが何でも質問できる。対話教育には欠かせない存在となっていた。
「さあ。質問コーナーで質問ある人。」
熊五郎が口を開くと
「ハイ。」
「ハイ。」
「ハイ。」
と次々と手を挙げてくる。
「真っ先に上げた猪野沢君。どんなこと?」
一見ふてくされたような態度を示すときがあるが、実に家族思いで、遠足に行くと必ず小遣いで両親や弟の土産を買っている姿を見かけるが自分の物に使ったことを見たことがない。その猪野沢の質問がまたふるっていた。
「先生の頭はいつ頃からハゲてきたの?」
熊五郎は髪の毛が薄くなり始めたことを多少は気にかけていたが、にこりと笑って
「そうだなあ。いつって言われても気がついたらもう毛が無くなってたんだよなあ。」
「嘘だい。おれ、先生の髪の毛がフサフサしてんの見たことねえもん。もしかして、生まれたときからハゲてたんじゃねえの。」
越智がいつものように突っ込みを入れる。
「何言ってんの。俺が学習室を始めた頃はフサフサしてたんだよ。ところでみんな。毛が薄いと得するものってなんだか知ってるか?」
すると田島がすかさず答えた。
「床屋!」
「どうして?」
「だって毛が少ないからお金安いんでしょ。」
「は・ず・れ。毛のない人でも床屋さんに行くと同じお金取られるんだよ。」
今度は志多が質問してきた。
「先生。割引きってないの?」
「無いんだな。床屋さんに言わせるとハゲの人の髪を切るのは難しいんだって。」
「そうだよ。そうだよ。だって切っちゃったら生えてこないかもしれないもんな。」
再び越智が突っ込みを入れてくる。
「そんなことないぞ。俺だってちゃんと毛のあるところは伸びて来るから。」
「じゃ、先生、何?」
「あのな、髪の毛につける整髪剤。だってな、俺なんか一本買うと一年以上も使えるよ。普通の人だったら一年で五~六本使うだろ。その分得してる訳。」
「そうだよ。俺んちの父ちゃん、頭にジャブジャブかけてんもん。」
猪野沢が自慢げに言った。
「そうだろう。俺なんか、かけすぎるとすぐ顔に垂れてくるもの。それと床屋さんに行くお金。学習室を始めてもう十年以上経つけど一度も床屋さん行ったこと無いんだよ。」
「じゃ、先生の髪は誰が切るの?」
不思議そうに深井が質問をした。
「自分で切るんだよ。だから床屋代がかからないんだ。」
「わかった。毛が少ねえから切るのに楽なんだ。切ったって大したことねえもんな。」
今度は横井が突っ込みを入れてくる。
「そう思うだろ。だけど少ないから切りすぎるとすぐ解っちゃうから逆に大変なんだ。俺だって気を使って切ってるんだから。」
「じゃあじゃあ、先生、ハゲる人って、お金がたまるんだ。」
藤野が真顔で話しかけてくる。
「そうとは限らないよ。もし、みんなお金持ちになれるんならハゲた方がいいもんな。」
「俺、やだね。ぜってえハゲねえもん。」
志多が吐き捨てるように言った。志多はマイペース型だが一度間違った問題を二度間違えることはほとんど無い。着実に学力を身に付けるタイプであった。何でも質問できるこの時間は、とても授業とは思えない会話で盛り上がることもしばしばである。