手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

徒手的テクニックの使い分け9 ~表の活用例1~

2010-09-11 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
今回は、このシリーズで作成した 「刺激の方向と加え方によるテクニックの分類」 の活用例として、私の治療の組み立て方を、表と照らし合わせながら紹介したいと思います



あくまでもひとつのモデルに過ぎませんが、この表が実際の臨床で 「このように使えるんだ」 ということをご覧いただき参考になさってください。







『 ある日、イスに座っていて後ろの物を取ろうと身体をひねったときギックリ腰になり、強い痛みを訴えている患者さん が来院されました。


問診や視診、整形外科的テストの結果、炎症の反応や馬尾神経症状など禁忌の所見は認められず、筋スパズムによる症状の可能性がどうやら強いようです。


触診によって、まわりと比べてかたさが強くなっているところと範囲、深さを調べ、それを解剖学に照らし合わせてみると、L3を中心とした腰椎と、そこから外側の腰方形筋にスパズムによる筋緊張を感じます。


かたさの強い方向はL3の伸展方向と、腰方形筋を外方から内方に向かって圧迫を加える方向でした。


比べてみると関節より筋筋膜の制限である、腰方形筋の緊張のほうが強いようです。


まずは 「表中D」 のカテゴリーに含まれるマッサージを行ったところ、スパズムを軽減させることはできましたが、まだ筋が興奮しており、身体を動かそうとすると痛みを起こします。


そこで、「表中E」 の筋肉エネルギーテクニックによって、相反抑制や等尺性収縮後リラクゼーションを利用し筋のトーンを下げた後、再び評価しました。


筋のスパズムはほぼ改善したものの、L3の伸展制限はまだしっかり残っています。


これに対して、「表中A」 の関節モビライゼーションを行い、伸展制限を解除しました。


続いて座位で検査したところ、いくらか筋肉の張り感は残っているように感じるものの、強い運動時痛はなくなっています。


念のため、自動運動でL3の屈曲・伸展を確認しましたが問題ありませんでした。


ここで異常があれば、「表中B」 に含まれるマリガンのSNAGSを用いて関節のすべりを回復させる考えでしたが、その必要性はなかったようなので、これで初回は終了しました。 』







いかがでしょう? おおまかにでもイメージをつかんでいただけたでしょうか?


上の例はわかりやすくするため、シンプルにまとめましたが、実際には以下の3つも織り交ぜながら進めて行きます。







① 患部に負担をかけている周囲の状態をチェックする。


腰部に負荷をかけているのは、たとえば胸郭が制限を起こしているために、腰部が回旋運動を代償しているためなのか。


それとも、ハムスト等の短縮により座位で骨盤が後傾し、腰部の後彎が強まっていたのか。


または、体幹筋の機能が低下し、腹圧による腰部のサポートが得られなくなっていたためなのか、などなど。


そのようなところをみつけたら、患部と同じような流れでアプローチします







② 患部に負担をかけているような、身体の使い方をチェックする。


胸郭の制限が除かれた後にも、たとえば胸郭を固定して体幹を回旋させるような習慣が残っていることで、腰痛を再発しやすくなっていないか、など。


この場合、運動のパターンを修正するようなエクササイズをアドバイスします。


習慣を変えることになるので、スムーズにいかないこともありますが、これまでのプロセスから患者さん自身が、症状の成り立ちを感覚的に理解しているために、再発しても 「またやっちゃったか」 という具合で、心まで不安に陥ることがありません。


文字通り、腰を落ち着けて取り組むことができます。







③ 患部やその周囲の疲労を除くようなセルフケアを行う。


「表中C・F」 のカテゴリーに含まれるものですね


②でお話した、身体の使い方もここに入ってくるでしょう。


セルフケアについて、私の治療院を利用される方は、仕事や生活に疲れきっていらっしゃる方も少なくありません。


その状態で、いきなり大きなエネルギーを使うようなエクササイズをアドバイスしても、なかなか実行は難しいです


運動嫌いな私が患者さんの立場でも、同じように続かないと思います。


そこで、はじめの段階でよくすすめているのが、テニスボールやカサなど、身近な道具を用いる方法です


≪弊院サイト内 「身近な道具を使ったコリとり体操」 をご参照ください。 ≫


これらは、寝ながら体重をかけたり、腕の重みを伝えたりするだけで、かんたん、楽ちん、効果的にケアできるので、疲れている方にも実行していただける可能性が高くなります。


そこからスタートし、心と身体の回復の度合いと、とにかくセルフケアが習慣になりつつあるかをみながら、必要に応じてよりアクティブなエクササイズをアドバイスするようにしています。







こうして見てみますと、基本的に私の組み立て方は、表の右から左に向かって進めているという流れになっているということが感じていただけるかと思います。







いかがでしょう? 実際の臨床で多くのテクニックの中から、どれを選択して進めるかを判断していく流れが、表を利用することで少しでも判りやすくなったでしょうか?


冒頭にも述べましたが、これはあくまで私の場合ということなので、この方法だけが正しいなんてことはありません。


少ないスタッフで、多くの患者さんを診る必要がある現場では、表中C・Fの自動運動からスタートして、回復が思わしくない方に対して、より分節的なアプローチができるA・B・D・Eのテクニックを用いていくというのも現実的だと思います







回復までの道のりは、登山ルートと同じで決してひとつではありません


体性機能障害はデリケートなところもある反面、許容量が大きい一面もあり、さまざまなルートを作ることができます。



この表を上手く活用することで、ルートを確認する地図のような役割を果たしてくれるかもしれません。


また、治療の流れのイメージや、何をすべきかというヒントも得られるのではないかと思います。


( そうなってくれたら嬉しいです )







次回は他の活用例として、シリーズの第1話でも触れた、多くの徒手的テクニックを前にして 「どれから手をつけて良いかわからない」 「こんなにあるのを全部覚えないといけないの?」 という疑問を感じている方へのアドバイスをお話したいと思います