東アジア歴史文化研究会

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「予測できない金兄妹の韓国呑み込み作戦 日本は憲法改正の一日も早い発議を」(『週刊ダイヤモンド』)櫻井よしこ

2018-02-25 | 北朝鮮関係
北朝鮮の独裁専制君主、金正恩氏の妹の金与正氏は「氷のような女性」だった。アゴを上向きにし、人を見下すような目線が目立った。金王朝支配の死臭の漂うような北朝鮮では、人々は高官も含めて、一人の若い女性のこのような目線に怯えるのであろうか。

2月9日の韓国入りから滞在3日間で、彼女は文在寅韓国大統領の心をぎゅっと鷲掴みにしたと見てよいだろう。なんと言っても文氏は3日間に4回も与正氏に会った。初日からの映像を時系列で見ると、与正氏の表情に余裕が生まれている。

文大統領も韓国世論も彼女の微笑外交に屈しつつある感触を得たからであろう。韓国紙には与正氏の力を、「微笑の核爆弾」と形容した記事もあった。マイク・ペンス米副大統領は「北朝鮮が平昌五輪をハイジャックしようとしている」と警告、微笑攻勢で北朝鮮の残虐さが覆い隠されてはならないと語った。オットー・ワームビア氏の父親を平昌に招き、現地で脱北者らと会うなど北朝鮮の非人道的行為は許さないとの米国の姿勢を強調した。

しかし、蓋を開けてみれば、与正氏は韓国メディアに大きく報じられ、美女軍団には無数の人が群がり、文大統領は締まりの無い顔で平壌に行きたくて仕方ない心を見透かされた。

史上最悪の政治五輪になったが、近未来の光景も見えてくる。南北朝鮮が北朝鮮を盟主とするような形で会談し、日米が対応を誤ればその先に北朝鮮主導の連邦政府が生まれるだろう。

今回、なぜ、90歳の金永南氏が韓国を訪れたのか。2000年6月の金大中大統領平壌訪問を思い出せば、疑問は解ける。大中氏は4.5億ドル(約500億円)の秘密資金を金正日総書記に送金して南北首脳会談を開催してもらった。6月13日、平壌に到着したとき正日氏が出迎えた。思いがけない主役の出現に、韓国国民は熱狂した。

だがその後、北朝鮮側の主役は正日氏から、一応国家元首の永南氏に交替した。当日の晩餐会は永南氏が主催し正日氏は姿を見せなかった。2日目の晩餐会は大中氏が答礼で主催したが、このときも正日氏は現れなかった。

客観的に見れば、北朝鮮元首の永南氏と韓国元首の大中氏が外交儀礼に基づいて接遇しているのであり、形は整っている。

では、正日氏はどうしたか。大中氏訪問3日目の昼食会を主催し大中氏と永南氏の両方を招いたのだ。中国共産党が中華人民共和国政府の上位にあるように、北朝鮮労働党も北朝鮮政府の上にある。永南氏は正日氏には平身低頭する存在だ。大中氏はその人物と、同列に位置づけられた上で、正日氏に招待された。

正日氏は永南氏の上に立つのと同様の形で、大中氏の上にも立ったということだ。こうして正日氏は南北両朝鮮の代表の上に立つ形を世界に示した。文氏の北朝鮮訪問も、同じ形に嵌まるだろう。このような事態を見越して、正恩氏は永南氏を訪韓させたと見てよいのではないか。

北朝鮮に前のめりの文大統領とは対照的に、安倍晋三首相は日本の立場を永南氏にはっきり伝えた。ペンス氏が五分しかとどまらなかった文大統領主催の歓迎宴に、安倍首相は最後までとどまった。終わり近くにさっと永南氏に接近して要求した。拉致被害者全員の早期帰国を日本政府は強く求めると、強い口調で述べたのだ。

永南氏は儀礼上の元首であり、決定する権利はないのであるから、返事など問題ではない。大事なことは永南氏に日本国政府の固い意思を伝えたということだ。それを氏は忠実に正恩氏に伝えるであろう。

正恩、与正兄妹が韓国呑み込み作戦に成功するのかは、予測できない。日本は米国と共に韓国の対北宥和策を牽制し国防力の強化を急ぎ、憲法改正を一日も早く発議することだ。

『週刊ダイヤモンド』2018年2月24日号

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