東アジア歴史文化研究会

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【石平のChina Watch】「踏み絵」と「買収」の台湾工作

2019-04-10 | 台湾情勢
2019.4.4

欧陽娜娜さん=平成28年、東京都渋谷区

先月25日、台湾のチェロ演奏者・女優の欧陽娜娜(オーヤン・ナナ)さんが中国の中央テレビで問題発言を行った。彼女はインタビュー出演の中で何と中華人民共和国のことを「わが祖国」と呼び、「祖国を愛している」と宣言したからである。

つまり彼女は、中国に迎合するあまりに、自分が所属している台湾を公然と否定してしまった。台湾では当然、反発や批判が起きた。

もちろん娜娜さんがこのような言動をとったのには彼女なりの理由がある。彼女は今中国国内で演奏会を開いたり、テレビドラマに多数出演したりしてかなり有名になっている。だが最近、「ネット紅衛兵」と呼ばれる人々が、噂話を根拠にして娜娜さんに「台湾独立派」のレッテルを貼り付けて攻撃を始めた。

中国大陸で芸能活動を展開する娜娜さんにとっては実に深刻な事態だ。中国の中で一旦「台湾独立派」だと認識されてしまうと、政府当局の圧力や観衆・視聴者のボイコットによって活動ができなくなるからである。

そこで娜娜さんと所属事務所は早速「娜娜は台湾独立派ではない。『1つの中国』を支持している」との声明を発表したが、不十分と思ったのか、娜娜さん自身が中央テレビに登場して、中国政府におもねる、前述の「愛国発言」を行ったのである。

これまでも、台湾籍の芸能人が「台湾独立支持」のレッテルを貼られ、中国国内向けに謝罪したり、陳謝したりするような事態が起きたことがあるが、中国のテレビにまで登場して「迎合発言」を行ったのは初めてのことで、中国当局には大成功である。

このような成功の経験があればおそらくは今後、中国で活動する台湾籍の芸能人や芸術家、あるいは中国市場でビジネス活動を展開する有力な台湾企業に対し、中国政府は同じような手口で踏み絵を踏ませてくるであろう。

「ネット紅衛兵」たちを動員して、言われなき「台湾独立派」のレッテルを貼り付けさえすれば、台湾の人々や企業は怖くなって中華人民共和国を擁護する発言を行わざるを得ない。そして、「台湾が中国の一部である」という世論が台湾の内部から形成されていくことになる。

こうした「踏み絵工作」と並んで「買収」も今後、中国当局の「台湾工作」の重要な柱の一つとなろう。

ちょうど娜娜さんの中央テレビ出演と同じ時期に、台湾高雄市の市長が香港・深セン・アモイなどの中国都市を歴訪した。中国政府と各地方政府の高官たちは総出で「熱烈歓迎」したと同時に、中国側が高雄から農産品や水産品などを大量に買うという総額53億台湾ドル(約190億円)の商談を成立させた。代わりに市長は訪問中、中国政府の意向に沿った形で中台は不可分の領土だとする「1つの中国」原則に基づく「1992年合意」の堅持と、「台湾独立」への反対を強調したという。

「爆買工作」は実に巧妙である。「台湾独立反対」の台湾の地方首長を優遇して地方に実利を与えることで、台湾の政治家だけでなく一般市民まで利益誘導によって「独立反対・統一賛成」へと導くことができるからである。

中国の習近平政権は今後このようにして、「踏み絵」や「買収」を含めたあらゆる手段を用いての「台湾工作」を加速化させ、「祖国統一=台湾併合」を目指していくこととなろう。

それは日本にとっても決して、人ごとではない。台湾が中国に併合されるようなことにでもなれば、日本の地政学的な立場はかなり不利なものとなるからである。

石平(せき・へい) 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

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