東アジア歴史文化研究会

日本人の素晴らしい伝統と文化を再発見しよう
歴史の書き換えはすでに始まっている

「日本はいったい誰と戦ったのか 真の敵はアメリカだったのか、ソ連・コミンテルンだったのか」江崎道朗氏講演レジュメ

2018-04-29 | 歴史の書き換え
日本人に決定的に欠けているのは、インテリジェンスである。特に第三番目の「影響力工作」であるという。独立国家として当然あるべき「情報史(インテリジェンス・ヒストリー)」という学問がない。「中国やロシア、北朝鮮などとインテリジェンスの戦いで対抗するということは、中国などを敵視することではない。敵視するのではなく、中国やロシア、北朝鮮の動向を懸命に調査し、分析し、できるだけ正確に理解しようとすること。機密情報を盗むスパイ活動と異なり、非公然の政治工作、影響力工作は「犯罪」として取り締まることは困難だが、その影響力は極めて大きい。そこで欧米諸国では、外国勢力による非公然の政治工作、影響力工作に対抗すべく、そうした工作が国際政治や外交にどのような影響を与えてきたのかについて研究する学問が生まれている。それを「情報史(インテリジェンス・ヒストリー)」という」。

江崎道朗氏の論旨は、極めて明確であり、日本人としてもっとも欠けている分野が「情報史(インテリジェンス・ヒストリー)」だという。目からウロコが落ちるような講演であった。以下講演レジュメである。「ヴェノナ文書」公開からソ連の秘密工作員たちの絶妙な連携によって日本はアメリカと戦うことになった。誰も教えてくれなかった驚愕の事実である。歴史の書き換えをしなければならないときが来た。ぜひともお読みいただきたい。

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第145回東アジア歴史文化研究会(2018年4月26日)
テーマ「日本はいったい誰と戦ったのか」
講演者 江崎道朗氏(評論家)

1. インテリジェンス能力向上を目的としたインテリジェンス・ヒストリー

「北朝鮮とその背後にいる中国やロシアに対抗するためには、軍事だけでなく、経済、外交、そしてインテリジェンスの四つの分野で対抗策を講じる必要がある」

インテリジェンスとは

第一は、「スパイ工作」(Espionage)だ。主として国家機密などの情報を盗むことを目的とする。機密などを盗むために協力者を仕立てることもスパイ工作の一つだ。

第二は、「破壊工作」(Sabotage)だ。サイバー攻撃や重要施設の破壊、重要人物の暗殺などのことだ。

第三は、「影響力工作」だ。自らの国益に沿った行動を他国にとらせるために用いられる非公然の手法としては、偽文書など情報の発信元を隠蔽したプロバガンダや、あるいは表向きは関係のないよう装った組織を使って示威運動を行ったりすることがある。これらは、「欺瞞」(Deception)と呼ばれる。このうち、自らの影響力をもってして他国の国民や政策決定者の知覚を誘導する個人を利用した工作は「影響力工作」と呼ばれる。

こうした外国による工作に対応すべく日本政府は、専門の機関を設置している。内閣情報調査室、警察庁警備局、公安調査庁、防衛省情報本部などで、これらの専門機関が、さまざまな工作から我が国の安全と国益を守るべく、日夜、活動をしているが、主としてスパイ活動や破壊活動への対応が主であり、「影響力工作」対策は重視されてこなかった。

アメリカは一枚岩ではない。「ストロング・ジャパン派」と「ウィーク・ジャパン派」の対立、ホワイトハウスと国務省と国防総省、太平洋軍の違いを踏まえた対米アプローチを確立する。歴史見直しは、名誉回復、自国の正当化ではなく、自国のインテリジェンス能力の向上を目的としている。

2. 意味が変わってきた「リメンバー・パールハーバー」

1941年12月、日本軍が真珠湾攻撃をした当時、「卑怯な騙し討ち」
1948年チャールズ・ビーアド博士が『ルーズベルトの責任』を書き、「ルーズヴェルト謀略論」が登場。
1991年12月7日ハワイのアリゾナ記念館において、ブッシュ(父)大統領が参加して記念式典が開催。「攻撃」(attack)が問題に。

2017年9月アリゾナ記念館ビジター・センターの入り口に飾られている解説板。
《「迫りくる危機」 アジアで対立が起きつつある。旧世界の秩序が変わりつつある。アメリカ合衆国と日本という二つの新興大国が、世界を舞台に主導的役割を取ろうと台頭してくる。両国ともに国益を推進しようとする。両国ともに戦争を避けることを望んでいる。両国が一連の行動をとり、それが真珠湾でぶつかることになる。》(引用者の私訳)

一方、スタントン・エヴァンズらが2012年に『Stalin's Secret Agents: The Subversion of Roosevelt's Government』(未邦訳)を刊行

《ソ連による政治工作は、ソ連が我々の同盟国であり、反共防護措置が事実上存在しなかった第二次世界大戦中に最も顕著であった。これはぞっとするほどタイミングが良かった。親ソ派の陰謀がアメリカの参戦に決定的役割を果たしたのだから。この意味で注目すべきなのは、真珠湾攻撃に先立って共産主義者と親ソ派が行った複雑な作戦である。この1941年12月7日の日本軍の奇襲攻撃により、2千人以上のアメリカ人が生命を失い、アメリカは悲惨な戦いを始めることになったのである。》

3. ソ連・コミンテルンの秘密工作を警戒する連邦議会

1917年11月、レーニン率いるボルシェビキがロシア革命に成功し、史上初めての共産主義国家ソ連を建国し、同時に世界共産化を目指して国際組織「コミンテルン」を創設。

1938年、民主党のマーティン・ダイス下院議員が超党派の「非米活動及び宣伝調査特別委員会」を設置。
1948年8月22日第二次世界大戦中および戦後において政府機関内においてアメリカ共産党並びにその機関と協力し、ソ連に情報を提供したスパイ活動が存在した》とする中間報告書。

共和党のジョン・マッカーシー上院議員が1950年、「国務省内にいる共産主義者の名簿を入手した」と発言し、親ソ政策を進めた政府高官らの責任を追及したが頓挫。

1995年、「ヴェノナ文書」公開。
《今や相当な量に達したデータが示しているように、強力で邪な敵が、一九四〇年代半ばまでにアメリカ政府(およびその他の影響力のあるポスト)に無数の秘密工作員とシンパを配置することに成功した。これら工作員たちは政府の中でソ連の国家目的に奉仕し、アメリカの国益を裏切ることができた。》

4. スターリン工作史観

①【対日工作】
ゾルゲ機関による政治工作。赤軍情報部の工作員リヒャルト・ゾルゲが指揮する組織が、軍略上の日本の国策を「対ソ警戒の北進論」ではなく、「英米と対立する南進論」に誘導した。

②【対米工作】
情報機関NKVD(内務人民委員部の略称)による「雪」作戦。パブロフの指示により、財務次官補ハリー・デクスター・ホワイトがハル・ノートを作成。

《のちにKGB幹部のヴィタリー・パブロフが明らかにしたことであるが、彼はこの数ヶ月前にワシントンに行って、米日間の和解を阻むために強調すべき要点をホワイトに指示している。ホワイトは大して指示される必要もなく、強硬姿勢の覚書を何度も推敲して書き上げた。
比較すればわかるように、中国とインドシナについてホワイトが書いた(対日)要求項目は実質的にハルの提案と同じである。

パブロフとホワイトが面談した要点とハル・ノートの類似性は驚くべきものだ。パブロフが明らかにしたように、彼はホワイトに向かって、日本は「中国およびその周辺における攻撃をやめ」、「中国大陸からすべての軍隊を撤収」しなければならないと強調した。ハルの提案はこれと同じだ──「日本国政府は中国及びインドシナより一切の陸海空兵力及び警察力を撤収するものとす」。
日本がこれらの条項を受諾できないことをハルが認識していたことは、ハルが「これでこの問題は陸軍長官スティムソンと海軍長官のフランク・ノックスの手に──陸軍と海軍の手に委ねられた」とのちに語ったことから明らかである。》(引用者の私訳)

③ 【対中・対米工作】
ソ連の工作員ラフリン・カリーにより蔣介石の顧問として送り込まれたオーウェン・ラティモアが日米交渉を妨害した。

1941年の段階で、ルーズヴェルト大統領の意向とは異なり、アメリカの世論も米軍幹部たちも日米戦争を望んでいなかった。こうした動向を受けてコーデル・ハル国務長官は、なんとしても日米戦争を回避しようと、11月25日の段階までは、極めて穏当な暫定協定構想を進めようとしていた。ところが翌26日に突然、暫定協定案を放棄し、日本側にハル・ノートを提示している。その内容は、日本にとって最後通牒に等しい強硬なものであったが、その原案を作成したのは、財務次官補ハリー・デクスター・ホワイトであった。

11月26日のハル・ノートの手交によって日米交渉は事実上決裂し、その12日後、日本は真珠湾を攻撃し、日米は戦争状態に陥った。この25日から26日の間にいったい何があったのか。エヴァンズらによると、アメリカ政府の方針転換の背景に、ホワイトハウスのラフリン・カリー大統領補佐官と、重慶の中国国民党政府に顧問として派遣されていたオーウェン・ラティモアとが連携して実行したある秘密工作があったという。

11月25日、重慶に駐在している蔣介石顧問のオーウェン・ラティモアからカリー宛にこのような公電が届いた。

《どうか早急に(蔣介石)総統の極めて強い反対を大統領にお伝え下さい。総統がこんなに興奮したのを、私は見たことがありません。(ハル国務長官が作成した暫定協定構想案で示された日本に対する)経済制裁の緩和とか資産凍結の解除とかは、中日戦争の日本を軍事的に助けるもので、甚だ危険な措置です。……米国がここで日本と暫定協定を結ぶなら、中国人はアメリカへの信頼を失うでしょう。》
(長尾龍一『アメリカ知識人と極東』東京大学出版会、1985年)

エヴァンズらは、「このラティモアの公電こそが暫定協定案放棄の引き金であり、日米開戦への道が決されたのだ」と述べている。

ハル国務長官が11月25日迄は暫定協定構想を進めようとしていたのに、なぜ突然翻意して強硬なハル・ノートを日本側に手交したのか。エヴァンズらによると、ハル国務長官が「中国人が拒絶したから(中略)蔣介石が特別なメッセージを送ってきて、暫定協定が中国人にとって非常に印象が悪いと言ってきたから」暫定協定案を放棄したと自ら語っていたことを、ヘンリー・スティムソン陸軍長官が日記で述べている。

エヴァンズらは、この蔣介石メッセージの背景について、執拗に追及している。まず注目される点は、ラティモアを蔣介石の顧問として中国国民党政府に送り出していたのがカリー補佐官だったということだ。アメリカ連邦議会上院の国内治安小委員会『太平洋問題調査会報告書』(1952年)には、次のような事実がはっきりと記されている。《ラティモアを蔣介石の顧問として任命するよう最初に推薦したのはラフリン・カリーだった。

当時、国務省の極東外交の顧問だったスタンレー・K・ホーンベック博士は、カリーが博士にラティモアが任命されることになっていると告げたとき、反対意見を言ったと証言している。その際、カリーは自分がラティモアを推薦したと認めただけでなく、ラティモアの任命はもう決まったことなのでホーンベックが薦める候補者の任命は不可能だと述べた。カリーはさらにホーンベックに対し、ラティモア任命について国務長官とは相談すらしていないと認めた。》(引用者の私訳)

日米和平交渉を決裂へと追い込んだハル国務長官の対日政策の変更、この変更に決定的な影響を与えた蔣介石のメッセージを「作成し、アメリカ政府に送ってきた」オーウェン・ラティモア。このラティモアをアメリカ政府の代理人という形で蔣介石顧問のもとに送ったカリー大統領補佐官は、ヴェノナ文書によれば、ソ連の秘密工作員であった。

エヴァンズらは、日米開戦にはさまざまな要因があったので、もしこれらの工作がなかったら絶対起こらなかったかと言えるかどうかはわからないとしながらも、次のように概観している。

《これらのすべてにおいて、またしてもKGB[原文のまま。この時期はまだKGBではなく、正確にはNKVD]の隠された手を見ることができる。KGBは、すでに述べた理由により、日米間の緊張が決して緩和しないことを望んでいた。(中略)

従って、ホワイト、カリー、ラティモアら政府高官たちのグループが推進した政策は、東京のゾルゲ・尾崎ネットワークが推進した政策とぴったり符合する──すべてが、米日間の和解をなくす方向、より端的に言えば、日本にソ連を攻撃させない方向に向かっていたのだ。》(引用者の私訳) 

5. 独立国家としての学問であるインテリジェンス・ヒストリー

中国やロシア、北朝鮮などとインテリジェンスの戦いで対抗するということは、中国などを敵視することではない。敵視するのではなく、中国やロシア、北朝鮮の動向を懸命に調査し、分析し、できるだけ正確に理解しようとすること。機密情報を盗むスパイ活動と異なり、非公然の政治工作、影響力工作は「犯罪」として取り締まることは困難だが、その影響力は極めて大きい。

そこで欧米諸国では、外国勢力による非公然の政治工作、影響力工作に対抗すべく、そうした工作が国際政治や外交にどのような影響を与えてきたのかについて研究する学問が生まれている。「情報史(インテリジェンス・ヒストリー)」という。

《次の三点を「情報史」の定義としておくこととする。
情報史とは、まず「情報(インテリジェンス)史料」を主要な根拠として、歴史の過程(多くは国際関係の歴史)を明らかにしようとする研究、としてみたい。

では「情報史料」とは何か。それは、主として国際機関としてのインテリジェンス組織によって作成されたり、またはその活動に直接、言及した文書(多くは公文書)のこと、というぐらいになろう。

そして三つめに、そうした情報史料を作成したり、情報を収集・分析したりする組織、つまり情報機関それ自体や、その活動の仕方や歴史的な変遷などを実証的・学術的なアプローチから究明しようとする試みも、情報史学の本来的な守備範囲ということになる。》

(中西輝政『情報亡国の危機』東洋経済新報社、2010年)

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