歴声庵

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田辺昇吉著 「北関東戊辰戦争」

2007年10月21日 20時21分58秒 | 読書

 栃木在住の郷土史家が書かれた、野州を中心に描かれた北関東の戊辰戦争の著書です。郷土史家が書かれているだけあり、地元の資料をふんだんに駆使した内容になっているのが特徴です。また、筆者が旧日本軍陸軍で砲兵士官だった事もあり、戦略・戦術面について優れた分析をしている事が、本書の大きな特徴になっています。

 戊辰戦争について書かれた著書は多いものの、歴史家にとって軍事は門外漢のためか、軍事面について詳しく書かれた書物は故大山柏氏の「戊辰役戦史」くらいしか知りません。これは大山氏が元軍人だった為、その専門知識を駆使した為と思われますけれども、本書も筆者が軍隊時代に得た専門知識を駆使した説明をしてくれています。その説明も「復古記」等の資料を読み込んだ上で、全ての古戦場を実際に訪れて、地形を把握した上でそれぞれの戦いを分析する説得力のある内容でした。
 歴史家の先生方は各戦闘の結果により生じた影響等については詳しい説明をしてくれるものの、何故その戦いの勝敗が決したかについての説明は弱いのが実情です。そのような一般の歴史家の著書と比べると、元軍人の視点から各戦いの勝敗の原因を分析してくれる本書は、戊辰戦争の軍事面を調べる身としては興味深く読ませて頂きました。
 また筆者の歴史観もの公平さも、本書の特徴の一つです。本書では新政府軍の事を「西軍」と記述していますけれども、一方で旧幕府軍や奥羽越列藩同盟軍を「東軍」と記述しているのは、新政府軍を西軍と書きながらも、同盟軍の事は同盟軍と記述する会津贔屓の『小説家』とは一線を画する歴史観だと言えましょう。
 しかし一方で、土方歳三を過大評価していると感じた箇所が目立ちました。確かに土方は優秀な野戦軍司令官だと私も思いますけれども、土方が大鳥軍全体の参謀として、大鳥前軍の指揮を取っていたとの表記には最期まで首を傾げざるを得ませんでした。ただし盲目的な土方ファンが大鳥圭介を無能扱いするのに対し、筆者は大鳥の手腕を高く評価した上で土方の手腕も評価してるので、盲目的な土方ファンとは一線を画してていると言えましょう。
 このように本書は北関東という地域限定はされるものの、その内容は戦略・戦術分析に優れたものであり、戊辰戦争を調べる上での基礎資料である「戊辰役戦史」に匹敵する内容でした。北関東、特に野州の戊辰戦争を調べる方には必読と言っても過言ではないでしょう。