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遠い昔のTV番組を再現しようというムチャな試み

円城塔さん

2011-10-02 14:31:23 | SF

昔のことを語ろうと思ったら意識があちこち飛びまくり(早い時間から飲んだくれてたせいもあるが)、全然まとまらなくなったので今の話を先に行こう

これはペンです これはペンです
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2011-09-30

私が読みたいと騒いだせいでもなかろうが、円城さんの芥川賞候補作が新潮8月号に載った「良い夜」と合わせて1冊になったので早速ゲト、文芸書充実な通勤途上の本屋グッジョブ
常人とは全く違う精神構造の持ち主だった「良い夜」のお父さんと違って、「これはペンです」の叔父さんは普通にアタマのいいヒトである、小説の内容も何が書いてあるのかわからないなんてことは全然なく普通におもしろい、大森さんと豊崎さんが揃って本命に推したのも納得、これにXをつけた石原は選考委員を降りるべきだ(あ、これ前に書いたな)

語り手の「わたし」は大学生、自分を「姪」と呼ぶ叔父さんが時々世界各地から手紙をよこす、お母さんの弟だが会ったことはなく手紙だけを知ってるという意味で「叔父は文字だ」、ま、この子もかなり風変わり(というか興味深いという意味でもおもしろい)
叔父さんは文書作成ブログラムを開発した-と言ってもコンピュータに文章を書かせたわけではなく、既存の文章を継ぎ接ぎさせただけ、ただその文章は学術論文の体裁をとってて、いいかげんな雑誌に掲載できる、それをペーパーカンパニーならぬペーパー大学で学生に売ってもうけたのだ、実際にそんなことが可能かどうかはわからないけど、ホントらしく見えるだけの説得力はあると思う
コンピュータを仕事にしてるけど叔父さん本人の文章はいつも手書き、いろんな方法を試してて、ある時DNAを送って来た、ここへ村上春樹龍がかみついたというのだが、どこが気に入らないのかさっぱりわからない、DNAが翻訳できること、アミノ酸に一文字表記があること(たとえばスレオニンはT、同じTで始まるチロシンはY、トリプトファンはW)を知ってるヒトならアミノ酸を並べて文章を書いてみたくなるのは当たり前、ならない方がフシギじゃあるまいか?
もっとも試験管(たぶんプラスチックの栓付きチューブ)をポンと送られて中身がDNAだとわかるヒトはいない、ツッコミどころがあるとすればそこだろうが、そこは都合よく叔父さんの友人に分子生物関係の研究者がいて「わたし」の大学に勤めている、たぶん叔父さんはチューブといっしょに彼のところへ行けと書いて来たんだろね
しかしどこをどう読み取るかによって「解読のしかたは無数にある」、それは全くその通り、何か手がかりがあったのかどうかは記載がない(それが不満だったとか?そんなん答えがわかればいいんでクドい説明は不要だと思うけど)

ここでちょっと脱線すればアミノ酸は20しかないのでアルファベットのB,J,O,U,X,Zがない、叔父さんが送って来た暗号は人名だったからXやZはいらないかもしれないが、BとJはいりそう、また母音が二つ足らないのは不便(だから実際のタンパクを言葉として読もうと思うヒトはまずいない)、三つある終始コドンをOとUに割り当て、二つあるD(アスパラギン酸)の一つをB、三つあるI(イソロイシン)の一つをJと読む-と言った細工が必要になると思う

とまあこんな手の込んだことができるほど叔父さんにはおおぜいの協力者がいて、「馬鹿馬鹿しい研究を続けるための法人格(以下略)」を構成しているらしい、20歳になった「わたし」はそろそろそんな叔父さんとのつきあいを減らす時期に来たと思う、叔父さんもそれに賛成のようだし・・・オワリ

これはもう今まで読んだ円城作品の中でも飛びぬけて読みやすくわかりやすくてしかもおもしろい、はっきり賞ネライで書いたんだと思う、でも選考委員には「無意味かつアホらしい内容」と決めつけるイシアタマが多かったみたいね、大丈夫、純文の賞なんかとらなくても読者は必ずついて来るハズだから


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