【小説風】竹根好助の経営コンサルタント起業3 アメリカ初体験 3-1 いよいよ渡米、最初のカルチャーショック
■ 【小説風】 竹根好助の経営コンサルタント起業
私は、経営コンサルタント業で生涯現役を貫こうと思って、半世紀ほどになります。しかし、近年は心身ともに思う様にならなくなり、創業以来、右腕として私を支えてくれた竹根好助(たけねよしすけ)に、後継者として会社を任せて数年になります。 竹根は、業務報告に毎日のように私を訪れてくれます。二人とも下戸ですので、酒を酌み交わしながらではありませんが、昔話に時間を忘れて陥ってしまいます。それを私の友人が、書き下ろしで小説風に文章にしてくれています。 原稿ができた分を、原則として、毎週金曜日に皆様にお届けします。
【これまであらすじ】
竹根好助は、私の会社の後継者で、ベテランの経営コンサルタントでもあります。
その竹根が経営コンサルタントに転身する前、どのような状況で、どの様な心情で、なぜ経営コンサルタントとして再スタートを切ったのかというお話です。
1ドルが360円の時代、すなわち1970年のことでした。入社して、まだ1年半にも満たないときに、福田商事が、アメリカ駐在事務所を開設するという重大発表がありました。
商社の海外戦略に関わる人事案件なので、角菊貿易事業部長の推薦する三名を元に、準備は水面下で慎重に進められていました。その中に竹根の名前が含まれていることは、社員の誰もが思いもよりませんでした。
討議を重ねた結果、福田社長は、海外戦略にも関わる高度な人事の問題なので、専務と社長に一任してほしいと言って三者会談を終えることにしました。しかし、後日、角菊事業部長は、最終的に、自分が推薦した佐藤君ではなく、竹根に決まったと聞かされます。
一方で、角菊は、自分の意図とは異なる社長の結論に納得がいかないのですが、かといって、それをあからさまにすることはしませんでした。他方、竹根は角菊からの内示なしに、社内には竹根に白羽の矢が立っていることを知りました。
竹根に何の説明もなく、ニューヨーク駐在の人事発表が発表されました。海外経験のない竹根は戸惑うばかりで、どの様な準備をしたらよいのか途方に暮れていました。そのような時に、直接の上司である池永が再びアドバイスをしてくれ、準備を始めました。しかし、あっという間に出発の日が来たのです。
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【過去のタイトル】
1.人選 1ドル360円時代 鶏口牛後 竹根の人事推理 下馬評の外れと竹根の推理 事業部長の推薦と社長の思惑 人事推薦本命を確実にする資料作り 有益資料へのお褒めのお言葉 福田社長の突っ込み 竹根が俎上に上がる 部下を持ち上げることも忘れない 福田社長の腹は決まっていた
2.思いは叶うか 初代アメリカ駐在所長が決定 初代所長の決定に納得できず 竹根に白羽の矢 竹根の戸惑い 長池係長のアドバイス 急ごしらえの出張準備が始まる
■■ 3 アメリカ初体験
私の会社を引き継いでくれた竹根が、経営コンサルタントになる前の話をし始めました。思わず私は乗り出してしまうほどですので、小説風に自分を第三者の立場に置いた彼の話を、友人の文筆家の文章を通して、ご紹介します。
◆3-1 いよいよ渡米、最初のカルチャーショック
入社2年目という新人ながら、ニューヨーク駐在所長として派遣されることになった竹根好助の試練が始まります。
1970年12月、日本国際航空、通称JIAの二便は、DC8の優雅な姿で経由地のサンフランシスコに向かった。初めての飛行機であり、座席の背の倒し方、イヤフォンの使い方、テーブルの出し方、すべてがわからない。日本からの飛行機なのに、周りは皆外国人である。日本人にとっては、海外に行くことは、別世界に行くに等しいくらい、一般の人にはかけ離れたことである。
竹根は、通路側の席であったので、一列まえの斜め右に見える席に座っている人のやり方を見て、参考にすることにした。その人のやり方を、見よう見まねで竹根も試し、それを繰り返すうちに、次第に要領がつかめた。
夕食が早速出されたが、洋食である。竹根は、洋食と言ってもカレーとかカツくらいしか思い当たらない和食育でぃできた。トレーに乗せられて出てきたのが、見たこともない、カタツムリを長く伸ばしたようなパン、あとでわかったのだが、クロワッサンというのだそうだ。パンと言えばコッペパンを連想し、口の中でネチネチッとした食品を思っていたら、パリパリッとしたパンで、その感触は初めての体験である。
大きな黒豆のような物が二つトレーに載っている。楊子にセロファンで作られたピラピラが飾りに付いていて、その先にその黒い物体が一つ、突き刺さっている。おそるおそる口に近づけて、においをかいでみた。何となく酸っぱい香りがした。一息入れて、意を決して、口に運んだ。そっと噛みしめたそのとたん、これまで味わったことのない風味が口の中に広がった。種があるらしく歯に当たった。でも、うまいとは思わないが、嫌な味ではなかった。アメリカの梅干しみたいな物であろう。あとで聞くと、地中海産のオリーブの実だそうだ。
その隣には、セロファンで包まれた、直径四センチほどのうすべったく丸い物がある。ガサガサとセロファンを開くと、つるりとした平べったいゆで卵様の物が出てきた。においをかぐまでもなく、セロファンをとくとすぐに臭ってきた。今までに嗅いだことはないが、何となく白菜の漬け物のような香りである。どうやらチーズらしいということはわかったが、それ以上食べる気にはならなかった。
トレーの上に、横たわった瓶が置いてある。おそるおそるキャップをねじ開けると、柔らかい香りがする。コップに流し込むと、ルビー色をした液体が出てきた。たぶん、葡萄酒だろうが、竹根がそれまでに嗅いだことのある葡萄酒とはちょっと違う。下戸ではあるが、どのような味がするのか興味が湧いてきた。口にちょっと含んだが、酸っぱい!はき出したくなったが、そうするわけには行かないと自制した。
――この葡萄酒は腐っている。葡萄酒というのは、甘い酒であるはずだ――
日本の葡萄酒は、甘味料で甘く加工されていることを竹根は知らないので、葡萄酒は甘い物と信じ切っていた。でも、葡萄酒が腐っていると言うことをスチュワーデスには言わなかった。
とにかく、何とか、おなかをふくらませることはできた。
インスタントコーヒー以外は、喫茶店でしか飲んだことがない。そのコーヒーが何杯でもおかわりできるという。二杯までは嬉々として飲んだが、もうこれ以上は結構と思った。
<続く>
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